第42話 俺の姿をした別の存在
カルディの姿が一瞬ブレたように見えた。
「くっ」
ガギッ、と金属と金属がぶつかり合う鈍い音が聞こえた。
『ほう、今のに対応するのか』
「ったら前だ! 最初みたいなマネはしねぇよ!」
受け止めることには成功したが、俺とカルディの力の差は歴然としたものだった。
あと少しだけでも押し込まれれば、このままやられてしまう。 それだけは、これまでの経験上わかっていた。
「だったら!」
俺はカルディの剣を流して、距離を一旦とった。
ギリギリのところで受け流すことが出来たが、次に受け流すことが出来るかと言われれば出来ないだろう。
さっきの攻撃が全力というわけではないだろうから。
「ロゼ! 魔法の準備を頼む!」
「わかった!」
ジリッと、カルディのもとに一歩近寄った形になっていた。
「魔法か……。 いいだろう、待っておいてやる。 魔法を放てる時になれば再び相手しよう」
「ふざっ……! チッ、無理だな」
魔法を使うまで待つと言われ、イラッとしたが、ここで何か言ったとしても勝てるわけない相手だとわかっているので変なことになりたくないという思いもあった。
「コンちゃん!」
「おう!」
効くか効かないじゃない。 まずはやる! これが基本でいく!
「「燃えろ! 『原初の業火』!」」
焔魔法『原初の灯火』を二人で同時に放ったって言うだけなのだが、本当の焔魔法『原初の業火』には遠く及ばない魔法となった。
「くだらん。 この程度で私を焼こうとしているのですか……。」
はぁ、とため息を一つついて水属性の魔法を使い『原初の業火』を消した。
「ははは……」
乾いた笑みがこぼれた。
「ふむ、そろそろ終わらせるか」
カルディがそう呟くと、一瞬のうちに俺の目の前にまで来ていた。
「なっ!ーーんぐっ!」
「消えろ」
ガシッと、頭を掴まれてしまった。
「こ、コンちゃん!」
カルディが何かを唱えると、自分の内側から壊れていくのを感じた。
「がっ……うっ……あぁぁぁぁあ!!」
痛い! 痛い! 自分が壊れていっている。
カルディの腕を掴んでいた腕が力なくぶら下がった。
♦︎
「なんだここは!?」
何気なく持ち上げた腕を見て驚愕の声を上げてしまった。
俺の手が砂のようにサラサラと消えていっていた。
「な、何が起きているんだ!?」
消えていく手を見ながら俺は何が起きているのかを周りを見渡した。
「何も……ない?」
何もない白い空間が広がっていた。
ただ、手が消えていくたびに黒い空間が白い空間を浸食していた。
「あーあ、つまりあれか、黒いのが白いのを侵食し切ったら俺が消えるってわけか……」
ふと何かがこちらを見ている気配を感じた。
「何者だ!」
俺は後ろを振り返った。
そこには、黒い空間に立っている女としての俺が立っていた。
「俺? いや、違うな。 俺の姿をした別の存在。 つまり、カルディの言う姫様ってやつか」
俺は自然的に姫と呼ばれていたもう一人の俺のもとに歩き出していた。
歩き始めるともう一人の俺が、何かを言った。
ここまでは聞こえなかったが、なんとなくこちらに来るなと言ったのだろう。
「わかった。 じゃあ、ここにいる」
俺は黒い空間の一歩手前にあぐらで座った。
「この先がどうなるかなんて知らない。 ただ、お前について知りたい。 それにな、出来ればロゼにごめんと言えなかったことぐらいかな」
ニシシッと、笑いもう一人の俺を見た。
もう一人の俺は少し呆れたようにしていたが、俺には関係ない。 だって、もう少しで消える存在だから。
「もう、身体の半分も残っちゃいねえや。 存分に生きてくれよな」
さらに深い笑みを浮かべながら俺は泣いていた。
「あれ、なんでだ? 悔しくないのになんで、なんで今更になってこんな気持ちになるんだよ」
俺は涙を流していることを認めたくないように目を擦っているようなマネをしていた。
それでも、止まらない涙がで続けていることによって俺はついに本当に泣き出した。
「嫌なんだ! 俺は死にたくない。 俺は生きていきたいんだ! まだ、ロゼに教えて切れていないんだ! まだ、いきていたいんだよ!」
俺の身体は徐々に消えて行き、今は魂の揺らめきへと変わっていた。
「大丈夫。 君は死なない。 私は遅めの反抗期だから」
もう一人の俺はこちらに歩いてきて、俺の周りにしかない白い空間を侵すように入ってきてそう言った。
そして、俺の魂を抱きしめるように抱きしめた。
「ありがとう。 そして、君にお願いがあるんだ。 私のお母さんを倒して、お母さんは闇に飲まれてる、カルディは助けようとしていたけど、カルディも飲まれたの。 だから、お願い」
もう一人の俺がそう言うと、もう一人の俺の身体がものすごい勢いでサラサラと砂のように消えていった。
「私はもう死んだ存在なの。 だからね、怖くないの、あなたのように生きているわけじゃないから」
ニヒッと、可愛い笑みを浮かべて、「じゃあね」と言うともう一人の俺の身体が消え、俺のもとに帰って来た。
そして、もう一人の俺の魂は灯火が消えてゆくように魂の火が小さくなって消えてしまった。
「ありがとうございます」
その言葉は、無意識のうちに言っていた。
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