第78話 驚くなよ

 テツは笑いながら俺にこう言ってきた。


「いつから気づいていました?」

「疑問に思ったのはカルディにあった時からだ。 まぁ、確信したのはここに入ってからだな」


 いつもテツに見せていたような笑みを見せながらそう言った。


「へぇ~、じゃあもう隠す必要はないんだ」


 少しおどけたように言うテツを正面に構えながら俺は冷や汗をかいていた。 

 ここからは本気のあいつと戦う、百五十年前のテツより成長していることは目の前のあいつを見ればわかる。 死ぬかもな。

 俺はそう考えながら、腰に提げている魔石入りの袋を触った。 これを全て噛み砕けば一時的な強化にはなるだろう。 今は、それでもいい。 前にロゼたちには意味もないと言ったが、ほんの少しの間だけ魔石にこもった魔力を吸収できる。  もちろん、いきなりの膨大な魔力を吸収するため少しの間しか身体にため込むことしかできない。


「考え事しているところ悪いけど、攻めてこないなら行くよ」


 そう言うとテツの姿がぶれたように見えた。 次の瞬間頬を殴られた感覚と突然の浮遊感に襲われた。 そのまま浮遊感を味わいながら壁に激突した。 「ガハッ」と肺の中の空気と共に血がでた。 俺は血をぬぐいながら立ち上がりテツに向きなおした。 テツと俺との間にロゼたちが見える。


「さぁ、どうするグレンさん。 あなたの大切な人たちが死んでしまいますよ」


 そう言いながらゆっくりとロゼたちの方へと歩いていく。 ロゼたちはテツ向かって攻撃をしていくが、テツはそれをもろともせずに歩いてくる。 俺は痛みで震える足に鞭を打って、ロゼたちの目の前に出た。


「やっぱり来るんですね。 そうこないと計画が始まらないからね」

「うるさい聖魔法『聖光シャイニーピア』」


 本来なら勇者にしか使えない魔法を使っていた俺を見てテツは驚いていた。  

 

「驚くなよ。 お前がくれた力だろ? くらえよ」


 そう言って俺は聖魔法をテツに放った。 テツは顔をしかめながら片手で受け止めていた。 聖光は単純な光の玉を相手の目の前で破裂させる聖魔法の初級の一つだ。 その魔法を片手で受け止めようとしたときに光の玉が破裂した。

 視界が真っ白に染まった。 視界が元に戻るとテツの右手のひらが少しだけ爛れているのが見えた。


「あ~、思ったよりも早く習得したんですか、すごいですね~」


 パチパチと手を叩きながらテツはそう言った。 


「しかも、聖魔法だから治りも遅い。 うんうん、相変わらずすごいですね。 妖狐にしても強いですね」


 手を叩くのをやめてわざとらしくゆっくり回復している右手のひらをみせながらそう言いった。


「妖狐にしたっていう事はあの未踏破領域ダンジョンはお前が作ったんだな」

「えぇ、そうですよ。 おかげであの妖狐を簡単に操れるようになったんですから」


 優しく諭すように言ったテツに舌打ちをしながら走り出した。

 俺は手に聖魔法を付与させて殴りかかった。 けれど、未来を見ているテツに拳が届くことはなく逆にカウンターを決められた。 こちらも相手が未来を見ている前提で攻撃しているからぎりぎり反応できた。 それでも、左腕を犠牲にしてやっとだった。


「一本いただき。 グレンさんは時魔法使わないんですね」


 だらんと脱力している左腕を抑えながらテツの今の攻撃が腕にわざと当てたのだと理解した。 


「うるせぇよ。 いい加減俺一人だと思うのやめろ、テツ」


 後ろからアリシアが斬りかかっていた。 それも分かっていたというようにわざと右手首を斬らせた。 すぐに右手首が回復し、更には自身から出た血で剣が出来ていた。

 それを関係ない!とばかりに追撃していくアリシアの剣戟に綺麗に合わせていく。 魔法で出来たものならアリシアの剣に触れるだけで消えるはずだが、テツの血の剣は消えることなく剣の形を保っていた。


「不思議に思うでしょ。 血の剣が何で形を保てているのか気になるでしょ。 この剣自体には魔法を付与していないから剣の形を保っていられるんですよ」


 そう言いながらアリシアの剣戟の隙間を通すようにカウンターを入れていき少しずつアリシアに傷が増えていった。

 ただ、アリシアの攻撃もテツが見える未来よりも速い攻撃が出ているが、テツに攻撃を与えてもすぐに回復をしてしまう。 


「クソッ、アリシアに任せっきりじゃいけねぇのに!」


 声を絞り出すように出した俺は、腰の魔石入りの袋を手に取った。 それを、一気に噛み砕いた。 

 噛み砕くと魔石の中に蓄えられていた魔力が俺の身体に入り込んだ。 その魔力を一気に解放した。

 その魔力の高まりに気が付いたテツとアリシアは互いに距離を取った。


「さぁ、本気で相手してやるよ」

「フフッ、いいですね」


 そして、俺とテツは互いに一瞬で距離を詰め衝突した。 互いに時魔法の使い手、一手でその先の攻撃まで見えるこの戦いは純粋な技量とどちらがより先の未来を見ることができるかによって変わる。

 全盛期の力になった俺とテツとのこの激突は明らかに俺の方に分があった。 この激突は俺がテツを殴り飛ばした。


「やっぱり強いなぁ、グレンさんは。 なのでーー」


 殴り飛ばされたテツは空中で宙返りして着地してそう言いながら指を鳴らした。


「はっ?」


 そんな気の抜けた声が出た。 何故かは簡単だ。 アリシアが剣でロゼの心臓を貫いていたから。

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