第39話 カルディのやつを倒す!
俺はロゼの正気を疑った。
それほどまでにあり得ないと思っていたことを言われたのだから。
俺はロゼの胸に顔を押し付けた。
今の俺の身長は、ロゼよりも十センチ以上も小さいため必然的にそうなる。
「行かないでくれ」
「ううん。 私は行くよ」
「頼む行かないでくれ」
俺のことはだんだんと悲痛にそして、嗚咽の混じった声となっていった。
「もうこれ以上、大切な人を失いたくないんだ。 いつも大切な誰かが俺の目の前で死ぬ。 もうそんなのは嫌なんだよ! だから、だから、行かないでくれ、ロゼ!」
俺はロゼの肩を掴んで行かないでくれと懇願した。
だが、ロゼは。
「行くよ、私は。 コンちゃんを守るためだから」
「あっ……」
ロゼが遠くに行ってしまう。 こんな情けない俺を置いて、過去のことをズルズル引きずって進んでいく俺と違って、自分自身の道を歩いて行っている。
「頼む、行かないでくれ! 俺を一人
このままロゼを離せば二度と届かない場所に行く。 ただそれだけがわかっていた。 だから、俺はロゼを離さなかった。
俺はそう感じているだけで嗚咽から変わり完全に泣いていた。
「大丈夫だよ。 私は死なない。 だって、コンちゃんとアリシアさんの弟子だよ? 私は死なないよ。 だって、コンちゃんが守ってくれるんでしょ?」
頭を撫でられ、ロゼに子供をあやすようにゆっくりと語りかけていた。
実際にこの時の俺は、カルディによって心を壊されていた。 だから、俺はロゼに師匠らしくない見っともない姿を見せていたのだと思う。
「落ち着いた?」
その声はとても優しく、俺のことを気遣ってくれている声だった。
「あぁ、すまねぇ見っともない姿を見せたな」
俺は泣き終わり落ち着いていた。 それに、いつも以上に頭が冴えていた。
「覚悟は決めた。 カルディのやつを倒す!」
バシィン!と、自分の拳を自分の手のひらに打ち付けた。
「ふふっ、コンちゃんはそうでなくっちゃ」
ロゼは自分の笑みを隠すように笑いながら外へと目を向けた。
「行こう。 カルディの元に」
「おう!」
俺は自分の真実へと繋がる道を歩み始めていた。
例えそれが破滅の道だったとしても……。
♦︎
「ロゼ、あいつの居場所分かるか?」
「うん、なんとなくだけど分かるよ」
ロゼは
「う、うわぁぁぁぁぁ!!」
近くで悲鳴が聞こえた。
「いけない! 誰か襲われてる!」
「あいつにか!」
「うん!」
クソ! 俺たちを追ってきたやつが襲われたのか。
ふぅ、もう覚悟を決めたんだ。 カルディのやつに俺のことを聞く! そして、あいつを倒す!
「大丈夫か!」
「ひっ、た、助けてくれ! 死にたくない!」
襲われていたのは赤毛の髪をした、まだ冒険者になりたてのような少年がアンデットたちに群がられていた。
少年は俺たちを見つけるとこちらに手を伸ばしてきた。
「待ってろ!」
俺は短剣を抜きアンデットの群れに突っ込んだ。
俺の短剣にはそれほど強い効果が付与されているわけではない。
短剣には『身体能力強化』と短剣の切れ味をあげる『斬鉄』の二つしか付与されていない。
俺はその二つの付与だけでアンデットたちを圧倒させていた。
「コンちゃん! しゃがんで!」
「ッ!? おう!」
しゃがんだすぐ上を火が通り過ぎた。
ロゼが放った火は俺に向けて放たれていた木の根に着弾した。
「ギュアァァァァ!!」
うお! 近くにいたのかよ! ロゼには感謝だな。
「ほう、なかなか面白いですね」
「ーーッ!?」
俺はしゃがんだ状態から右側に数回転がって飛来してきたものをかわした。
飛来してきたものはカルディだった。 しかも、カルディは俺の位置がわかっていたのか俺がいた場所にズゥンと着地した。
「カルディ!!」
「姫様を返してくれる気になりましたかな?」
「いや、お前を倒しにきた!」
俺がそう言い放つと、カルディはハッハッハと愉快に笑った。
「私を倒すですか。 ええ、良いですよ。 そんなに震えていますけどもね」
「チッ!」
カルディの言葉通り俺はカルディの姿を見た時から身体が震えていて、今にも腰を抜かしそうになっていた。
「あぁ、倒せるさ。 俺一人じゃないからな」
チラッと後ろで魔力を練っているロゼを見た。
「そうか、そうなのか……」
カルディはさらに笑みを深く刻むと片腕でなぎ払った。
「うっ……え?」
周りを見るとアンデットだけがこの場に消えていた。
「ふむ、何を惚けているのだ? 私はあなたたちと本気で戦ってみたい。 その上であなたの心を折りたい。 そう思っているのですよ? それを、お荷物を庇いながらあなたの心を折ることは出来ないでしょう?」
「ふざ、ふざけんな! この場に荷物なんてねぇよ!」
「本当にそうでしょうか?」
カルディはそう言うと、この場から一瞬で消えて赤毛の少年の目の前にいた。
「やめーー」
「ほら、お荷物ではないですか。 ですから、彼が逃げるまでの時間ぐらいはあげましょう」
カルディはそう言うと赤毛の少年からは離れ、森の中へと消えていった。
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