第55話 俺の子供の名前をつけて欲しいんです
あの国を潰す。 そう言われた『獣王』は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「無理です。 あの国は……あの国だけはダメなんです」
「なんでだよ! もしかして、あの国が俺たちの生まれ故郷だからか?!」
『獣王』が滅ぼさなかった理由の二つ目、あの国が俺たちの生まれ故郷だからという理由……俺が負い目を感じていることでもある。
「もし、お前が俺たちの故郷だからというなら、俺はお前を殺す」
ただ純粋な殺気を『獣王』に飛ばしただけだが、『獣王』は気圧されたように少しよろめいた。
「違います……。 あの国が、『勇者召喚』が行われる国だからです……」
俺はこれに対して絶句した。 勇者召喚、それは俺たちにとっては伝説上の話。
昔々あるところにーーの決まり文句から始まる話。
そこには、勇者召喚がなぜ行われるかが記されている。 なぜ勇者召喚が行われるか、それは、魔王が復活する、それに対抗できる唯一の方法であると……。
つまり、その伝説がこの地で行われるということになる。
だだ、一つだけ疑問に思うことが出てきた。
「なぜ、あの国なんだ?」
「知りません。 ただ、我らの国が選ばれた、そうあの国は言っています」
「そうか、それで、あの国に手出しはしないということか」
「はい、私たちは手を出したくても出せない、そういう状況なのです」
「そうか……」
俺は考えた。 どうすれば、あそこのバカどもに一泡……いや、二泡吹かせられるか考えていた。
そこで、俺は一つ、今の俺の身分を思い出した。
このことは、『獣王』に黙っておいて、俺の隣でジッと黙っている一応中心の話が必要なミオの耳元で言った。
「獣王と言ったけど、名前はゼアル。 この国の名前はこいつからとったんだ」
小さく呟いたけど、ミオとゼアルの耳がピクピクと動いているから両方とも聴こえているだろう。 ミオは耳元で言ったから聞こえているのは当たり前だろうけど。
「とりあえず、こいつを預かってくれ。 俺は別のところに行く」
「はい、いいですよ。 グレンさんの頼みですから」
そう言ったゼアルは何か言おうとして躊躇っているように見えた。
「獣王、何か躊躇っているなら今のうちに言っとけ。 俺は、しばらくの間戻ってこなくなるからな」
「すみません、ありがとうございます。 実はグレンさんに頼みたいことが一つありまして……」
「なんだ、言ってみろ」
今日、ここに来てまだ一度も見ていない人たちがいることには気付いている時点でだいたい俺に何をして欲しいかわかるけど、それは俺から言うべきではない、ゼアルの国から言うべきことだ。
「俺の子供の名前をつけて欲しいんです」
「いいぞ。 男か女か。 言え」
「こちらについて来てください」
男か女かを言わずにゼアルはそれだけを言って、壊れた扉から出て行った。
その後を俺とミオはついて行き、城の角にある部屋にたどり着いた。
その部屋はきらびやかな装飾品などはなく、単調的な家具などが置かれているだけだった。 その中で一際異彩を放っているのは、部屋の中央に置かれたゆりかごだった。
ゆりかごの中にはミオのような人間の血が色濃く出ている獣人の赤ちゃんがいた。
「この子は?」
「俺の十六番目の子供です。 あと、女の子です」
んー、さてどんな名前にしたらいいかな? というより、この子の母親は誰だよ。
「グレンさん、この子の母親の名前はリサと言います」
「すごいな。 俺の心でも読んだのか」
アゼルもすごいけど、今はこの子の名前を考えねぇと。 リサ、アゼルの子供だろ? んー、なんかいい名前は……あ! 思いついたわ、一個だけ。
「アリサ、なんてどうだ」
「アリサ、ですか。 娘の中に同じ名前があるので無理ですね」
「そうか……」
難しい……。 他に何かあるか……。
「獣王、リリィはどうだ?」
「いますね」
「だったら、リリー」
「リリィと似ているので却下です」
他に他に何がある! 俺にこれをやらせること自体が間違っているような気がして来たぞ。 んー、あ、これはないと思うな。
「アリア、これでどうだ!」
「アリアですか、いい名前です。 今日からこの子の名前はアリアです。 ありがとうございました、グレンさん」
「どういたしまして。 ついでなんだけどいいか?」
「どうぞ」
名前を考えているときに思いついたことをアゼルに打診して見てもらおうではないか。
「ミオをアリアの専属メイドに育てあげてくれ」
「はい? どういうことですか? アリアのメイドをこの子にやらせるんですか?」
「あぁ、アリアは人の血が濃く出ている、ミオもアリアと同じく人の血が濃く出ているだから、アリアと気兼ねなく接することができる味方になってやれるはずだ」
俺は考えていたことをそのままアゼルに伝えた。
俺の言葉を受け取ったアゼルはしばらく考えていた。
「う〜ん、たしかにグレンさんが言うことには一理ありますね」
考えがまとまったのか、アゼルはそう言ってミオの方を見た。
「アリアの世話役になってくれるかな」
それは『獣王』アゼルとしてではなく、父アゼルとしての頼みごとだった。 それに対してミオは大きくうなずいたのだった。
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