学院編

第12話 ありがとうございました!


「気持ち良さそうですね」

「はい。 気持ちいいんだと思いますよ」


俺の頭の上でそんな会話がされていた。

現在俺たちは、王都に向かっている。 その王都に向かう馬車の中のメンバーが、勇者、聖女、ロゼと俺といった、よくわからないメンバーとなっていた。

聖女とロゼは、編入書をもらうまでの三日間ほぼ毎日一緒に冒険などをしていたから分かるが、なぜ、ずっと俺を睨んでいる勇者と一緒にいないといけないんだ?


「こーら、暴れようとしないでよ。 あと少しで王都に着くんだからね? それまで我慢してよ」

「キュ〜(勇者をどうにかしてくれ)」

「うんうん、分かったの? 偉いね」


あー、もう! 聖女と勇者がいなかったら、念話で話せるのに! あの二人がいるから、会話が成り立たない。


俺が、一人拗ねたように廃れていると、行者台の小窓が開いた。


「皆さん、王都が見えてきましたよ!」

「本当ですか!」


ロゼが食いつくように、馬車の窓から外を見ていた。


「うわぁ〜、すごく大きい!!」

「ふふ、ロゼさん、そんなにはしゃがなくても王都は逃げませんよ」


聖女は、はしゃいでいたロゼを見て、笑っている口元を隠しながらそう言った。


「あ、ごめんね、ユイさん。 一人勝手にはしゃいで」

「いいのですよ、それに王都に着いてもあまり長居は出来ませんよ?」

「分かってるよ、もちろん」

「それだといいんですけどね」


俺は、聖女に忠告されているロゼを見て苦笑いをしながら、窓から見える王都を見ていた。


♦︎


「ここでお別れです」


王都に入ってすぐの大通りに降ろされた、俺たちは、聖女と勇者、偽賢者の弟子に別れの挨拶をした。


荷物は大荷物で、聖女が荷物を見たとき、「バックパッカーみたいですね」と、言っていたがなんのことかは何も聞かなかった。


「ねぇ、コンちゃん。 この後は、どうするんだっけ?」

『この後は、ターミナルってとこに行って、蒸気機関車に乗る手はずだ。 たく、覚えとけよ』


俺は、ため息をつきながら、この後のことをロゼに言った。 そのロゼは、今何時!? と、慌ててここから見える時計塔を見ていた。


『まだ時間はある。 ゆっくり行っても間に合うが、寄り道はできないぞ?』


そう言うと、ロゼは胸を撫で下ろしターミナルへと向かって歩き出した。


一歩街の中を歩き出せば、田舎者からすれば、宝石が詰まった宝箱のような空間が、王都に広がっていた。


「見てみて! コンちゃん! 武器とかの装備品が飾ってあるよ!」


まず最初にロゼが食いついたのは、ガラスのショーケースに入った装備品だった。


『そうだな、一応盗難防止のために、ショーケースに入れられているがな』

「へぇ〜、すごいね! あっ! あそこにも、珍しいものがあるよ!」


ショーケースの次は、スイーツ店だった。

くっ、この体じゃなかったら、今すぐここに駆け込みたいが、この体じゃ入れないし、時間に遅れてしまうしな。


俺が入りたい欲求との戦いをしていると、ロゼが、「入る?」と聞いてきたので、『時間がない急ごう』と、奥歯を噛み締めながら言った。


「なんか悔しそうだね」

『そんなことはない』


ハイハイと、流してもらえたものの、妙な勘ぐりをされそうで怖かった。


それから、色々なものに目移りするロゼに、急げ急げと、催促しながら、ターミナルへと向かっていった。


ターミナルは、どこかの貴族の屋敷と勘違いするぐらい大きく、貴族街と平民街を隔てる場所にあるため、貴族もたまに乗ってくる。

そのターミナルで、俺とロゼの二人は魔法学院行きの蒸気機関車がどこから出るかわからないでいると後ろから、


「君、迷子?」


と、声をかけられて振り向くと、黒髪ショートで、ガラスを二つ目に掛けているロゼより少し年上の美女がいた。


「え? は、はい」

「君はどこに行く予定なのかな?」

「えっと、魔法学院行きの蒸気機関車に乗る予定です」


そうロゼが言うと、美女の顔に少し陰りが出来たように見えた。 だが、その陰りが嘘のようにパッと華やかな笑みを浮かべ直した。


「そうなんだ。 私と一緒だね。 もしかして、編入生?」

「は、はい。 そうです、アオイ・アキシナ様に会うために編入する予定です」

「そうなんだ」


美女は複雑そうな顔をした。 まるで、希望に添えなくてごめんね。 と物語っているよだった。


「そっかてっきり、私が知らないだけの人かと思っちゃったよ。 でもよかった、私も学院行きの蒸気機関車に乗るから、私について来て」


そう言った美女の顔は、何事もなかったかのように、愛想良い顔が張り付いていた。 そして、俺はこの顔が、うさん臭く、嘘っぽく見えたのは俺だけだろう。


「あの、すみません。 案内してもらって……」

「いいの、いいの! 私が好きでやっただけだから、私は、この後友達と会う約束があるからここでお別れだけど、奥に行けば個室があるからね」

「はい! ありがとうございました!」


ロゼは、深々と頭を下げて、個室がある奥の方へと進んでいった。


『あー! うるせー!』

「たしかにうるさいけど、これはこれでいいと思うよ私は」


個室に着いた途端に、俺は耐えきれずにそう言ってしまった。 そこに被せるように、ロゼは、同意とも否定とも取れる意見を言った。


『これから、七時間ずっとうるさいんだぞ? 耐え切れるわけねぇよ! こんなもんなら来なかったらよかった』

「ダメだよ! コンちゃんが、アオイ様に会いたいって言ったんだから。 それに、コンちゃんが居ないと、私魔法について何にも知らないままだよ!?」


そうだなーと、適当な相槌をうち、ここから七時間どう過ごそうかと、考える俺であった。



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