第8話 もう一考してもらえないでしょうか?

俺たちは、冒険者ギルドにいた。


「誰もいないねぇ」

『昼時だからーーではないよなぁ、これは』


冒険者が一番いない時間帯ではあるが、必ず昼から飲んでいるやつがいるが、今回は誰一人いなかった。


受付にも誰もおらず、チリンチリン、ベルを鳴らしながら誰かが来るのを待っていた。


そもそも、依頼で魔猪ファングを狩っていたわけではなく、本当に只の特訓、または、魔法の反復練習みたいなものかな。

それでも、ここに来たことには意味があり理由がある。


冒険者が魔物、害獣を倒した時に、冒険者カードが更新される仕組みになっている。 えっと、更新ていうのは、〇〇を何匹倒した! みたいなやつで、それが、高難易度の攻略対象であればあるほど、冒険者ランクが上がる仕組みになっている。 冒険者ランクは、カードの価値によって変わる、初めは木、次はアイアンブロンズシルバーゴールド白金プラチナというように、段々上がって行き、アイアンで一人前、シルバーでベテラン、ゴールドで、英雄級と言われている。 そして、白金プラチナだが、これは、俺とあいつ、そして『剣姫』と呼ばれているあのしか居ない。

で、ロゼだが、まだ木で止まっているため、まだ一人前にはなっていない。


「来ないねぇ」


ロゼの一言で俺は、現実に引き戻された。


『うん? すまん聞いてなかった』

「いいよ、べつに。 ただ誰も来ないねって言っただけだから」

『そうか』


一応、俺は受付の奥に誰かいないか探ってみたが、誰一人いなかった。


『? 誰もいないぞ?』

「え? 本当に? どこに行ったのかな?」

『ん〜、依頼ボードを見たら何か書いてあるかもな』

「そうだね」


ロゼは、受付から左奥あたりにある依頼ボードを見上げると、『ただ今、勇者様一行がおられるため、ここには職員はいません』と書かれた紙があった。


「え? 勇者様? ここに来てるの?」

『みたいだな、会いに行ってみるか?』

「うん、行ってみようよ!」


冒険者ギルドを出て、一番人が集まりそうな中央広場を目指した。


♦︎


……は? これが、俺が勇者を見た瞬間に口から出た言葉だった。 いや、本当にマジで! あの似顔絵が書いてあったやつでは、黒髪でオールバックだったのに金髪のチャラッチャラのクソガキが、広場中央の講演台の上で何か言ってるんだぞ? これ以外の感想があるなら言ってほしいね!


「誰ですか、あれ」


違う感想あったわ。


『勇者だろ。 顔は一致してるっていうより、あんな着色された似顔絵を少し現実味を帯びさせたらあんな感じだろ』

「そ、そうですか。 でも、明らかに髪の色が違いますよね?」

『染めたんだろ。 多分」


そんなことを言い合っていると、近くの人たちに何か言っていた勇者がこちらをギロっと睨んできた。


『おい!! そこの女!!』


風属性の魔法で、声を大きくして言ってきた。


『うるせー。 大方、風属性魔法『拡声ルーボー』だろけど、調整不足だな。 必要以上に大きくなったんぞ』


はぁ、とため息をついて、事の顛末を見届けることにした。


「どけ! 邪魔だ!」


そう言いながら、話を聞いていたであろう民衆を押しのけながらこっちにやってきた。


「おい、お前。 俺たちのパーティーに入らないか?」


勇者がそう言うと、ドッと盛り上がった。


「え、えぇ! そ、そんな、私はまだ未熟ですし!」


おぉ、珍しくテンパってるな。 それじゃあ、ここはひとつ口を出しておくか。


『ロゼ、頭を下げてごめんなさいって言え』

「え?」

『いいから』


と、ロゼにしか聞こえない声の大きさで、そう言った。


「え、えっと……すみません。 まだまだ、未熟ですので、無理です。 ごめんなさい!」



ロゼは、言った通り頭を下げていた。 もちろん俺は、頭を下げる時は、下に降りていたぞ?


「そうかよ、じゃあさ、ここにいる賢者の弟子? だったかな、そいつらに魔法を教えてもらえよ。 装備的に魔道士ぽいから」


後ろの方を顎で示すと、そこには、二人ほどフードを奥まで被った人が立っていた。


「すみません。 私には、魔法を教えてもらえる師匠が居ますので……」


少し雲行きが怪しくなってきたな、危なくなってきたら止めるか。


そんな呑気なことを考えていると、勇者の後ろからこれまた民衆をかき分けて、ひとりの女性が出てきた。


「祐樹、困らせたらいけませんよ」

「わかってら、結衣」


今の言動から判断するに、こいつが『聖女』だな。

と言う前に、あの似顔絵と全く一緒なのは何故だ?


「誠に勝手なことをしてしまい申し訳ありません。 ですが、もう一考してもらえないでしょうか?」


チッ、嫌なやつ。 こういう勧誘を一介の冒険者が断れるわけないだろ。 わかっててやったら、結構腹黒だぞ、これは。


「え、え、どうすればいいのかな?」


ロゼは、困った表情でこちらを見ていた。

それに答えるかのように、俺は、ロゼの肩まで上がり、再び耳元で囁いた。


『一旦、宿に持ち帰ってまた後日、伺います。 って言えばいい』

「あのですね。 一旦、宿に持ち帰ってまた後日伺います」


そう言って、ロゼは、回れ右をして、宿に向かって歩き出そうとしたところで、俺が乗っていない方の肩を掴まれた。

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