第81話 話の終わり

眼下では英雄『グレン・マーカー・マーリン』の国葬が行われていた。


「あぁ、いいのかな。 あんな大切な人が死んじゃって」

「大丈夫だろ。 あれは、魔王軍幹部の死体だって言っても聞いてくれなかったわけだしよ」


 俺たちが泊まっているホテルの手すりから自分の国葬を見ていると、隣にロゼ・マーカー・ブラギッドが隣に腰掛けながらそう言った。


「お前はこれでよかったのか、ロゼ」

「ん? いいよ、これで。 だって、アルバレスが私の家名って言われても覚えてないんだもん」

「まぁ、そうだな」


 ロゼはつい先日、俺とアリシアと同様に英雄と呼ばれるようになっていた。 その時に貰った二つ名が『炎帝』どこかで見られていたんじゃないかと思うほどの的確な二つ名だけどの本人は嬉しそうにしていたから何も言わなかったけど。

 あと、俺もロゼと同じように英雄にされそうになったけど、俺はロゼの使い魔だと言ったらおとなしく引き下がってくれた。


「それにしても、コンちゃんって愛されていたんだね」


 ロゼの視線は広場で行われているグレン・マーカー・マーリンの葬儀に向けられていた。 


「愛されていたというより、信奉されていたという方が正しいと思うぞ。 俺は三度の魔王襲来を止めた人間だと思われていたからな」


 二度目と三度目の魔王はテツの事だが、後味は悪い。 何故、あいつはあんなにも狂ってしまったのかそれを知りたい。 それが分かればいいんだけどな。


「見てみて、火をつけるみたい」


 考え事をしていた俺の思考を元に戻したのはロゼの言葉だった。


「そうだな」


 カルディの死体に火が付いたのを見て俺は「安らかに眠ってくれ」と願った。 そんな俺の耳元で「ありがとう」という声が聞こえた。

 後ろに振り返っても誰もいない。 空を見上げれば、妖狐の三人が並んで歩いているそんなありえないものが見えた気がした。

 俺は背伸びをして、ベランダから出てロゼにこう言った。


「そろそろ準備しろよ。 行くぞ」


 そう言うとロゼは「は~い」と間延びした返事をして部屋の中に入ってきた。



 さて、蒼と結衣、祐樹の三人だがテツを倒した後出て来たゲートのようなもの中に全員ぶち込んだ。 蒼だけは残ると言ったが「必ずそっちに行く」と約束して蒼もゲートの中にいれた。


「ねぇ、別に会いに行かなくてもいいんじゃない、あのアオイっていう子に」

「何言ってんだよ、お前の妹弟子との約束を破るのか?」

「何か気に入らないから……」


 本音がロゼからこぼれた。 確かにこの二人はずっといがみ合っていたけど、記憶をなくしたロゼからしたら何か気に食わない相手に思うんだろうなと思うと笑ってしまう。 その姿を見たロゼに追いかけまわされる、いつもの光景が戻って来た。


(蒼視点)

 帰ってきてから一カ月が過ぎた。 帰って来て驚いたのは時間が一秒も進んでいなかったこと。 朝の登校中に異世界に召喚されたから、その日は急いで学校に向かった。 そこから驚きの連続だった。

 異世界で身に着けた力がここでも使えたこと、でも魔法や魔術は使えなかったけど、身体強化程度なら使うことができた。

 もう一つは、パパとママが師匠の事を知っていたということだろうか。 師匠の過去を聞いた時から知っていたけど、本人の口から言われるとやっぱり驚いてしまった。


「ハァ~、力加減が難しい……」


 やっていた部活をやめて一人むなしく下校中の事だった。 一応剣道部に入っていたのだけども、どうしても部員との力の差と倫理観からやめてしまった。


「どうしてたんだろ、二人は……」


 脳裏に思い浮かぶのは私の両親だった。 どうやって戻ってきてからの生活になれたのかが気になった。


「ただいま~」

「おう、おかえり、蒼」


 師匠がいたけど無視して二階にあがる。 うん? 師匠?

 二階に上がろうとしていた足を止めて一階のリビングに足を運ぶ。 そこには師匠とロゼがパパとママの二人と楽しく談笑していた。


(コンちゃん視点)


 一郎と有希と話していると蒼が帰ってきて、驚いたようにこちらに来た。


「どうしているんですか?」

「どうしてって、会いに来るって言ったろ?」

「あ~、それは少し裏技を使ってな」


 そう言いながらミルドとアリシアと力を合わせて作った時空間移動装置のペンダントをみせた。 これは、行って帰ってくるために作った一度だけの魔道具だから結構使い勝手が悪い。

 それからは、蒼も混ぜて今回何があったのかを話した。 テツの事になると二人は泣いていたが、最後には「ありがとうございました」と言われた。

 

 


 簡単に終わった異世界交流だったが楽しかった。

 だけど、俺とロゼにはまだやらないといけない事がまだある。 ロゼが代償として支払った記憶と俺の魔力を取り戻す、ということが残っているからにはまだまだ俺とロゼの旅は続きそうだ。 英雄にあこがれた少女が英雄になる話はここで終わりだがまだ旅は続き続けるのだから

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呪われた狐は少女と共に〜賢者と呼ばれた俺は少女の従魔です〜 狐火キュウ @kitunebikyu

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