呪われた狐は少女と共に〜賢者と呼ばれた俺は少女の従魔です〜

第62話 これで！終わりだぁぁぁ！

　そいつは巨大な図体に似合う威圧感を持っていた。

　少しでも気を抜くと相手に飲み込まれてしまいそうになるほどだった。

「五人か……少ないの。　残りは幹部どもの相手をしておるのかの？　まぁ良い、あの二人よりも手応えのある人間であることを願うだけかの」

　魔王はつまらなそうにそう言うと、おもむろに手をこちら側に向けた。

『雷撃（ライトニング）』

　俺はとっさに魔力障壁を張った。

　ヒシヒシと致死性の力を感じてはいるが心は冷静だった。

「舐めんなよ」

　魔力障壁でアリシアたちの退避時間を稼いで俺は短距離転移（テレポート）でアリシアの隣に転移した。

　テツたちとは分断されたが問題はない。

「行くぞ！」

　俺はそう叫び焔魔法を使った。　『焔の衣』炎が相手の攻撃を防ぎ、スピードが上がる俺が気に入っている魔法の一つ。

　まだ、時魔法は使わない、勿体ぶるとかではなくただ、まだあいつの手の内がわからない間は使えないと言った方が正しいかもしれない。

「『原初の業火』」

　一度相手につけば一生燃え続けるはずの魔法。

　それは、あっさりと消されて頭上から拳が落ちてくる。

　それを短距離転移で躱したと同時にドゴーンッ！　と豪快な音を立てて拳が落ちた。

　アリシアとテツが魔王の手を駆け上がっていった。

　二人は友希の強化魔術と自身の強化魔術を扱える限界まで使っていた。

　二人のスピードは『焔の衣』を使っている俺以上のスピードが出ていた。

　二人が肩あたりまで辿り着くと目で追えないほどの剣撃が魔王を襲った。　それでも、二人の剣でも魔王にとっては擦り傷程度の傷しか残せなかった。

「かゆい、かゆい」

　どれだけ攻撃しても硬い皮膚がその攻撃を防ぎきっている。だから、アリシアとテツの攻撃を受けても対してダメージがほぼ入らない。

　もっと、魔王の皮膚の硬さを超えるほどの高威力で攻撃しないとダメそうだな。

「テツ！アリシア！時間を稼いでくれ！」

「「了解！」」

　二人がそう言って、再び魔王に立ち向かっていった。

　ダメージはほとんど入っていないに等しいものであっても、その少しが重要になる。

　俺は、自分の魔力を限界まで高めていた。

　今の俺が使える最大火力である魔法を使うために。

　俺が魔力を集めている間、アリシアとテツが攻撃をして一郎が魔王の攻撃を受け流して、支援を友希がやっている。

　魔王は俺の魔力が高まっていることには気付いていながらわざと無視をしていた。

　それだけ、俺たちとの間にそれだけの差があることを見せつけているのだろう。

「離れろ！」

　俺がそう言うと三人は俺と魔王の直線上を開けた。

　この一撃が俺たちの最大火力であり、俺の一つの切り札である。

「『神怒焔（メギド）』！」

　俺が放った魔法が一瞬にして魔王を包み込んだ。

　神怒焔は、焔魔法の今は一番上位に位置する魔法で通常の火魔法では出せないほどの火力が出せ、物資の灰すら残さないほどの力がある。

　それを受けた魔王もただではすまない筈だ。

　これで倒れていて欲しい、これはただの願望にしか過ぎないが。

「やったか……」

　テツがそう呟いた途端にブワッと背中から冷たいものが流れていった。

「伏せろ！」

　次の瞬間、レーザー光線に近いものが俺たちの右から左と伏せた頭の上を通り過ぎていった。

「チッ、一人も殺せんかったか」

　そう、レーザー光線のようなものを放った本人がそう言った。

「ブレス、いや、ブレスに近い何かか？」

「そうだとも」

　古龍のブレスよりも濃密な魔力の塊のブレスを魔王は放ったということだろう。

　だが、魔王の体は煙をあげていた。

　それは、神怒焔で体内の水分が燃えかけたといったいったところかな。

　魔王は満身創痍になっているここで攻めなければ一生勝てない。

「テツ、アリシア、一郎、友希、ここが正念場だ。あと一息、全員本気で戦え」

　そう言って俺は時魔法を発動した。

　それに合わせて無数の魔法を発動して止めた。

　アリシアは、さらに一段階深い強化魔術を使い、友希は魔力が底をつくほどの魔力を使い俺たちに強化魔術をかけた。

　アリシアの一閃が魔王の皮膚を切り裂き、テツと一郎による追撃、そして、俺の魔法で動きを止めたりしても、魔王を倒すことは出来ず、俺たちの方が先に力尽きた。

「無様じゃのう。お主らの本気はこの程度か、ならまだまだじゃな。最後に一つ教えておいてやろう、ワシを倒したければ、聖魔法でしか倒せん。つまり、勇者にしか倒せんのじゃ」

　そう言うと俺たちにトドメを刺すために拳を振り上げた。

　俺たちはまだ立ち上がろうとない力を振り絞った。

　そこに一人だけ立ち上がり、魔王に向かって走り出している者がいた。テツだ。

　そのテツの身体は白い淡い光に包まれていた。

　まるで、闇を浄化する光のように。

「これで！終わりだぁぁぁ！！」

　テツの剣が白く光輝き、魔王の胸を刺した。

　その瞬間、魔王の身体中から白い光が溢れ出した。

「がぁぁぁ！　お主が！　お主が！　ーーー！」

　最後だけ聞こえなかったが、魔王は絶命した。

　俺たちは勝ったのだ、最後の最後にテツに救われ勝ったのだ。