第11話 え、え、は、はい?

「このクソ獣が!!」


トゥ!っと、自分が落ちていた穴から出てきてそう言った。


あと少し、あと少しでいける。 だが、その前にどうやって足止めをする! アホ! 俺らしくもねぇ、その場で考えろ。 そして、冷静に周りを見ろ。 使えるものはなねぇか、くまなく探せ! ……あった! ひとつだけ使えるものがある!


『『水鏡』!』

「クッ! また、カウンター系の魔法か! 同じ手は食わねえぞ!」


そう言って、勇者は水鏡を左に回り込むようにロゼに接近する。 狙い通りだ。

そう思い、無意識に笑ってしまった。 今のを見られていたら、全てが無に帰ってしまう。


『ロゼ、短剣を借りるぞ!』

「え、え?」

『いいから集中しろ!』

「はい!」


俺は、ロゼの腰から魔猪ファングの解体に使った短剣を抜き取った。

血はしっかりと拭き取っているから綺麗だぞ?


「フィ!(この一撃にかかっている!)」

「獣が短剣を持ったからって、俺に勝てるわけじゃねえよ!」


俺の短剣を無視して突き進もうとしたところで、俺は勇者の足の甲に短剣を刺した。


「ッ!!?」


勇者の顔は、痛みによる悲痛な顔が四割、なぜ俺が短剣を刺せたのか疑問に思う顔が六割だった。

答えは簡単だ。 俺が身体強化系統の魔法(火、風、光の混合魔法)を使ったから刺すことが出来たのだ。

でも、これで魔法はもう使えない。 走ることぐらいしか出来ない、あとは、ロゼに全てがかかった。


「コンちゃん! 準備完了!」

「キュ!(わかった!)」


俺は、ロゼの近くまで戻ると、ロゼが。


「コンちゃん、魔法の制御頼めるかな? 制御に自信がないんだよねぇ」

「キュ(お前なぁ)キュキュ!(いいぜ!)」

「うん、ありがとう。 それじゃあ行くよ!」


歩けなくなっている、勇者に照準を合わせ、深呼吸し、魔法を発動した。


「行け! 『拳岩』!」

「グホッ!!」


大きな拳の形をした拳は、勇者の全身を捉え、大きく弧を描きながら飛んでいった。


まだ気を抜くなよ! ロゼ!


そう願ったからか、気を引き締め起き上がってくるであろう勇者に向けて魔法を放つ準備をしている。


「あれ?」


何十秒経ったかわからない。 そう声を出したのは、ロゼだが俺もそう感じた。 飛ばされた勇者が起き上がってこないのだから。


「……気絶しています。 この勝負! 勝者、ロゼ!」


は〜、疲れた〜。 この姿になって初めてこんなに疲れる戦いをしたよ。 やっぱり、弱くなったんだな俺。 あの程度のやつだったら、一発なのになぁ〜。


と、どうでもいいことを考えていると、ロゼが、


「勝ったの? 勝ったのよね? 勝ったはずよね?」

『あぁ、勝ったよ』

「か、勝てたーーー!!」


ロゼが、そう言うと、周りの見物人達がワッ!と盛り上がった。

俺は、見物人を見渡していると、一人ここにいるはずのない見知った顔がいた。


なんで、あいつがここにいる。 なんで、ここに『』がいる。 あいつがここにいるはずがない! あいつは、東にいるはずだ。


「コンちゃん!」


俺が剣姫を探していると、後ろから絞め殺す勢いで抱かれた。


『痛い痛い! 決まってる決まってる』

「あ、ごめん。 勝てたことに嬉しくてつい」


今度は優しく抱き込むように持ち替えた。

そのロゼの表情は、嬉しさを全力で表している顔だった。


『おめでとう。 ロゼ』

「それは、こっちのセリフだよ。 私一人だったら、勝てなかった。 でも、コンちゃんがいたから勝てたんだよ?」

『そうか、そうなんだな』


俺は少し照れくさそうにはにかんでいた。


「おめでとうございます。 ロゼさん」


そう拍手をしながらやってきたのは、聖女と呼ばれている結衣だった。


「ありがとうございます。 聖女様は、勇者様の方に行かれなくて大丈夫何ですか?」

「あ、えーっと、まずは、私のことは聖女って呼ばないでもらえるかな? 聖女って呼ばれるのは、むず痒くて……」

「は、はい! ユイ様!」

「あと、敬語もいらないからね?」

「え、でも」

「いいから、いいから」


聖女の言葉に困惑しながら、話しているロゼを見て少し笑っていると、


「この子は、人のように表情が豊かですね」


まさかの矛先がこちらに向き、頬がひきつるのを抑えて聖女に向き直った。


「え、えぇ、そうなんですよ。 この子と出会った時からこうなんですよ」

「……へぇ、そうですか」


ゾクッと、背中から鳥肌が立つのを感じた。 まるで、天敵を目の前にしているかのような……


「ところで、勝利者報酬は何にしますか?」


強引にも感じる話題転換をされて俺とロゼの二人は少々呆気にとられてしまった。


「勝利者報酬ですか。 報酬はですね」


そう言うと、チラッとこちらを見るので、頷いておいた。


「報酬は、アオイ様のいる所と、そこに入るための許可証のようなものが欲しいです」


これは事前にロゼと相談して話しておいたことで、ロゼもしっかりと納得してくれている。


「そんなものでいいのですか?」

「そ、そんなものって! 全然そんなものではないですよ!」


聖女が頬に人差し指を当ててそんなことを言うと、ロゼが慌てて否定した。


「そうですか。 まず、蒼ちゃんは、魔法学院で魔法について学んでいます。 つまり、ここに入る許可証のようなものは、編入書でいいですよね? 私と祐樹と賢者のお弟子さん、四人の署名付きのを」

「え、え、は、はい?」


聖女がまくし立てるように早口で言うため、ロゼが混乱してしまった。


「それでは、それを用意次第そちらに伺いますのでよろしくお願いします」


そう言うと、聖女は踵を返して勇者の元に向かい出した。


「な、なんか嵐のような人だったね」

『そうだな』


嵐のようなやつだったが、あのゾクッとした時のことは忘れてはいけない。 俺の天敵だ、あの聖女は。


疲れた。 今日は宿に帰ったらすぐに寝よう。 冒険者ギルドへの用事は明日済ませるようにロゼに言わないとな。


「コンちゃん。 帰ろっか、もうクタクタでさ、冒険者ギルドに用があっただけなのに、こんなにも大きなことになっちゃったね」


ふふっと、笑ってロゼと俺は帰路に着いた。


学院への編入書は、それから二日後に届いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る