第79話 あなたは死にました
(蒼視点)
それはいきなりだった。 私は結衣と祐樹を守るために二人の前に出ていたけど、ロゼの後ろにいたからすべてが見えているはずだったけどそれでもわからなかった。 突然、アリシアさんが現れてロゼに刀を突き刺していた。
「え?」
それが私のものから出た声なのか他の誰からか聞こえたものかわからないけどその声だけは大きく鮮明に聞こえた。
「ハハハッ、うまくいった! これで、最強の魔王が誕生する!」
「ふざけるな! テツ!」
師匠が怒りの雄たけびをあげ、聖魔法を発動して全身が金色に染まったときに異変は起きた。 突如、師匠の全身を覆っていた金色の魔力が黒くなった。
「アッガッ、アアアァ!!」
全身の魔力が黒く染まり切ると師匠はこちらに振り返った。 こちらにはロゼが倒れていて、その傍らに一つも動かないアリシアさんが立っている。
動かないアリシアさんを師匠はぶん殴った。
殴られたアリシアさんは壁まで飛ばされ、壁にめり込んだ。 意識がないのはここから見ても分かる。 致命傷にはギリギリなっていないぐらいだった。
「ひどいなぁ、操られてただけのアリシアさんを殴るなんて」
「グルァァ!!」
師匠からは理性が消えていた。 ロゼを殺したアリシアさんと哲哉さんを殺すまで止まらない。 いや、アリシアさんと哲哉さんを殺しても止まらないかもしれない。 今の師匠はただの獣でしかない。
「ウガァァァ!!」
師匠は跳躍して哲哉さんとの距離を詰めた。
「未来を見ない今のあなたじゃ、俺には勝てませんよ」
そう言って、師匠の拳と蹴りを避けていく。 いつでも、師匠に一撃を入れようと思えば入れられるのに避けるだけしかしなかった。
何か思いついたように師匠の蹴りを掴み、師匠を宙づりにした。
「面白いことをしてあげるよ」
そう言うと哲哉さんの目が光ったような気がした。
「ほら、向こうが俺だよ」
そう言って宙づり状態だった師匠をこちらに投げて来た。 師匠は体勢を整え四足で着地するとこちらを睨んで来た。
「グラァァ!」
師匠がこちらに走ってくる。 それだけで何をしたかを理解してどう止めるかを考える。
師匠は飛び上がり蹴りを繰り出してきた。 その蹴りはシンプルで蹴りの軌道が読みやすいものだった。 何とか剣で受け止めるも押し込まれてしまう。
私は今自分のできる最大の強化魔術を使った。 師匠はそれをもろともせず拳で剣を弾き飛ばし、戻す手でもう一度殴りに来た。 それを素手でうまく流し手にかかるダメージを最小限に抑えられた。 でも、もう一度同じことができるかと言われるとできない。 どうしても手が震え、恐怖心を持ってしまう。
♦
(ロゼ視点)
黒い空間を真っすぐ前に(方向感覚が狂ってしまうため本当に前かわからない)歩いていた。 目の前にはコンちゃんに似た別の誰かが歩いている。
私がここで目覚めてずっとこの子の後ろを歩いている。
「ねぇ、君は何者なの?」
「ん? 私? 私は……桜、君の師匠の身体の前の持ち主ってとこかな?」
言われた意味が理解できなかった。 コンちゃんの身体の前の持ち主は死んでいると聞いているのに目の前にいるこの子はいったい何者なのか?
「フフッ、わからないって顔してるね。 ん~、どこから説明したらいいかな」
考えるような仕草をするところがコンちゃんに似てる。
「えっと、ロゼさん。 あなたは死にました」
「どう言うことかな? 私は現にここにいるわけだし、存在もしているよね?」
「ええとですね。 厳密に言えば、ここはグレンさんとロゼさんのパスを繋いでいる特別な空間です」
「ねぇ、私はどうしてここにいるの?」
今の話からここが現実の世界ではないということが分かったけど、どうして私がここにいるのかが思い出せない。 頭の中が靄がかかったように思い出そうとしてくれない。
「ロゼさんあなたは今、死んでもおかしくないようなダメージを君は受け、精神を保護するためにここに連れて来たのです」
「へ、へぇ~、そうなんだ」
実感がわかない。 コンちゃんと魔王が戦っていたのに私が攻撃を受けるわけがなかったから。
「まぁ、どうして死ぬようなダメージを負ったのかは置いといて、あなたはどうする? 私はあの人に貸しがあるから私はあなたを助けようと思っているの」
「そうなんだ。 でも、どうして私なの?」
「あなたがあの人の大切な人だからかな? でも、もちろん代償もあるよ。 君の大切な記憶以外はすべて消えてしまうとかね」
そう笑顔で私に振り向いた桜を私は「お願い」と返した。 その答えを聞いた桜は「本当にいいの?」と返してきて、私は頷いた。
「じゃあ、行くよ。 あなたの幸運を祈ってる」
♦
次に目が覚めた時には、現実だった。 ただ、自分が何を忘れて何を覚えているかもわからない。 あの子も? あの子って誰だっけ? 何か重要な事だったはずなのに……。
「何か重要なことがあったような気がするんだけどなぁ」
そんなことを考えていると後ろからガンッと音が聞こえた。 後ろに振り返るとコンちゃんと誰かが戦っていた。 コンちゃんと戦っているのは味方だったような気がする。 大切な人の一人だったような気がする。 そう思うと体がひとりでに動いていた。
「やめて、コンちゃん!!」
私はコンちゃんが殺そうとしていたところを後ろから抱き着いた。
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