第63話 さよなら……
魔王を倒した。 魔王の身体は少しずつ灰へと形を変えていった。 魔王の身体がすべて灰へと変わると、その灰が集まり不思議なゲートを作り出した。
俺は立ち上がりゲートを覗いた。 転移系のゲートであれば転移する向こう側の景色が見えるはずなのだが、このゲートは何も映し出していなかった。
「お前ら、大丈夫か?」
俺はゲートに罠などないことを確かめてそう聞いた。
「ギリギリね〜、立つのがやっとぐらい」
剣を杖代わりにして立ち上がったアリシアがそう言った。
アリシアには無数の外傷があるが、一番は身体強化魔術を使った事による内部からのダメージだと思う。
他もアリシアと似たようなものだろう。 俺は、全員の安全を確認するとテツの隣に立った。
「これなんですか?」
「たぶんだが、お前たちのいた世界との間にできた次元の狭間だろう」
「それはどういうことですか?」
「つまり、帰れるかもしれないってことだよ」
確証も根拠もない賭けに近いものだが、俺にはテツたちが来た世界と繋がっているとそう感じた。
♦︎
歩けるぐらいには回復した一郎、友希、アリシアの三人はゲートを見つめていた。
「これを使えば元の世界に帰れるんですか?」
「多分な」
一郎の言葉に俺は曖昧な答えを返した。このゲートは分からないことが多すぎる。もう少しこのゲートについてわかればいいのだが目の前に開いたということしかわからない。
「大丈夫です。帰れる可能性があるのなら試す価値はありますから」
「待て、失敗すればお前たちの世界にもこの世界にも帰ってこれないかもしれないんだぞ!」
友希がニコッと笑いながら言ったことに対し俺は声を荒げて否定した。それでも、友希と一郎の意思は固く首を横に振り俺たちにこう言った「さようなら」と。
「グレンさん、俺は残ります。この世界で好きな人が出来ましたから」
テツが俺の隣に立ってそう言った。
それを聞いたのは初めてだったが、俺はうまく言葉にできなかった。
「グレン、ミナトとユキが決めたことに私たちが口出しするものじゃないわよ。二人はどんな結果になっても受け入れられるから大丈夫よ、きっと」
アリシアも二人を行かせることに不安はある。それでも、二人の考えを尊重したいとも思っているからこその言葉だ。それは俺も分かっている。それでも、帰れない可能性の方が高いのだから。
俺は自分の頬を叩いた。
弟子が腹を決めているのに師匠が腹を決めなくてどうする。二人は帰れると信じているのに俺も信じないでどうする?!
俺は覚悟を決めて二人に向き直った。
「じゃあな、二人とも」
うまく笑えているか分からなかったが、俺は二人にそう言った。
「ありがとうございました。グレンさん、アリシアさん!」
そう言って二人はゲートの中へと消えていった。本当に帰れたかを確認する術はない。いつか、あの二人に会えるかもしれない、そう思いながら俺たちは魔王がいた部屋を後にした。
その後、魔王軍の幹部をボロボロになりながらも倒した
♦︎
魔王がいなくなり、魔王軍が壊滅したという情報はすぐに大陸中に広がり連日連夜のお祭り騒ぎがあった。その間、俺たちは魔王との戦いでの傷を癒していた。
それから数年の月日が経ったある日のことだった。
テツが好きになった人と結婚して二年が過ぎたある雨の日のことだった。
「しばらく止みそうにないな」
「で、今日は何の用事だグレン?」
俺はミルドの店に訪れていた。あれから、メキメキと腕を上げてミルドは店を持つほどとなっていた。
「んー、依頼したものが出来てるか聞きに来ただけ」
「昨日依頼したものが今日出来てるわけねぇだろ」
隣にいるミルドがそう言いながら脇腹を小突いてきた。
「まぁ、出来てはいないが面白いものはあるぞ」
「へぇ、見せてみろよ」
少し気になった俺はミルドにそう言った。ミルドは悪い笑みをしながらカウンターの方へ歩いていった。
「こっちに来い」
ミルドの言葉に従って俺はカウンターへと歩いた。
ミルドはカウンターの奥の部屋へと消え、俺はカウンターの目の前に石で作った即席のイスに座った。
「何してんだよ、お前は」
カウンターの前で座っている俺を見たミルドはそう言った。
「終わったら消すからいいだろ」
「まぁ、消すならいいけど。で、だ。お前に見せたいのはこれのことだ」
ミルドはゴトッと俺の目の前にミスリルの剣を置いた。
「これが面白いものか?」
「そうだ、こいつに付与した効果が面白いんだよ」
ふぅんと、付与された効果を見ると意味のわからない効果が付与されていた。
「確かに面白いな」
「だろ、形を持つものを斬れなくする効果が付与されている剣なんて使い道がないしな」
「まぁ、そうだろうな。でもよ、斬れなくても殴ることが出来んだろ?」
「剣としての役目は果たしてないだろ?」
そんなことをミルドと話していると、店の扉がギィと開いた。
「いらっしゃい」
「……テツか、何か買いに来たのか?」
俺がそう言うとテツは首を横に振った。
「いえ、グレンさんに用があって来ました」
「で、どうしたんだ?」
俺がそう言うとテツは俺に何か押し付けてきた。
「おい、これは!?」
「……さようなら」
押しつけられた、いや正確には無理矢理、受け継がされたものを体内に感じながら何もないことを願った。
だが、それは叶うことはなかった……。
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