第21話 まずはやってみろよ

『確かこっちだったよな』


アルセナの森内の地図を見ながら、とある場所を目指していた。


「コンちゃんまだなの?」

「ししょーまだー?」


二人とも一時間ほど森の中を歩いているだけで、疲れていた。


『もう少しのはずだ』

「そう、それじゃあ、コンちゃん。 肩から降りてくれる? 重たいから……」


そう言われて、俺は肩に乗っているところを掴まれて下に降ろされた。


『そんなに俺重たいか?』


振り返ってロゼにそう聞いた。


「日頃は気にならないけど、今は疲れてるから」


疲れていることによって気にならないぐらいの重さの俺が重く感じたんだろうな。

お、森の切れ目が見えてきた。 目的の場所にはつけたみたいだな。


「えっ、こんなところに湖があったの!?」

『蒼は知らなかったのか? 地図にはしっかりと描いてあったけどな』


目的の場所は湖。 ここは、魔術の特訓にはもってこいの場所でもあるからな。


『さて、特訓をするぞ?』

「「えぇー」」

『異論は認めない。 あと、これが出来れば気持ちいいぞ?』

「「ほんと!?」」


嫌がったり、驚いたり、忙しいなお前たちは、というか仲がいいな。


『と言っても、特訓をするのは蒼でロゼは少々特殊な事をするだけだがな』

「やった」

「えー」


蒼は小さくガッツポーズを決め、ロゼは落胆した。


『えーっとだな。 まずは蒼からで、蒼にはこれを出来るようになってもらう』


ピョーンと、飛び跳ね湖に着水するような形で跳んだが、俺は


「ッ!? どうやったの!?」

『簡単だ。 魔術で湖の水を操作して水の上を歩けるようにしたんだ。 魔法だと制約に阻まれて沈むだけだがな』


簡単に説明をして、俺はピョンピョンと水面を跳んで見せた。

これが、魔術で基本に近い魔術で、魔力操作量がものをいうのもあるが。


『だけどな、何も準備せずにーー』

「キャァア!! お、溺れる!」

『人の話を最後まで聞け!』


水流を操作して、岸まで助けるとそのまま蒼を正座させた。


『いいか! まず、魔力操作を出来ればいいってだけの話じゃないんだ。 魔力操作も必要だが、まずは、自分が水の上を歩くイメージを作る。 それが原点だ。 これが出来ないといつまでたっても水の上を歩くってことは出来ないからな』

「説教はもういい!」


説明を聞かなかった蒼に、一から説明をしていると突然蒼がそう声を荒げた。


『別に説教をしているつもりはないんだけどな』

「じゃあ何してるっていうのよ」

『説明』


ふぅんと、納得したような返事をして正座から淑女のような座り方に変更して聞こうとした。


『イメージが出来たら、次は水の上に立てるかどうかをやる。 それが出来て第一段階だ。 次は、水の上に立ったあと、これでやっと水の上を移動する。 その時に、操作している水の範囲を広げることなく移動させるだけだぞ? 範囲を広げれば、さらに魔力を使うことになってすぐに魔力切れを起こしてしまうからな』

「はい! 魔力はどの程度の量がいるんですか?」

『えーっと、だいたい中級魔法クラスの魔力量がいるはずだ』

「そんなにもいるんですか!?」


中級魔法クラスの魔力量がいると言うと、ロゼと蒼の二人が驚いていた。


『んじゃ、まずはやってみろよ』

「はい!」


蒼は快い大きな返事をして、一歩踏み出して湖に落ちた。


『バッ! しっかりとしたイメージが足りないから落ちるんだよ!』


俺は蒼を助けながらそう言い聞かせた。


『蒼、まずはイメージトレーニング。 そのあと実践、それからはトライアンドエラーを繰り返してやっと出来るようになる。 これが魔法と魔術の基本な。 呪術は使えないから知らねぇけどな』


そう言って、蒼を湖から遠ざけイメージトレーニングをさせた。


『よし、それじゃあロゼは湖の中に火属性の魔法を入れてくれ』

「えっ!? すぐに消えちゃうよ?」

『消えないように魔力を膜状に操作するんだ。 これは魔道士の特権みたいなもんだ。 これを二時間維持する。 それだけで、魔力操作が格段に上がるからな』


そう言うと、ロゼはコクンと頷いて手のひらに火を生み出して、薄く透明な膜でその火を覆った。

それを、湖の中に入れるとジュッ! と音をたてて消えた。


『最初はこんなもんだろ。 これを二時間維持できるまで、繰り返す。 それだけでいいんだ。 それが出来るようになれば、中級の上位クラスの魔法も教えられる。 頑張れ!』


そう言うと、ロゼは自分の頬を叩いて気合を入れ直して、再びゆっくりと始めた。


俺は、その間に俺自身の魔力量を上げる特訓を始めた。

魔力量を上げる特訓は、魔法で魔力を消費して魔力を空にして再び魔力が回復するのを待つ。 それだけで、少しずつだが確実に魔力量は増えていっている。


そのような事を続けて5時間ほど経った。

突然蒼が立ち上がった。


「多分出来るはず!」

『頑張れー、失敗したら助けてやるからやってみろよ』


蒼は湖の岸際に立つと深呼吸を二、三回繰り返して一歩踏み出した。

今回は湖に落ちることなく、水面に二本足で立つことに成功した。

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