第56話 勇者様が召喚されました!

 そのあと俺は、獣王国を離れて少し用事を済ませてミルドの家に帰っていった。


「ただいま」

「ただいまじゃねぇよ! お前の家に帰れよ!」

「無理、今家ぶっ壊れたから……」

「なんでそうなんだよ!」

「魔術の操作を誤って」


 家で魔術操作の練習をしていたときに間違えて通常より魔力を多く詰め込みすぎて暴走した挙句に俺の家を吹き飛ばしたから家がないわけだ。


「はぁ、だったら宿に……って無理か、昨日暗殺されかけたんだもんな。 いいぜ、泊まってけ、部屋は昨日のとこな」

「おう、ありがとな。 いつかいい店紹介するわ」

「……少し聞きたいことがある」


 そう言って昨日寝た部屋に入ろうとしたところで、再びミルドに止められてしまった。


「どうした」

「もしかして、お前、一人であの国……ミルギアにでも行っていたのか?」

「もし、そうだとしたらどうする」

「いや、何もしない。 俺はもう鍛治師だ。 お前たちの武器などの支援する側だからな、お前のやりたいようにやれ、とは言わねえけど、相棒には相談しとけよ」


 そう言ってミルドはどこかへと行ってしまった。 多分、工房にこもって新しい武器でも作るんだろう。

 でも、今の俺は一人ですべてをやろうとしていた、それを見抜かれ思わず誰もいない部屋の中で「まいったなぁ」と呟いたのだった。


♦︎


〜半年後〜


 ついに勇者召喚の儀式が行われる日がやってきた。

 俺はーーというか俺とアリシアはミルギアの客間でくつろいでいた。

 アリシアは、あからさまに嫌な顔をしているが、内心俺も似たようなものだ。

 そもそも、アリシアがなぜこんな嫌な顔をするかというと、ゴールドランクに上がってすぐに王族から妃にならないか? というありがたい話をもらったが、これを蹴った。 まぁ、それが悪かったんだろう、それから毎日アリシアの家に王族の使いを名乗るものがやってきては王城に来てくれ来てくれと言い、最後には王命と周りの人達がどうなっても知らないぞ的なことを言い出したことにキレたアリシアが王城に乗り込みあれやこれの問題を起こしたみたいだ。

 そのあともちろん、国内指名手配されてはいたものの指名手配期限まで逃げ切り今に至る。 その時に冒険者をしていた人達からは裏で可憐の裏腹に凶暴的な一面があると噂され『女狐』と裏で呼ばれていた。


「グレンが一緒に来てくれって言うからついてきたけど、なんでこの国なの」

「仕方がないだろ、アリシア。 この国に勇者が召喚されるって言われたんだから」

「勇者? あんた、そんなもんに興味があったの?」

「いや、別に。 ただ、この国に対する嫌がらせ的な意味が大きい」


 そう言った俺の顔は嫌がらせができると嬉しそうで悪い顔をしているだろう。

 アリシアも俺と同じような顔になって二人で騎士が来るまでずっと今回の作戦を練っていた。


「『剣姫』様、『賢者』様、そろそろお時間です。 私についてきてもらえないでしょうか」

「わかった」


 そう言って俺とアリシアは客間を出た。

 俺たちはそのまま召喚を行う部屋に連れて行かれると思っていたがそこではなく、各国の王や重鎮が集まっている広間だった。


「ここで待てってか……」

「皆の者! 我はミルギア王国国王! ラーガ・ゼファ・ミルギアである!」


 広間の少し中央から外れた場所から階段がありそれを登り切った上にある偉い人がこの広間で演説をするような場所にミルギアの王がそう言っていた。


「ただいまより勇者召喚の儀式を行う。 ここまで御足労していただいた皆様方に勇者様の教育係を紹介する!」


 そこまで宣言した途端に皆がワァーッ!!と湧き上がり拍手をしていた。

 

「勇者様の教育係をするのは白金プラチナランクの冒険者三人! その者はこちらまで上がってきてもらいたい!」


 そう言われて俺はアリシアの腕を掴んで短距離転移テレポートを使った。 転移した場所は国王のすぐ後ろ、突然現れた俺を見た国王の護衛の騎士が即座に国王を守るために剣の柄を握った。

 俺は敵ではないという意思を見せようとしたところで別の方向からコツコツと階段をあがる音とともに声が聞こえた。


「そちらのお方たちは敵ではありませんよ」

「よお、お前も呼ばれていたのか『聖者』」

「えぇ、呼ばれていますよグレン」


 階段を上がってきたのは糸目をした胡散臭さ満点の聖職者。 しかし、腐っても白金ランク、回復魔術や拘束系、状態異常系の魔術を解呪することに関しては右に出る者はいない。

 それでも胡散臭い、裏取引などしてそうな雰囲気を出している。


「ミルギア国王陛下、『聖者』アレクサンドルス召集に応じ馳せ参じました」

「おぉ、よく集まってくれた」


 一度少しだけ振り返りねぎらいの言葉をかけてすぐにもう一度階下を見た。


「皆様! こちらの方たちが勇者様の教育係です!」


 俺たちは国王より前に出された。 それを見た国の重鎮たちはあの白金たちかとなっていた。

 唯一、『獣王』ゼアルだけは俺とアリシアがいることに対して驚きを表していた。

 そのタイミングで国王の側に新しい騎士が近づいてきていた。 その騎士が国王に何かを耳打ちし、それを聞いた国王が目を見開いて驚いていたことから勇者が召喚されたのだろう。


「皆様、たった今、勇者様が召喚されました!」

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