第35話 あの獣の街!?

アリシアとともに山を降りた俺たちは二手に分かれてミルドを探しに行くこととなった。


「コンちゃん、ありがとう。 これ動きやすいよ」

『ミルドに作ってもらったフード付きのローブだからな』


今、ロゼが着ているものはミルドに作ってもらいながらも使っていない一品を使ってくれと渡したものだ。

このローブは、魔力を通さなくても付与された効果を使えるようにしてある国宝級の品だ。


「でも、付与されたものを忘れたってある意味すごいよね」

『悪かったな。 何十年も前に作ってもらったからもう忘れたんだよ。 それにそこまで強力な付与がされているわけじゃないはずだぞ?』

「いいのそれでも」


ロゼは大事そうにローブをおさえた。


「ねぇ、コンちゃん」

『ん? どうしたんだ?』

「昔ね、昔。 私がまだ七歳ぐらいの時に人の姿のコンちゃんに会ったことがあるんだ」

『へぇ〜』


会ったことあったっけと考えながらもロゼの話の続きを聞いた。


「私の本当の名前はね、ロゼ・アルバレス。 アルバレス辺境伯の娘なの。 アルバレス当主は強欲な人で自らの領地に未踏破領域ダンジョンがあることを黙っていたため破滅した領地の娘でした」


あー、なんとなく思い出して来たぞ。 確かこの後……。


未踏破領域ダンジョンの暴走により私の故郷だった場所はすべて火の海へと変わってしまいました。 そして、そこにコンちゃんが来て助けてくれたのです。 めでたしめでたし」


そうだったな。 確かその時は適当に散歩してたら昼間なのに遠くの方が紅く染まっているのが見えたから気になって見に行ったら魔物が溢れかえっていたんだったよな。 で、その魔物を全部倒した後に血まみれで倒れてる少女を見つけてギリギリ助けられた。 で、その少女を適当に見つけた孤児院に置いていったけどまさか気がついていたとはな。


「でも、これには続きがあってね。 その後私は外が怖くなったの。 違うね、外が怖くなったんじゃなくて、魔物が怖くなったんだろうね。 だって、夢にもあの時のことが出てくるんだもん。 でもね、妖狐になったコンちゃんと会ったあの日は、孤児院を出て一週間ほど経ってて冒険者として生きるか、他のことをするかしないと生きていけなくなってたの」


そうだったんだな。 事件の後、アリシアを怒らせて丸二日ほど鬼ごっこみたいなことになっていたからな。

ロゼと会ったこととかもう覚えてなかったからなぁ。


「それでね、コンちゃんと会ってからはその時の夢を見なくなって魔物が怖くなくなったの。 あぁ、私を守ってくれる人がこんなにも近くにいるんだって。 おかしいでしょ」

「いいや、おかしくないさ。 人ってそんなもんだからな」


ニシシと笑った。

そして俺たちは樹精霊ドライアドの森へと歩き出した。


「まずはどこに向かうの?」

『まずは、近くにある街のゼァーラに向かう。 魔物が多いと思うがそこに行けば後は簡単に行けるからな』

「ちょ、ちょっと待って! ゼァーラ!? あの獣の街!?」

『そのゼァーラだぞ? でもあそこは人が良いからよく遊びに行くぞ? 飯もうまいし』


俺たちが行こうとしているゼァーラは、獣人族と人が共存する街だ。 周りからは獣の街と呼ばれて毛嫌いされているが、あそこにはハズレの飯屋がないし、誰か人が来ればパレードでも行われているのかって言うぐらい人が集まり歓迎されるとても良い街で、冒険者に有難い迷宮も多く存在していて一種の観光地になっているが、それを知っているのは冒険者ぐらいだからそこまで意味はないのだけれども。


『それに、ゼァーラには俺が贔屓している情報屋もいるしな。 少しばかり勇者たちの境遇を知っておきたいのもあるからな』

「そうだよね。 私も蒼がなんでこの世界にきたのかがきになるから」

『いや、そんなことじゃなくて、なんであんなに弱いのかが気になる』


俺が勇者を見た時に疑問に思っていたことのもう一つだ。 まぁ、それよりも金髪でチャラチャラしたクソガキだった方がインパクトが大きかったけどな。

俺たちが育ててないのだとしても何が何でも弱すぎる。 俺たちがまだガキだった頃の文献には最初から龍族の魔物を倒せるぐらいの強さだって書いてあったのに、あの勇者は龍族に秒殺されるぐらいの魔力と力量しかなかった。 それを聞いておかないとダメだな。


「じゃあ行こうか! ゼァーラまで!」

『歩きじゃないぞ、馬車で行く。 馬車と蒸気機関車で一週間掛かるからな』

「え、一週間で着くの?」

『当たり前だ、アルセナを経由して行けば早く着くからな』


ゼァーラは、アルセナの西にある。

アルセナまでで六日ほどでそこからゼァーラまでは近いのですぐにゼァーラに着く。

だからそこまで急ぐ必要はないのだが、今回はミルドを探さないと行けないし、樹精霊ドライアドの森に俺の身体があるかもしれないと思うと早く着きたいという思いが止まらなくなってしまっていた。

それから俺は急ぐ気持ちを抑えながら一週間ほどが過ぎ去っていった。

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