第37話 近寄んじゃねぇ!!

「待てや!!」


トレントを燃やしたところで、俺たちの後を追ってきたゼァーラの冒険者たちが追い付いてきた。


『逃げても無駄だろうな』

「そうだね。 私たちが逃げてあの人たちがここにいる魔物に襲われたら嫌だもんね」

『あぁ、そうだな』


鬼のような形相でこちらに向かって来る冒険者が俺たちを囲んだ。


「やっぱりお前はこの森について知っていたか!」

『あぁ、知っていたさ』

「ーーッ!?」


俺が喋れることに驚いた冒険者を横目に俺はとある魔術を一言一句間違えることなく唱えた。

この魔術は、俺が妖狐になった時から目標にしていた魔術で変身系の魔術。 つまり、この時俺は人の姿をとることが出来るようになった。 まあ、樹精霊ドライアドの魔力のおかげなので樹精霊ドライアドがロゼから離れれば俺は人になることが出来ないが。


「こっちの方が話しやすいだろ?」

「な、な、なっ!?」

「コ、コンちゃん! とりあえず着て!」


ロゼは人になった俺の後ろからガバッとローブを羽織らせてきた。


別に男の姿をあの冒険者に見せても何にもなんねぇだろ?


そう思ったが、がフードの端から出てきた。


「え?」


俺は圧倒的な違和感を感じて胸部、あそこと触っていった。

上はあり、下は無くなっていた。


上があって……下がない……? 嘘……だ……ろ?


ガクッと両手を地面について絶望したが、冒険者たちにとっては格好の的になったようだ。


「へへっ、女の魔物か。 こいつらは捕まえて壊れるまで遊んでやんよ」


俺はイヤイヤと頭を振りながらもその事実は俺を認めさせようとにじり寄ってきた。


「近寄んじゃねぇ!!」


俺がそう叫ぶと俺とロゼを囲っていた冒険者たちを突然飛び出してきた根が縛り上げた。


『まったく、人の魔力を使っておいてなんてざまですか、グレン。 女になったぐらいであなたの価値は下がるのですか?』


突然虚空から声がかかり樹精霊ドライアドが現れた。


樹精霊ドライアド!」

『彼らはこの森の入り口に放っておくので、グレンとロゼはこの奥の迷宮へ』

「わかった! ありがとうな!」


樹精霊ドライアドは冒険者たちの意識を一人一人刈り取って行き全員意識を刈り終えると再びロゼの中に消えていった。


「先に行くぞ」

「ふふっ、よかった。 いつもの調子に戻って」

「少しだけな少しだけ」


俺はロゼにそう言い森の中を走り出した。

だが、人になった俺は裸足だ。 森の中を走り回るだけで足のあちこちに怪我をしていた。


それでもなんとか、俺たちは迷宮へとたどり着いた。


「ここが迷宮?」

「入るぞ。 中はそれほど大きくないけどな」


ここは、俺が人としての最後を迎えた迷宮。 ボスの顔を見たことはないが多分妖狐、しかも九尾だろう。

でなければ、俺が九尾の妖狐になるわけがないのだから。


「着いた。 ここがボス部屋だ」

「は、入っていいの?」

「大丈夫だ。 もうボスはいないからな」


俺は不敵に笑ってボス部屋を開けた。

ボス部屋を開けた先にあったのは魔道具や魔力を帯びた袋などが散乱していた。


「え〜っと、これは……」

「俺の荷物だな」


近くにあった灰色のローブを簡単な魔法で女性サイズに仕立て直して着た。


「『水鏡』」


俺は水鏡を使い自分の姿を見た。

そこには、狐耳で茶色っぽい薄茶色のロングヘアーをしていて瑠璃色の瞳を持つ女性がそこには立っていた。


ふむふむ、胸は大体Bぐらいか……って何やってんだよ俺!


俺は頭を抱えながら悶えていた。


「ね、ねぇ、コンちゃん。 これからどうするの?」

「そうだな、まずは……あったあった。 飯にする!」


魔石を原料とする携帯型の焜炉コンロと魔力を帯びた袋を持ってそう言った。


「料理出来るの?」

「おう、作るからちょっと待ってろよ」


そう言って俺は料理を作った。


そして、食べ終えると。


「思ったより美味しかった〜」

「思ったよりは失礼だろ」

「で、これからどうするの?」

「そうだな。 まずは、樹精霊ドライアド樹人トレントを魔物に変えたやつを見つけないとな」


俺は地面に落ちている自分の荷物を漁りながらそう答えた。

俺は今、ここに落ちているはずのとある魔道具を探している。 時空間魔術で収納していないからここにあるはずだがなかった。 ここには、俺以外誰一人として来たことがないはずなのにここにないとなると一体どこに消えてしまったのか。


『もしかして、グレンが探しているのは『魔力の腕輪』ですか?』

「おー、それそれ。 『魔力の腕輪』魔力が上がる魔道具なんだけどどこにあるか知らない?」

『分かりませんが、ここには初めからなかったような気がします』

「そうか、森の守護者がそう言うんならそうだろうな」


俺はそう納得して、散乱している魔道具を空っぽの魔力を帯びた袋に収納していった。


「コンちゃん。 それ何?」

「これは『収納袋』時空間魔術を付与されていて中が大体家が一個入るぐらいじゃないか?」


この袋は満タンになったことがないためどれくらいかは覚えていないが確かそのぐらいの規模でこれを作ったような気がする。


「欲しいのか? 欲しいんだったら、そこへんに転がってる袋の中身を全部出せば一個ぐらいやるよ」


俺はそう言って、魔道具を収納していった。

ロゼは、たまたま中身のない空の収納袋を拾い上げていた。

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