第3話 か、かわいい!

あ、やべっ、九尾のままだった。 これ見つかったら終わりだよな? というか、見つかってるよな?


「あ、ありがとうございます。 助けていただいて。 あ、あれ?」


少女は、丁寧にお礼を言っていたが、人らしき姿が見えず、少し困惑していた。

そして、俺と目が合った。


「キュ、キュ〜(よ、よぉ)」


と、言ったが、絶対に伝わっていない自信しかなかった。


「き、九尾狐?」

「キュー(そうだ)」

「本当に?」

「キュ(あぁ)」


あれ? 会話が成り立っている? でも無理だろ、俺は魔物、少女は人間なんだし。


「うへへ」


う、なんだこのだらし無い笑みは、普通怯えたりするものだろうここは。


「ほら、こっちにおいで」


少女はそう言いながら、にじり寄ってきた。


「キュ、キュ〜(お、お前何する気だ)」

「何にもしないよぉ〜」


そう言いながらも、両手がいやらしい感じで動いていた。


「キュ、キュー!(く、来るなぁ!)」


とっさに水魔法を使ってしまった。


あ、やべっ……


ドサっと倒れてしまった。


「あっ! だ、大丈夫!?」


そう聞こえ、気を失った。


♦︎


暖かいものに包まれた感触で目が覚めた。


「キュ?(誰だ?)」

「あっ、起きたんだ!」


少女はそう言うとぎゅーっと、強く抱きしめてきた。


「キュ! キュキュ(苦しい! 離せ)」


俺は少女の腕の中でもがいていた。


クソ! 人の姿だったら簡単に抜け出せたのに!


「あ! ごめんね、痛かった?」

「キュー!(当たり前だ!)」

「そうだよね、痛くなかったよね。 かわいいに対する愛情だから!」


ヤバイ、この子といたら身がもたない。 でも、逃げようにも捕まっているから逃げようにも逃げ出せないからな。


「あ、そうだコンちゃん」


コ、コンちゃん? なんで? 俺はグレンっていう名前があるのに……


「そういえば、コンちゃんって決めてたのはいいけど、何にも言ってなかったね。 コンちゃんは、狐だからコンちゃんかなって。 ほら、狐ってコンって鳴くでしょ? だから、そう決めたんだ」

「キュ!(なんでそんな理不尽なんだよ!)」

「そうかそうか、気に入ってくれたのね!」

「キュー(ダメだこの子)」


というか、今どこに向かってんだ? ついさっきまで、猪と戦っていたはずだけど、なんでこの子が俺を抱いているんだ?


「キュー(なんで俺を抱いているんだ)」

「どこに行くか、不安なんですか? うん、そうですね、今からコンちゃんには、私の従魔になってもらう予定です」

「キュ?(は?)」


何を言っているんだ? 俺がお前の従魔? 人に戻るっていう目標から遠ざかっていくような気がするのは気のせいか? いや、まてよ、この子の装備を見る限り魔道士を目指しているのか、だったら、俺が教えながら育てるのも有りだな。


少女の装備は、ローブにメイスぐらいの杖を持っていた。


「止まれ!」


俺は街の砦あたりまで考え事をしていたみたいだった。 砦について、衛兵の声を聞くまで気がつかなかった。


「その魔物は何だ」

「私の従魔で、コンちゃんです。 ついさっき、森で拾ってきました」

「そうか、ならば従魔の証をつけなければならないな」


うぐっ! ここで逃げたいけど我慢だ! ここで逃げたら、俺の隠れ蓑がなくなって、他の冒険者たちに狙われる毎日になる。 だから、今は耐えろ、耐え忍ぶ時だ。


「よし、これで完了! これで、今日から本当に私の従魔だよ」

「キュ、キュー!(耐えたぞ、耐えきったぞ!)」


そう心でガッツポーズを決めた。

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