第72話 ロゼ・アルバレス
私たちのパーティーは、アオイ、アリシアさん、私の三人パーティーからユイさん、ユウキ様が加わり五人パーティーになった。 今までに比べるとそう変わっていないかもしれないけど、前衛が二人、中衛が一人、後衛が二人というちょうどよいパーティー構成になっている。 コンちゃんがいた時だと、私とコンちゃんだけだったから特に問題はなかったけど、パーティーとしては初めてだからうまく合わせられない気がする。
「アリシアさん、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。 あの二人が前より強くなっていることは分かっているでしょ?」
「それはそうですけど、ただ、うまく合わせられるかが不安で」
私が馬車を操っているアリシアさんにそう言うとアリシアさんはおかしそうに笑い出した。
「どうして笑うんですか」
「アハハ、ごめん。 まさかあいつの方がお前に合わせていたなんて思うと笑えてね」
「一つ訂正しますよ。 私もコンちゃんも合わせたことなんてないですよ。 ただ、お互いにやりたいことが一致していたというだけですよ」
「それもそうか、私と一緒に居た時は合わせるのが大変だったからね」
アリシアさんは懐かしそうに語っていた。 前に話を聞いた時にはテツさんの事以降お互いに口もきかなかったと聞いているけど、ミルドさん経由でお互いの事を聞いていたとミルドさんが教えてくれた。
それに、ミルドさんはアリシアさんとコンちゃんの関係の事を凸凹コンビとも言っていた。 二人はちょっとしたことですぐに喧嘩して何時もミルドさんが仲介に入っていたと言っていた。 それから、コンちゃんはアリシアさんと組んでいた時の方が強かったと言っていたけど、私と組んでいるときは本当に気持ちよさそうに戦っていると言っていた。 アリシアさんに勝てるところなんてないと思っていた私からすればそれはとてもうれしいと思ったし、もっと頑張って英雄グレン・マーカー・マーリンの隣に立てるようになりたかった。
「そう言えばアリシアさん、どこに向かっているんですか?」
「ん、元アルバレス領」
「え……」
思わず顔に出てしまった。 とてつもなく気まずい、アリシアさんは私の故郷だと知らないはずだから、なおさら気まずい。
「そうね、あなたのお父さんの話をすることになるわね。 ロゼ・アルバレス」
「……え!?」
アリシアさんにそう言われて少しだけ反応が遅れた。 何故、アリシアさんが私の家名までわかっているのかがわからなかった。
「あなたのお父さん、リーホウ・アルバレスはこの国で唯一あいつと対等な立場にあった。 これは、あいつの方からの願いだった。 哲哉が眠る場所を管理しているからだった」
「ちょ、ちょっと待ってください! 哲哉さんが眠るってどういうことですか! 私はお父さんからそんなこと聞いたことありません!」
私はわけもわからず、アリシアさんに向かって声を荒げてしまった。 歴史から抹消された前勇者の哲哉様が元アルバレス領に眠っているとは思わなかった。
「それはそうでしょ、哲哉は歴史から消されるほどの大罪人そんな奴を公にできない連中が決めた場所がアルバレス領だったわけ。 そこで、あいつは哲哉の墓を管理してもらう側だからって、対等な関係でって言ったわけ。 それが百年以上続いてあんたのお父さんに継承されてたのよ」
「黙っている意味がないじゃないですか……」
「契約で現当主しか知ってはいけないのよ」
アリシアさんは力なく笑っていた。 私もこんな話ではなかったらよかったのにと思ってしまう。 だけど、私も知らなくてはいけなかったことだった。
「ありがとうございます、アリシアさん。 私の知らないお父さんを知れてよかったです」
さっきまで少しだけ慌てていたけど今はもう落ち着いた。 コンちゃんから慌てるようなことがあったら一旦落ち着けって言われているから今は落ち着いている。
「そろそろ見えて来たわね」
アリシアさんは素直にお礼をされたことに照れたのかごまかすように見えて来た元アルバレス領の崩れた領主館を眺めながらそう言った。 私にとってはもう十年近く戻ってきていない故郷であり、魔物に滅ぼされた場所でもある。 私は懐かしさと悲しさで目が潤んでしまう。
「懐かしい? ロゼ」
「はい、懐かしいです」
もう戻ることはないと思っていた場所に声が震えてしまう。 だけど、これは悲しみによるものではなく帰ることができたことによる嬉しさからの事だと気づいていた。
「嬉しそうね、ロゼ」
「はい、嬉しいです。 もう戻ってこれないと思っていましたから」
私はアリシアさんにそう言って、走っている馬車から飛び降りた。 普通に飛び降りれば危険だけど風魔法を使って安全に降りた。
突然、私が降りたことに驚いたユイさんとユウキ様を横目に私はゆっくり歩いて元アルバレス領の領都に入っていった。
中では少し呆れたように待っていたアオイとアリシアさん。 そして何が何だかわかっていない様子のユイさんとユウキ様だった。
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