第17話 一件落着

オルバリオがこちらを見てペコリと謝るように頭を下げると、こちらに歩き出してきた。


「ロゼくんが編入するクラスは、オーランジュ殿が受け持つクラスじゃが、初めはわしもついていくことにするからの」

「え?」

「えじゃのうて、ついていくと言っておるのじゃよ」


オルバリオがニカッと笑うが、笑うと強面になるタイプのようで、ロゼが怖がらないか気になった。

そこに、老婆が噛み付くように異議を立てた。


「学院長! なぜ、あなた自身が付いてくるのですか! あなたはゆっくりと学院長室で執務を行っておいてください!」


オルバリオ、お前嫌われてるな。 エルフの王族の時のお前は民衆に支持されていて次期エルフの王になるかも、とまで言われたのに今は邪魔者扱いされてやがって、少しは同情するよお前に……


「オーランジュ殿よ。 このわしが行って何か困るようなことでもあるのですかな? あなたは優秀な教師。 生徒を公平に扱っていると報告が上がるほどの教師であるあなたが、なぜわしが来ることになっただけで慌ててるのかの?」


してやったりといった面持ちでオルバリオは言った。 というより、もう反発、反論を少しでも言えば何かやましいことがあるんです! と言っているようなものになるのでおし黙ることしか出来ないわけだが。

思っていたより、オルバリオは策士だった。 そして、改めて周りを見渡してみると周りの教師たちが、おし黙るオーランジュを見てスカッとした表情を浮かべているところを見ると、老婆は優秀な教師という肩書きを乱用していたようでもあった。 こりゃ、裏を少し探れば汚職の証拠がわんさかと出てきそうだな。


『これは、付いてきてもらった方がいい。 あとあと動きやすくなるだろうしな』

「私も同じこと考えてた」


ロゼの耳元で囁くと、そう返ってきた。 本当に同じことを考えていたのかは怪しいが、フフッと微笑を浮かべてオルバリオと対面した。


「それでは学院長。 今日一日よろしくお願いします」

「うむ、任されたわい」


オルバリオはそう言うと、オーランジュの耳元で何かを呟くと、「付いてきなさい」と言い先導し始めた。 ロゼは、先導するオルバリオについていくことしか出来ないのでとりあえず付いて行った。 その後ろを殺気を隠すこともしないオーランジュがついてきているが誰一人オーランジュに何かを言おうとはしなかった。


「着いたぞ、ここだ」


たしかにここのプレートには、基礎魔法教室と書いてあるが不思議な雰囲気を中から感じた。


「中が少し騒がしいようじゃな。 まぁ、よかろう。 入れば変わるもんじゃろうしな」


そう言ってガラガラと引き戸を開けて中へと入っていった。


中に入るとそこには、この国では珍しくない段々と高いところに机があるような教室となっていた。 その中で一際目立っていたのは、生徒が魔法を使って喧嘩をしていることぐらいだろうか、すべて魔法は初級。 致死性のないには変わらないが非常に危ない。 魔力制御ミスで暴発しそうになるほどの基礎の基礎がなっていなかった。 ロゼの場合は、ある程度できていたからすっ飛ばしたが、固有魔法オリジナルが出来たため、魔力制御をさらにあげないといけなくなったのだが、ここは本当に魔力制御が出来ているのかわからないぐらい酷かった。


「『やめい!』」


オルバリオの一言で二人の間に発動しかかっていた魔法がパシュンと、音をたてて消えた。


「何すんだよ!」


喧嘩をしていた一人の生徒がこちらを見ずにそう怒鳴り声をあげた。 だがしかし、こちらを見たことにより恐怖が身体の全身を襲ったのか、蛇に睨まれたカエルとかしていた。


「が、学院長先生……」

「うむ、学院長じゃ、それより、お主らはなぜ魔法を誰かに向けて放っていたのじゃ? この学院では、ある条件下のもと以外は人に魔法を使うことは禁止してあるはずじゃが?」


オルバリオは怒っていた。 とても静かに、怒っていた。 なぜこのような危ない暴挙に出たのか、そう静かに聞いていたが、怖気付いてしまったのか、生徒はワナワナと唇を震えさせる事しか出来なかった。

だが、ここで一人、騒ぎの外にいた者が口を開いた。


「オーランジュ先生が、この教室内なら喧嘩で魔法を使うのをアリにすると言っていたからだと思います」


そうハキハキとした言葉で蒼は言った。

その言葉で、オルバリオの視線の先が生徒たちからオーランジュへと移動した。


「どういう意味ですかな、オーランジュ殿?」

「あの、いえ、これはその……」


先ほどまでの殺気はどこにいったのやら、オーランジュの顔は真っ青を通り越して白っぽくなっていくのがわかった。


「オーランジュ殿。 これは、教員会議による審議のもと結果を出し次第処罰を決めますので、それまでは、自宅謹慎を言い渡す」


オルバリオは、非常に穏やかに決まったことをはっきり、ゆっくりとオーランジュに言い聞かせるように言った。

オーランジュは、まさかここでバレるとは思っていなかったようで、両膝から崩れ落ち気力を失ったようになった。


「一件落着。 ってとこかな」


蒼は呑気にそんなことを一人呟いていた。

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