第59話 俺に勝ちたいんだろ?

 地下にはギルド一階と同じほどの高さを持っていて、十分に走り回れるほどの広さをもつ場所が地下特訓場、木の冒険者のほとんどが来るこの場所は、国の王都であればどこにでもある場所だ。


「うし! まず初めは誰からやる?」


 俺は今は周りに誰もいないことを確認すると後ろに振り向き、テツたちにそう聞いた。

 テツたちはいきなりそう言われて「えっ?」と言った。


「は? おまえら、そんなんじゃすぐに死ぬぞ。 戦いたくないだとか、戦えないとかじゃ通じない世界にいるんだ、今のおまえたちはな。 置いていかれたものから死んでいく、これが普通だ。 それが嫌なら俺に喰らいつけ! ちょっとやそっとじゃ死なないようにしてやる、半年で金ランクの冒険者にしてやるよ。 頭がおかしいと思うならそれでいい、でも、お前たちは帰りたいんだろ? だったら、盲信的に俺についてこい」


 こうなんか凄そうなことを言ったけど、内心ではものすごく恥ずかしい。 本来なら絶対に言わないことを言ってる自覚があるからさらに俺の羞恥心に拍車をかけている。

 後ろにいるアリシアと『聖者』には笑われていた。


「じゃ、じゃあ、俺からお願いします」


 そう言って手を挙げたのは一郎だった。

 手をあげたと言っても若干怯えているようだった。


「んじゃあ、そこから適当に修練用の武器を待てよ」

「は、はい!」


 気合の入った返事をした一郎を少し見直した。

 この世界に怯えまくるガキかと思ってたけど、この世界を生き抜く気はあるみたいだな。


「構えろ、構えたら俺に向かって攻撃してこい。 一撃でも与えられたらアリシアのとこにいけ」


 俺は近接戦闘についてはある程度できるけど、アリシアにはギリギリ戦えるぐらいの戦闘技術しかない。

 それでも、テツたち三人では俺に一撃を入れることなんて出来ないだろうけどな。


「そんじゃあこい」

「行きます!」


 一郎が手にとったのは片手用の槍(先は丸くして刺さらないようにしてある)と盾、使い方によっては扱いやすい武器だが、素人が握るには面倒な武器だ。

 一郎は槍を前に構えて突進してきた。

 新人の冒険者ならそれだけで勝てるだろうが、こっちは何十年と冒険者をやってきた熟練だ、その程度だと一撃も与えられない。


「そんなんじゃあ、俺に当てることすらできねえぞ」


 ただただ突進してくるだけだから避けやすく実際に俺に簡単に避けられていた。

 それを十分ほど続けたら、一郎の体力が底を尽きた。


「終わりだ、もうお前動かねえだろ」


 俺はそう言ってテツと明科の方を向いた。

 二人は悪寒を感じて体を震わせていた。


「次は誰だ?」

「……一ついいですか」

「なんだ?」

「グレンさんってこの世界でどれぐらい強いんですか?」


 少し面倒な質問をしてきたな……。

 実際どのぐらい強いのか俺は分かんないからな〜。


「さぁ? 俺とアリシアは半年前に冒険者の最上位の白金プラチナになったばっかりだからな」


 俺は適当にそう言った。

 だが、そこに『聖者』が割って入ってきた。


「グレンさんは冒険者の中で一番強いですよ。 こちらのアリシアさんも同様ですよ」


 ニコニコしながら横にいるアリシアを指しながらそう言った。


「やめてくれ、俺は強くない」

「私は強いよ!」


 アリシアと俺の意見の違いが出てきた。

 俺はあの御前試合の後からはあまりアリシアに負けなくなったけど、それでも『獣王』『聖者』には戦い方によっては負けると思うから俺は冒険者一強いわけではないと思う。

 それでも、こいつらは何故か俺のことを持ち上げてくる。


「ほら! グレンさん強いじゃん! 勝てるわけない!」

「別に勝てって言ってるわけじゃなくて、俺に一撃入れてみろって言ってんだよ、テツ」

「俺は勝ちたいんだ! グレンさんの力も借りなくてもいいって示したいんだよ!」


 なんとなく感じていたけど、テツは俺たちのこと信じてないな。

 表面上は信じているように見せて奥底は全く信じていない、そんな感じだな。


「バーカ、お前に負けるようなら冒険者引退だ」


 少しでも信じてもらえるように笑いかけながら俺はテツの頭をわしゃわしゃと撫でた。

 それに対してテツは、嫌そうに手を振り払おうとした。

 俺は嫌そうにするテツに悪い笑みを浮かべてさらにわしゃわしゃと撫で回した。


「やめろ!」

「ーーッ! イッテェー! 足踏むやつがあるか!」


 頭をわしゃわしゃしすぎてテツに思いっきり足を踏まれてしまった。

 

「はっ、あまり痛くないくせに大騒ぎしすぎなんだよ」

「んだと? お前、ふざけんなよ?」


 怒るマネをした。

 アリシアはそれを見て思いっきり爆笑された。


「ぐ、グレン。 怒るマネするの下手すぎ。 あはは、ダメ、お腹痛い」

「チッ、バレてたか。 お前に足踏まれてもそんなに痛くなかったしな」


 俺はやれやれといったように肩をすくめた。

 テツはチッ、と舌打ちしているところから俺にキレて欲しかったぽいみたいだった。


「ふ〜ん、それじゃあ、テツが次の相手をしろ」

「はっ!? なんでだ!」

「俺に勝ちたいんだろ? だったら、挑戦してこいよ。 じゃないと永遠に俺には届かないぞ」


 俺はニヤッと笑って俺は片手剣をテツに押し付けた。


〜狐火キュウより〜


 こんにちは、こんばんは狐火キュウです。

 今現在、『賢者狐』は過去編というものをやっていますが、決して本作からそれたものではなく、次章に繋がる物語となっています。

  以上で作者からの言葉は終わります

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