第26話 絶対に離さない

巨魔獣兵器ベヒモスを撃退して一日が経った。

俺は今、アリシアに捕まっている。

何故俺が捕まっているかというと、巨魔獣兵器ベヒモスを撃退した後、オルバリオから明日学長室に来いと言われていたので学長室に行くとすぐにアリシアに捕まってしまったわけだ。


『アリシア、離してくれないか?』

「嫌だ。 絶対に離さない」


俺がそう言うと、アリシアは俺を締め付けながら、そう言ってきた。


『ぐぇぇ、し、死ぬ……』

「アリシアさん。 コンちゃんを返してもらいますよ」

「あっ……」


ロゼはアリシアに締め付けられていた俺を無理やり奪い返した。

俺を奪われたアリシアは、ものすごく残念そうな顔をこちらに向けてきた。


締め付けられているってことは、かなりの力で抱きしめていたはずなのによく俺を取れたな。


『とりあえず、ありがとう。 助かった』

「ふふ、どういたしまして」


俺はいつもの定位置であるロゼの肩に乗せてもらい俺は、アリシアとオルバリオを見た。


『聞きたいことは色々あるが、まず最初に。 蒼がここに来たのは国が入れたのか?』

「まぁ、そうじゃな。 この国の王が無理矢理ここにねじ込んできた、の方があってはいるのじゃがな」

『オルバリオ、ふつうに喋ってくれ』


昨日は違っていたはずなのに、今日はまた爺さんみたいな口調に変わっているのでふつうに喋って欲しかった。


「そうか、これで良いか?」

『うん、それそれ』


うんうんと頷いた。


「じゃあ、次は私が聞くけど、グレンは何と戦っていたの?」

巨魔獣兵器ベヒモス


ブスッとした表情で答えてやった。



「え! ちょっと待って。 巨魔獣兵器ベヒモス程度に苦戦してたの? 何それ面白いんだけど」


アリシアはお腹を抱えながら笑い転げた。


『はぁ、だから嫌だったんだよ。 こいつに言うのはよ』

「どう言うことですか? グレン」


オルバリオはアリシアが笑っている理由を聞いてきた。


『簡単だ。 人だった時は、魔法一発で倒せていた相手に満身創痍になるほど苦戦したんだ。 おかしく感じても仕方ない』

「えっと、街を一つ滅ぼすほどの魔物を魔法一発で倒せていたんですね……」


俺の一言に呆れたような達観したような顔をされた。


「コンちゃん。 なんかすごい事になってるね」

『まぁ、そうなんだけど、あー続けていいか?』

「ん、ごめん。 もう少し無理だと思う」


アリシアは笑いすぎで出た涙をぬぐいながらそう言った。


「あぁ、すまない。 で、続きとは何です?」

『魔王軍幹部……ガビュードとお前たちが倒したアルナ。 俺は、二人と少しだけ話せた』

「ッ!? 本当ですか!?」

『あぁ、本当だ』


そして、俺は昨日の話した内容を少し思い出しながら語り始めた。


『まず、アルナだが。 俺たちには、とてつもないほどの憎しみや恨みがあったみたいだ。 俺のことを復讐相手だとも言っていたからな』

「こちらも似たようなものでした。 アリシアさんを見た途端に嬉しそうに殺したい相手が二人も同じ場所にいるなんて、と言っていましたから」


そうかと呟き少しだけ考える。 アルナは俺たちに親を殺されたと言ったが、あいつに似た魔族は先の大戦ではいなかった。俺が魔法で跡形もなく吹きもばしたかもしれないが、魔族はアリシアが、魔物は俺がという立ち回りだった。 だから、魔族は原型を留めているはずなのに、あいつに面影のある魔族はいなかった。


「コンちゃん?」

『あぁ、すまない。 で、ガビュードは、俺のことを偉大な英雄と言った。 正直に言ってあの時にアリシアが来なかったら死んでた、俺もロゼも蒼もな』


ふふっと、自虐的な笑みを浮かべてそう言った。


「あー、てことは私、グレンの命の恩人ってやつ?」

『前に助けてやったので帳消しだ!』

「いいえ、私の方があんたを助けた回数は多いです!」

『いいや、俺だ!』


子供じみた言い合いが始まってすぐにオルバリオに止められ、話の続きに戻された。


「で、ガビュードと巨魔獣兵器ベヒモスには逃げられてしまったと言うわけですね?」

『あぁ、そうだ』

「そうですか。 では、以上なので帰ってもよろしいですよ? あと、ロゼさんとアオイさんは今回の野外演習はクリアということにしておきます」


ロゼと蒼の方を向いて笑いかけながらそう言った。


「ねぇ、最後に一ついい?」

『なんだアリシア』


最後の方は静かに静観していたアリシアが突然言ってきた。


「あんたは呪われている。 で、その呪いで九尾狐になったと、それまではいいわよ? でもね、あんた、弟子をとるなんてあいつのこと忘れたの?」


喉元に刃を突き立てられたような錯覚を覚えるほどにその一言は俺に重くのしかかってきた。


『あいつのことは忘れていない』

「だったら何で!」

『二人が昔の俺みたいだったからだよ。 バカなのはわかっているさ、でも、これだけは曲げたく無い。 一度弟子にとったんだ。 二人が俺がいらなくなるまで隣にいてやるって決めたんだよ』

「はぁ、馬鹿みたい。 あんた一人で二人も育てられるの? そうだ、蒼だっけ? その子は私の弟子に頂戴よ。 私と似た系統の子でしょ?」

『え? 本当か?』


アリシアが蒼を弟子にとってくれる。 その言葉を一瞬聞き間違えかと思ってしまった。 だが、その言葉は嘘ではなかった。


「ええ、私の剣術と魔術を教えればいいんでしょ?」

『正直ありがたいが蒼自身に聞いてやってくれないか?』


俺はそう言って、蒼を見た。

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