第43話 あなたはどちらの味方ですか?

もう一人の俺が消えたことにより、黒い空間から白い空間へと変わっていくのを見て、本当に消えてしまったのだなと感慨深いものが込み上げてきた。


「生き残ったのか……。 そう、だよな。 一人の生命を使って生き残ったんだ。 いい気分になれるわけないよな」


全てが白く染まると、白い空間が白く光り出した。


「次は何だ!?」


次に俺が見た風景は、手が目の前にあった。


「こ、コンちゃん!」


こっちでの時間は全く進んでなかったってことか。


「は……なせ!」


頭を掴まれているだけだったから簡単に外れたが、頭を潰す気なら簡単に潰せるほどだろう。


「おぉ、姫様。 私です、カルディです」

「姫様なら遅い反抗期だってよ!」


俺は回し蹴りで、カルディの顔面を捉えた。


「ぐうっ……!」


ズザザッと少し少し地面を滑った程度だったが、精神面でのダメージは想定以上だった。


もう少しダメージを与えられる技はなのか。


「コンちゃんなの?」

「あぁ、俺だ」

「消えなかったの?」

「そうだな、消えかかったけど消えなかった」


俺は消えていない理由をそう言った。

実際には、カルディが言う姫様にギリギリのところで助けてもらったのだが、今はそれを言うわけにはいかない。


「なぜ、何故ですか。 何故、私のところに来てくれないのですか!!」


何かがおかしいかのように頭を抑えていたが、突然顔を上げてそう言った。


「だから、さっきも言っただろ? お前たちの姫さんは反抗期なんだよ」


焔魔法の上位魔法『焔の衣』を使っているため、俺が炎を纏っているようになっている。

ロゼにはかなりの負担をかけているため今は少し休んでもらっている。


「さあ決着をつけよう」

「ふん、今回は諦めてやろう」

「何を言っている?」


ふざけているのかと思いながら俺はそう言った。


「ははは、今私の本気と戦いたくないだろう?」

「ふざけているのか? ガビュードよりも弱いお前が何を言う?」

「ガビュードよりも弱い? 何を言っているのだ? あんな雑魚と一緒にしてもらいたくないものだな」


どう言う意味だ? 魔力を制御出来ていたとしても個人が持っている魔力を全て制御出来ているわけではない。 だから、その漏れでいている魔力を見るだけで相手の力量がある程度わかるってわけだ。


「私はここで全ての魔物と引き上げる、再び姫様と会うために……」

「……あぁ、わかった。 今回はお預けだな」


俺がそう言うと、カルディは空間魔術でどこかに消えていった。


♦︎


俺はその後、冒険者たちと合流した。


「ねぇ、コンちゃん。 あいつに捕まった時何があったの?」

「あの時か、あの時はカルディの言う姫様に助けられたんだよ」


俺はロゼには包み隠さずあの白い空間であったことを全て話した。


「ひぐっ……コンちゃん、コンちゃんのバカ!」


パチーンと甲高い音を俺の頬が立てた。


「バカ、バカ……コンちゃんが消えちゃうかと思ったんだから!」


そのあと俺は、抱きつかれてロゼは泣いていた。


「怖かった……怖かったんだよ? コンちゃんが居なくなってほしくないんだよ?」


しばらくの間、ロゼに抱きつかれたまま泣いていた。


そのあと、ロゼは泣き疲れて眠ってしまった。


「九尾の嬢ちゃん」

「なんだ?」

「ギルドマスターが呼んでいるぞ」

「わかった」


俺は冒険者の一人にギルドマスターに呼ばれているという場所に向かった。


「何の用だ? アカギ」

「いえ、あなたが九尾の妖狐ですか……」

「それが?」


そう言うと、アカギは短剣をこちらの首元に当てた。


「あなたはどちらの味方ですか?」

「俺か? ロゼか? それとも、俺たち二人のことか?」

「ええ、二人ともです」


アカギは、営業スマイルのようなものを浮かべていた。


「味方だろう。 アリシアに聖女、蒼がロゼの友である限り俺はあんたたちの味方だよ」

「そうですか」


アカギの納得いく回答が出来たのかは知らないが首元に当てられていた短剣は直してもらえた。


「その回答の仕方はいずれ敵になるかもしれないってことですよね。 今、ここであなたを殺しても文句は言われませんでしょうしね」


アカギは立ち上がり、街に戻るために歩き始めた。


「魔王の姫様」

「そ、それは人違いだ!」


姫様と言われてとっさにそう叫んだが、アカギにはハハハと笑われながらそのまま消えていった。


「くそっ、人違いだったのになぁ。 あーあ、結局姫様の名前知らねえや」


俺一人だけになった時に俺は空を見上げながらそう呟いた。


「それに、『闇』かぁ。 姫様は飲み込まれていたって言ったけど、元はどんな感じなんだ?」


俺の疑問は、空へと消えていった。


「よし、戻るか。 そろそろ、ミルドを連れたアリシアが工房に戻ってきているだろうしな。 今回だけは、本気でミルドの性根を叩き直さないといけないからな」


グフフと気持ち悪い笑みを浮かべた俺は、戻った後のことを考えていた。

そこに、魔力の塊が出来上がっていくのを感じた。


「どうした、樹精霊ドライアド?」

『いえ、少しこの森を燃やしてくれませんか?」

「は? 何を言っているんだ? 森はお前たちの命よりも大切なんだろ?」

『そうですが、この森はもう魔物が生まれやすくなってしまったのです。 なので、今一度再生させたいのです』

「わかった。 冒険者の連中に言った後に燃やすからな」


俺は、ロゼを冒険者の一人に運んでもらい、森を燃やした。

これで、再生の息吹きが生まれてくるだろう。

それよりも、山火事にならないかな? ならないよね?

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