第25話 人質のつもり?
俺が
『ーーッ!?』
俺は、そいつを見ただけで萎縮してしまった。
そいつは、白いフード付きローブを着ていて、見た目だけなら、それほどの力を持っていないただの人のようにも見える、しかし、そんなはずはない。なぜなら、そいつは
『何もんだ?』
「フフ、君は僕を見ても萎縮するだけなんだ。 ふつうの魔物なら、逃げるか服従をするんだけど、やっぱり君は根っからの『賢者』なんだね」
表情はフードに隠れて口元しか見えないが、口元からは喜んでいるように感じた。
『何者だ?』
「あれ? 僕の名前はアルナが言っていたはずだけど?」
俺はそう言われてつい先ほどのことを思い出していた。
『魔王軍……幹部のガビュード……』
「おー、覚えててくれたんだね。 嬉しいよ僕は、あの偉大な英雄に名前を覚えてもらえる日が来るなんてね」
パチパチと拍手をしたかと思えば、自分の目元を拭うようなポーズをした。
『偉大な……英雄?』
正直に言って俺は何を言っているのかわからなかった。
アルナと言ったあの魔族は俺のことを復讐相手だって言っていた。なのに、この魔王軍幹部のガビュードは俺のことを偉大な英雄と言った。 何故、この二人で意見が違うんだ?
「あれ? もしかして、アルナはあなたのことを嫌いとでも言ったのですか?」
『似たようなことを言われたな』
「そうですか。 彼はあなたたちに両親を殺されていたそうですからね。 恨まれても仕方ないですね」
ニコニコしたさわやかな笑みでそう言われた。
『そうか』
「ええ、そうでーー私はこれで退散いたしましょう。 アルナも死んでしまったことですし。 あ、そうでした。 私は吸血鬼です。 それでは、またどこかで」
そう言ってガビュードと
『またどこかで……か』
正直に言えば二度と会いたくないタイプのやつだな。 俺が人だったとしても本気を出さないと勝てないかもしれない。 だから二度と会いたくない。
『ーーッ!?』
ふと空を見上げると人影が落ちてくるのが見えてきた。 しかも、剣を持ってこちらに一直線に落ちてきていた。
俺はすぐさま蒼とロゼの元に下がった。
「どうしたの? ロゼは大丈夫だよ?」
『違う。 嫌な予感がするんだよ』
ドンッ!! と、地面に思いっきり着地した音が辺りに響いた。
「魔物ごときが……人質のつもり?」
空から降ってきたのは、ソリの入った片刃の剣(東方に伝わる刀)を持った赤髪、赤目の女だった。
『ーーッ、ーーッ』
俺は、口をパクパクさせながら何かを言おうとしていた。 この時の俺は何で『剣姫』がここにいる!? と言いたかったのだと思う。
「う、うーん」
「ふふ、ゲスい魔物ね。 流石、あのふざけた魔族の従魔ね」
『ア、アリシア?』
「あら、知恵のある魔物なのね」
無意識でそう言っていたことがアリシアの一言でわかった。
「それでは、さようなら」
「ちょぉぉっと! 待ってください!!」
空を飛んで止めに入ったのは、オルバリオだった。
「何を止めるの? 魔物が目の前にいるのに何故殺さないの?」
「何故って、この魔物はこの子の従魔ですから!」
オルバリオが、必死に俺を庇っていた。
「オルバリオ? あなた、グレンのことを知っているって言ったからあなたの護衛任務を受けてあげたのよ? それを守らせないつもり?」
「違うんです! この九尾がグレンなんです!」
弁明というか、ネタバラシというか、よく表現のできないことで俺のことを発言しやがった。 てか、やっぱり俺だってことは確信が持てるぐらいまでのことはわかっていた、もしくは、俺が蒼のことをほっとけないのを見越していたかのどちらかだな。
「え? 嘘……嘘よ! グレンがこんな魔物になるわけがない! グレンは! グレンは! 私のせいで一度壊れたんだから!」
ねぇ、それ今関係なくない? たしかに壊れてた時は有ったよ? ミルドに言われるまで俺が壊れてるって気づかなかったけどな。
『俺が壊れてたのは関係ないだろ? 今はよ』
「グレン……なの?」
『あぁ、ちょっとしたヘマをやっちまってな。 呪われてこの姿になってしまったんだよ』
「嘘……」
アリシアは、突然顔を歪め口元を手で覆うとその場に膝まずき嗚咽をこぼしていた。
「やっぱり、グレンだったか」
『あー、ちっとばかり言えない事情があったからな。 自称俺のライバルさんや』
「なっ!? 何でそれを!?」
嫌がらせのつもりで俺はそう言ってやると、オルバリオは驚愕の表情でそう言った。
『情報通がいてね。 そいつにこの情報をもらったのさ』
「アリシアさんではないですよね?」
『さーてね。 ふっふっふ』
意味深な笑みを浮かべてやった。
「う、うーん。 コ、コンちゃん?」
『起きたか! ロゼ!』
「うん、ありがとうコンちゃん。 今回もコンちゃんに守ってもらって……」
『いいんだよ! 弟子にはいずれ俺を超えてもらわないといけないんだからな』
ビシッとドヤ顔を決めながらそう言ってやった。
「うん、ありがとう。 コンちゃん。 もう少し寝かせてもらうよ?」
『あぁ、今は好きなだけ寝とけ』
そう言うと、ロゼは目を閉じた。 その後にすぐ寝息が聞こえ始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます