第77話 やっぱりお前かよ

 倒れてくる妖狐を俺は抱きしめた。 俺の服が汚れることもいとわずに抱きしめた。 胸には大穴が空いていて見るだけでもう助からないと分かってしまった。

 ギリッと奥歯を噛みしめながら妖狐を殺した相手の名を言った。


「ガビュード!!」

「久しぶりですね~! グレンさんッ!」


 

 そう言いながらガビュードはかかと落としをしてきた。 それを俺は妖狐の亡骸を抱えながら後ろに跳んだ。 少しだけ反応が遅れたが何とか逃げ切れた。 魔力によって強化されたかかと落としは玉座を半壊させた。 俺はそれをロゼたちの少し後ろに着地した。


「コンちゃん!」

「来るな!」


 飛ばされた俺を見て駆け寄ろうとしてくるロゼを制止した。 そして、俺は後ろに跳んだ。 次の瞬間その場所に爆炎の音が鳴り響いた。


「上級魔法か……」


 そう呟き抱きかかえていた妖狐を壁によりかかるように寝かせた。 俺が先程までいた崩れた玉座からは真反対に位置する場所で、すぐ後ろには壁がある。


「逃げても無駄ですよ~、グレンさん」


 楽しそうに笑いながらこちらに歩いてくるガビュードを見ながら俺は次の一手を考えていた。 ロゼと蒼たちは着いてこれないと分かったのかこちらの事を固唾を飲んで見守っている。 ある一人を除いて。


「ハァァァ!!」


 アリシアがガビュードの背後から一閃喰らわせた。 一閃を喰らったガビュードは胴体が二つに引き裂かれた。 それでもなお、笑みは消えていなかった。

 それも当たり前だ。 ガビュードは自らの事を吸血鬼と言っていた。 さらには、ガビュードが魔王だ、絶対に。


「いやぁ~、死なないと分かっていても痛いものは痛いですね」


 少しおどけたように言うガビュードの横顔を思いっきりぶん殴った。 まだ、胴体は二つに分かれていてまだ元に戻ってはいない。

 ぶん殴られたガビュードは空を舞った。


「うしっ、とりあえず学園の時の分だ」


 ガビュードが完全に復活するとお返しとばかりに一瞬で俺との間を詰めて来た。

 ガビュードの攻撃を俺はすべて回避した。 ガビュードの攻撃はすべて地面を叩き、小さなクレーターを作り出していた。

  

 やばいな、まだあいつが本気を出していないことが救いだな。 でも、本当にやばくなったら魔石を使うしかないのか……。

 ガビュードの攻撃をよけながら俺はそんなことを考えていた。 余裕があるように見たガビュードは少しずつスピードを上げて来た。

 今までとは変わり避けることに専念することになったが特に問題はない。

 ガビュードの攻撃スピードに慣れてきたころに俺は、少しずつすきを窺いだした。 ガビュードには絶対にわからないように一瞬の隙を縫うような一撃を決めようとしていた。


「おりゃっ!」


 完全な不意打ちだった。 ガビュードの意識の隙をついた死角からの攻撃を決めた。

 ガビュードは派手に宙を舞った。 クリティカルヒットした拳だったが、倒すまではいかない浅い一撃に終わった。 実際、ガビュードは普通に着地をしていたからな。


「いいパンチですねぇ〜、まぁ、そこまでダメージはないんですけどね」


 ケッケッケと笑いながらパチンッと指を鳴らした。 指を鳴らすのと連動するように上級魔法を複数発動してきた。 すべての魔法が俺に向かってくる。


「俺だけ狙ってていいのか?」


 俺は笑いながら避けることもせず、魔法が来るの待ち構えていた。 その俺の前に割り込む者がいた。


「セェェャ!!」


 俺に迫っていた魔法を全て一閃で切り裂いた。 これが出来るのはアリシアだけだろう。


「グレン、あんた私が間に入らなかったらどうするつもりなのよ!」

「ハハハ、大丈夫だ。 俺はお前を信じていたからな」


 アリシアにそう言うとアリシアは呆れたようにため息をついてガビュードの方に向き直った。


「悪いけど私のことも忘れないでね」


 剣先をガビュードに向けながらそう言った。 ガビュードは本当に可笑しくて楽しそうな笑みを浮かべて、魔法を放ってきた。

 その全てを剣で切り落としていくアリシアを見ながら、ガビュードの魔法を煙幕がわりにこそこそとガビュードの後ろをとった。

 ガビュードはこちらに気づいた様子はなく、完全に裏をとることができていた。

 俺は、ガビュードをこれで倒せるとは思ってはいないが、ダメージを与えるということを目的として魔術で身体を強化し、更に右腕を魔力で強化してガビュードに殴りかかった。

 結果だけ言おう。 俺の拳はあっさりとかわされ、カウンターで蹴りを入れられてロゼたちのところまではねた。


「あぁ、やっぱりな。 そうだよな」


 ロゼに立ち上がるのを手伝ってもらい俺は立ち上がった。

 俺に蹴りを入れる瞬間、ガビュードの左眼が碧く光っていた。 だから、俺は確信した。 予感はしていた、そんなんじゃないかって、でも違うとあって欲しいと願った。 だけど、裏切られた。 左眼が碧く光っていて、完全な不意打ちを避けられないタイミングで避けたこと、このことから俺はガビュードが『』を使っているのがわかった。 だが、それを使えるのは俺だけ、だからわかった。 『時魔法』について教え、使えなかったやつがいることに。


「ハハッ、やっぱりお前かよ。 なぁ、


 そう言うとガビュードーーいや、テツは笑った。

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