第80話 願いの代償
(コンちゃん視点)
泥か掬い上げられるような感覚とともに目が覚めた。 目が覚めたという表現は少しおかしい。 意識が戻ったという方が正しいと思う。
俺の拳は蒼にあと数ミリ押し込めば当たっていたというところまで迫っていた。 そして、俺の腰に抱きついているロゼがいた。
「どういうことだ?」
確か、俺はロゼが刺された時、身体の底から怒りが立ち込めて、そこから聖魔法が発動したところまでは覚えている。 そこから先がわからない。
「師匠、良かった元に戻ったんだ……」
蒼はその場に倒れるように座り込んだ。 その手足は少し震えていた。
「頑張ったみたいだな。 あとは俺に任せろ」
ほとんどが俺のせいだろうが、今俺に言えることはそれしかなかった。 その言葉を嬉しそうに聞いた蒼はすぐ後ろに来ていた結衣に身体を預けた。
「勝ってください、師匠」
「あぁ、わかった」
そう言った俺はロゼの隣に立った。
「あの子はもう大丈夫だった? コンちゃんのために戦ってたのよね?」
その言葉に違和感を感じた。 ロゼは蒼のことを知っているはずだ。 なのに、なぜ蒼のことを『あの子』と呼んだのか、不思議に感じた。
俺はロゼを目を見て時魔法でロゼの身に起きたことを見た。 笑えてくる。 自分の不甲斐なさに笑えてくる。 蒼とロゼ、両方に苦労をさせてしまった。
「さぁ、テツ。 決着をつけよう」
「一体、どこで計画が狂ってしまったのかわかりませんね」
「さぁな、お前の計画が完璧じゃなかったんじゃないか?」
ハハッと笑ってやって俺はテツに向かって走り出した。
「馬鹿の一つ覚えのようにまっすぐに突っ込んでも意味がないですよ!」
俺に向かって雷が向かっていた。 それに合わせて俺は最後の切り札を切っていた。
「グハァ、どういう事ですか。 グレンさん」
雷を俺に向かって放っていたテツの反対側から俺が蹴りを入れたのだから驚くのも無理はないだろう。
「俺が使ったのは
魔法は物体に作用する力で魔術は空間に作用する力。 もっと詳しくするなら、魔法は奇跡を具現化する力、魔術は奇跡を扱う力。 だから、この『時間法術』は時間という概念を俺の支配下に置くことができるものである。 ロゼが使う『
「俺の『時間法術』は破れねぞ」
俺は再び『時間法術』を使った。 俺の支配下にある時間はテツが何か口を開けた状態で止まっていた。 俺の対角線上にはロゼが立っている。 俺はテツの右頬をぶん殴って時間をもう一度進め始めた。
「捕まえた、グレンさん」
一歩後ろに下がって時間を進めたはずなのに時間を進め始めたときには俺の目の前にいた。
「その力には欠点があるでしょ? 例えば、
「それはどうかな?」
また時間法術で時間を止めた。 俺はテツに腕を掴まれていて抜け出せないがそんなのは関係ない。 なぜなら、もう一人この空間の中を動けるものがいるから。
俺の視界には巫女服に羽衣をつけた青髪の少女がいるのだから。 ロゼは代償として俺との記憶以外を消されている。 だが、俺との記憶の中には魔法に関する知識も入っていた。 つまり、これは桜という妖狐からのささやかなプレゼントと言うわけだ。
『天照』を使っているロゼの手が俺を握っている腕をつかむと時間を進め始めた。 時間を進め始めるとテツは一瞬で凍り付いた。 『天照』の力、熱の支配による力である。 もう一つ、『天照』にはある。 それはすべてを燃やし尽くすということ。 これは俺の『時間法術』とも相性が悪いが、魔王であるテツを聖魔法以外で殺すことのできる魔法だ。
「ふざっ、ふざけるな!! 俺がここで殺される?! そんなことがある分けねぇんだよ!」
怒り狂ったテツのありとあらゆる魔法が俺とロゼを襲うがそれをすべてロゼが焼き尽くした。
俺がテツの時間を止めて、ロゼが『天照』でテツを燃やす。 そうやって、あと少しというところで魔石の力が切れて『時間法術』を維持できなくなり、ロゼの『天照』も維持できなくなっていた。 あと、一撃を与えることが出来ればテツを燃やし尽くすことも出来たが、一歩足りなかった。
「俺の勝ちですね! グレンさん! ハハハハッ、今度こそあなたを最強の魔王にしてみせますよ!」
そう言って俺に一歩ずつ近づいてくるテツに俺は魔力切れで震える体に鞭うって立ち上がった。 隣でもロゼが立ち上がっていた。
「「まだあきらめてない!」」
その声に鼓動するように聖魔法の塊で出来た剣が現れた。 それを、二人で支え合いながら近づいていたテツの心臓に突き刺した。
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