第49話 いっつも騒がしいな

アリシアの試合が終わり、その後の試合もスムーズに終わった。

さて、俺の番だな。 緊張するなよ、オルバリオがどういう奴でも関係ない、自分のやれることだけやるだけだからな。


「フゥ〜。 ……よし!」


俺は、会場の中心に立った。

目の前にはオルバリオが立っていた。

オルバリオは、短髪の金色の髪をしていた。 外見は、俺たちと同じ歳かと思うが、エルフは歳が取るのが遅いから俺たちよりも何百と上だからな。


「人間が僕の相手か……。 ふむ、思っていたより早く終わりそうだな」

「それはやってみねぇと話からねぇだろ?」

「何を言う? エルフと人間では力の差が圧倒的ではないか、先程の人間の方が稀だ」


オルバリオは、アリシアだけが特別だと鼻で笑ってきた。


「よし、お前泣かす。 絶対に泣かす」

「ほう、そうかでは、やってみろ」


始まりの合図が来たと同時にオルバリオの周り全方位に『ウィンド』を発動した。


「何!? 有り得ない! 人間がなぜ魔法を使える!?」

「使えるのがおかしいのか? 俺は使えるから使っているそれだけだ」


同時にすべての『ウィンド』をオルバリオにぶつけた。


「ウワァァァ!!」


オルバリオは全方位からの風撃に、どこにも風を流すことができずに上空に打ち上げられた。


「終わったな。 これで一歩前に進んだはずだ」


俺は、俺の勝ちの宣言がありそう呟いた。


一歩進んでもあいつは二歩以上前に進んで行く。 そう感じたのは一度や二度ではない。

それに、今日までが進みすぎた。 だから、俺はこれから先ゆっくりな足取りであいつに近づいて行かなきゃならない。

それだけは嫌だ。 何が何でもあいつに追いつく、だから、もっと早く、もっと早く進む!


♦︎


「お帰りー」

「ただいま、ミルド」


俺が宿に戻ってきても、朝俺が出る前と同じところで同じ格好で本を読んでいた。


「ミルドー、いつから本を読んでた?」

「朝からずっと読んでた。 あ、もちろん昼食は取ったぞ」


ミルドは、威張ってそう言うが、全く褒められたことではない。


「フンッ」

「あっ! 何すんだ、 グレン!」

「健康に悪いお前にはこうしてやるのがお似合いだ」


俺はミルドの本を奪い取り、宿の外に投げ捨てようとした手前である調合レシピが見えて手を止めた。


「なぁ、ミルド。 何故、ここに不老の薬のレシピが書かれた本がある?」

「借りたから」


よほどバレたくなかったことなのか、視線を泳がせながらそう言った。


「誰に借りた。 言え、吐け!」

「あー、わかったから。 俺が、その本を借りたのはアールカドって言うじーさんで、その不老の薬のレシピについて力説されて試しに……」

「試しに何をしたんだ! 吐け! 禁忌の薬を持たされて飲んだのか!?」

「えーっと、俺一人が何か言われるのが嫌だから、アリシアとグレンの飲んでたジョッキに入れた……」

「はっ?」


何を言われたか一瞬わからなかった。 ただ、ミルドが最低最悪なことをしでかしたこととアールカドの爺さんが共犯なのがわかった。

御前試合初戦突破したのを見たかどうか聞こうと思っていたのだが、その前に重大な案件ができてしまった。

それは、俺たちのパーティー全員が不老という禁忌を犯してしまったという一点だ。


「うん、聞かなかったことにするわ」

「それがいいと思う。 で、どうだった、御前試合」

「あー、俺とアリシアの二人とも初戦突破したぞ」

「そうか。 じゃあ、そろそろアリシアが突撃してくるな」


俺たちは互いに先程の話は聞かなかったことにして、いつものような会話をしていた。


「たっだいまー! ねぇ、グレン! エルフの神秘をいつ習得したの!?」

「いつも騒がしいな」


アリシアは、俺たちの会話について知るはずもなく、なぜ、俺が魔法を使えることについていきなり聞いてきた。

聞かれるとは思っていたが、いきなり聞いてくるとは思わなかったが、俺は平然とした態度でアリシアを見た。


「ん〜、アールカドって言うエルフに教えてもらったからかな? あー、でも、アールカドは、『ワシが教えのぉてもいずれ知っていただろうさ』って言ってたから、時間の問題だったんだろう」

「へぇー、すごいね。 グレンはやっぱり」


と、アリシアは言うが、俺は右耳から左耳を抜けていくようにアリシアの言葉をほとんど聞いていなかった。

というのも、俺がアールカドの爺さんのことを出したらミルドがどんな顔をするかと思って言ってみたのだが、ミルドは、少し驚愕の顔になりかけたが、ギリギリのところでミルド自身の制御力が優った。


「どうしたのグレン。 何か面白いことでもあったの?」

「い、いやっ、何もなかったけど」

「ふーん、そーなんだー」


完全に信じていない目を向けられながら、俺は顔に出ないように頑張っていた。

それでも、ずっと共に暮らしてきていたからか、アリシアは、俺たちが何か隠していることを確信して部屋を出て行った。


「とりあえずってとこだな」

「そうだが、今のは完全にお前のせいだからな」

「はいはい、わかりました」


全ては明日聞こう。 明日は、御前試合もない。 何かあったらしく無くなったが、明後日からは再び御前試合が行われるからな。

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