第75話 お帰り、コンちゃん

 私たちのために一度だけコンちゃんは本気で相手をしてくれた。 それは、私たちが強くなるために必要だと思ってコンちゃんに提案した。 コンちゃんは頭を掻きながら「手も足も出ないと思うぞ」と言っていた。 私は「やってみないと!」と言った。

 結果だけを言うと本当に手も足も出なかった。 私は何をされたかわからず、負けていた。 コンちゃんはただ一言「呼吸を盗んだだけだ」と言っていたけどそれだけじゃない、呼吸を盗む以外にも魔法の発動タイミングを悟らせないといった圧倒的な力の差を見せつけられた。 私は、負けて悔しいという気持ちとこれが私の師匠だという誇らしい気持ちが沸き上がった。 だから、目の前にいる相手は、コンちゃんじゃない別の何かだ。


「悪いけど、コンちゃんは返してもらうよ!」


 そう宣言して私はコンちゃんに向かって『ファイア』を使った。 下級の魔法なんてすぐにはじかれるだろう。 そんなことわかってる。 これは、ただの時間稼ぎに過ぎないのだから。

 私の予想は正しく、アオイの剣をはじきながら私の『ファイア』をきれいにはじいた。

 はじかれたのを確認すると同時に次の魔法を発動させる。 


「精霊魔法『絡みつく根たちバインド・ウィムプ』」


 そう唱えると、コンちゃんの足元から木の根っこが絡みつきながらコンちゃんを縛っていく。 コンちゃんは燃やそうとするけど燃やすよりも早く木の根がコンちゃんの身体をからめとる方が早かった。


「これで動けないね。 さっきは手足だけだったから無理だったかもしれないけど、全身じゃあ抜け出せないよね」


 そう言いながら、私はコンちゃんに歩み寄った。 アリシアさんはカルディとの戦いの余波が来ないようにか、普通に戦っていたらどこかに移動しているかのどっちかだろう。

 どうにかして抜け出そうともがいているコンちゃんを触りながら魔法を発動した。


「焔魔法『呪解の炎レイスルド』」


 すべての状態異常を燃やすという便利な固有魔法オリジナル。 それでも、状態異常の強さによって必要な魔力量が変わってくるけれど。


「コンちゃん、お帰り」


 コンちゃんは意識の糸が切れたのかぐったりとしてしまった。

 私は、精霊魔法を解いて支えを失って倒れてくるコンちゃんを抱きしめた。


「良かった、コンちゃんが無事で……」


(コンちゃん視点)


 気が付くとロゼに抱きしめられていた。 ちょっとした魔法で操られている間の記憶は覚えている。 まぁ、正直に言えば見ない方が良かったかもな、って思ってたけどね。

 その、ロゼなんだけど、泣きながら俺を抱いているから、勝手にここにきて勝手に敵になったりしてたから、罪悪感がすごいことになっている。

 何したらいいかわからない俺がオロオロしていると蒼と目があった。

 俺が困った顔をすると蒼はえへへ、と笑うとジェスチャーで抱き着いてあげてと言ってきた。

 俺は覚悟を決めてロゼを抱き返し、頭を撫でた。

 俺が目覚めたことに気が付いたロゼは、はっと顔をあげてこちらを見て、嬉しそうに笑った。 すべてを覚えているからその笑みがすごく心に来る。


「ありがとな、ロゼ。 俺を助けてくれて」


 うんうん、と泣きながらうなずいていた。 ロゼが泣き止むまで頭を撫で続けていた。

 目元を真っ赤に泣きはらしたロゼが俺の頬をつねっていた。 痛くはないけど、しゃべりにくい。


にゃにふんだほ何すんだよ


 頬を引っ張られながら俺はロゼに抗議した。 抗議した俺に先ほどの嬉しそうな笑みとは打って変わり冷ややかな笑みを向けられていた。


「コンちゃん、私怒ってるのわかるよね?」


 ロゼに気おされながらもドウドウと落ち着けようとした。

 今回は、俺が十零で俺が悪いことが分かっているから何も言わない。 落ち着けとは言うけど、今回に関することには弁護することができない。 相手がだれかわかってしまった今、あれが最善だと思ったからやった。 俺一人だと、逃げることも出来なかったから、ロゼたちに俺の救出という名目でここに来てもらったというわけだ。


「お前の言いたいことは分かる。 だがな、あいつらが見ているってのと、アリシアを探さねえといけないからな」

「わかってる。 じゃあさ、この戦いが終わったら、私の話を聞いてよ」

「じゃあ、勝たなきゃな」


 ニシシと笑って部屋の隅っこで俺たちの戦いを見ているしかできなかった祐樹と結衣の二人と共にアリシアがっ戦っているであろう場所に向かっていった。 俺の耳だと、二人が戦っている場所がわかる。 そこから、剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてくるのが分かるから。

 そこに向かって走っていった。 途中、祐樹と結衣が俺たちについて行けずに話せれるということがあったけど、それも想定内である。

 

「何でついてきたかって聞かないんだ、師匠」

「んあ? ああ、お前たちは魔王を倒した後に出てくるゲートじゃないと帰れないからな。 アリシアが無理言って連れて来たんだろ?」


 少し重めのため息をつきながら、俺たちの後ろを必死についてくる二人が死なない事を祈った。

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