第20話 昨日の仕返しだな

一晩を明かした次の日、というか放課後。

俺は、少女と美女を鍛えていた。


『九十九……百! 終了! お疲れ様』

「ハァハァ、疲れたー。 これやる意味あるの?」

『あぁ、あるさ。 筋トレも魔法や魔術を使うための基礎になるからな』


ロゼが筋トレをやる意味はあるのか? と聞いてきたので、やる意味はあると答えた。


筋トレをやる意味とは、身体的な能力をあげる意図もあるが、根本的なものは、魔力量を増やすことと無意識下での魔力制御量をあげるのが目的だ。

無意識下での魔力制御量を増やすと通常時での魔法威力が上がるためやっている。


「いいけどさー、師匠。 師匠が『賢者』グレン・マーカー・マーリンっていうのは飲めないんだよねー」

『あーいいよ、それで、賢者って呼ばれるほど偉くも凄くもなかったからなー』


遠い目をしながらそう言った。

実際に俺は『賢者』と呼ばれたかったわけでもない。 ただ、『剣姫』に追いつけるようにひたすら頑張っていただけだった。 いわゆるあれだ、大切な存在のために頑張っている純朴少年ってだけの面白みのない話だ。


「面白くないなー師匠はー」

「師匠は面白いよ!」


ロゼと蒼がどうでもいいところで喧嘩をし始めた。


おーい、喧嘩はやめてくれよ? ロゼが絶対に魔法を使うからその前にやめさせないといけないんだけどな。


「蒼! あなたは私の妹弟子なんだから、立場をわきまえてよ!」

『立場をわきまえるのはお前だ』


変なことを口走ったロゼに、鉄拳制裁(岩弾)を脳天にやってやった。

ロゼは、悲鳴をあげる暇もなく倒れた。 もちろん、手加減ありの岩弾なので頭にたんこぶができる程度だろうが。


「ププッ、怒られてやーんの」

『お前もだぞ?』

「えっ!」


ロゼを小馬鹿にするように指差しながら笑っていた蒼は、俺の発言で、私も!? といった表情でこちらを見た。


『天誅』

「うぎゃ!」


ヘンテコな悲鳴をあげて倒れた。


やっと静かになった。 他にもやることがあったが、二人が喧嘩をしたため仕方なし。 まぁ、やることっていっても魔力操作をやらせるだけなんだけどな。


『はぁ、樹精霊ドライアドは元気にやっているだろうか。 ふふ、初めてだな、日頃心配しない樹精霊ドライアドのことを心配するのは』


そう呟き俺はロゼに近寄り撫でた。


『今は眠っておけ、明日は定期的に行われている野外演習みたいだからな。 少し早いがいいだろう。 早起きは三文の徳、の口癖だったよな。 なぁ、俺って変われたかな? お前が俺を師匠と慕ってくれていた時のように、お前は歴史から排除された存在……だから、ロゼが一番弟子、ロゼでもさすがに才能では勝てなかったよ、お前はでロゼは普通の人間。 普通の人間よりかは才能があったけどな』


俺は自虐的な笑みを浮かべて過去のことに一人で語っていた。


『あぁ、やめ! 気分が下がるだけだな。 もう寝るか』


そう言って、二人を床に放置して俺は一人寝床についた。


♦︎


朝起きると何故かベットの柱に縄で縛りつけられていた。


『ん、昨日の仕返しだな』


ふぁ、と欠伸をして風属性の魔法を使って縄を切った。


「あっ! 縄切られた!」

『やり方が古すぎる。 あと、準備はしたか?』

「したよ! アオイも準備ができてるからあとはコンちゃんだけだよ!」

『おーそうか、それならすぐに準備するから少し待ってろ』


ロゼを追い出して俺は、とあるところ(ベットの下)から朝食を取り出して、すべて食べ終えると外で待っているロゼと蒼の二人と合流した。


「最近コンちゃん起きるの遅くなった?」

『お前たちの特訓メニューを考えているといつも日をまたいでいるからな』

「「へぇー」」


おい! 聞いておいて興味なさそうな返事は! いつものことか……


「集合はどこだっけ?」


ロゼが覚えておけと言ったことを覚えていなかったり、などのことがあったが、なんとか集合場所にたどり着いた。


「うむ、皆揃ったようじゃな 。 今回は、森の探索じゃ、目標はこの紙に書いてあるからの」


オルバリオが手に持った紙をバンバンと叩いていた。


「森ね。 森は、魔術は使いにくいんだったのよね?」


蒼が確認のためにロゼの肩に乗っている俺に聞いてきたので頷いておいた。


「ちなみにだが、これは一人一人課題の種類と多さが違う。 ということで、今回は最大で四日ほど野外演習の時間を取っている。 大いに励めよ若人よ!」


オルバリオはそう言うと、演説していた演台から降りて、とある教員たちに紙を渡した。


「今から、課題表を配る! 名前を呼ばれたものはこちらに来るように!」

「ロゼ! アオイ・アキシナ! こちらに!」


二人同時に呼ばれたと言うことは、出された課題が一緒ということだろうか? それは少し違う気もするが、そう思うのは仕方ないだろう。 二人とも、俺の弟子なのだから……


「君たち二人には、この課題だ」


呼ばれた教員のところに行くと二枚別々の紙を渡された。


「中身は……思ったより簡単だね」

「私もそうなのかな?」


二人とも俺を間にして見せ合うようにしてくれているためとても見えやすいが、これはどう見ても全く一緒の内容だった。


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