第77話 告白への返事
「先輩が過去の自分をどう思おうと、私の気持ちは変わりません。私にとって先輩は、ヒーローであり、憧れであり、大好きな人なんです」
「……っ」
真摯な眼差しと堂々とした告白に、思わず息を呑んでしまう。
話の流れ的に予期していなかったので、完全に不意打ちであった。
(どう、答えよう……)
はっきり言って、俺は朝霧さんに惹かれている。
歳の差はあるが、朝霧さんはとてもしっかりとしているし、何より純粋で真っすぐだ。
今まで女性の好みというものを意識したことはなかったけど、彼女は間違いなく自分の好みにヒットしていると言えるだろう。
しかし、だからと言ってこのままの流れで俺も好きだと言うのは、なんとなくだが躊躇われた。
チャラいというか、受け言葉に買い言葉のようでなんとなく真摯でない気がしてしまうのだ。
「……朝霧さんの気持ちは、とても嬉しいよ。俺も朝霧さんのことは、その、素敵な女の子だと思っている」
「本当ですか!?」
予想以上に食いついてこられた。
こういう所は、年齢らしいというか、普通の女の子らしい気がする。
「ああ。朝霧さんは、凄く大人びているし、真面目で純粋で、今まで自分の周りにはいなかったタイプだと思うよ」
「そ、そうですか……」
照れて顔を赤くする朝霧さんを見て、ああやっぱり可愛いなと思う。
ただこの感情は、女性として可愛いというよりも、妹に抱く感情に近い気がする。
「あ、あの!」
「う、うん、なに?」
「じゃあその、私と、付き合ってくれますか……?」
「……」
どうしよう。
今日の朝霧さんは、いつも以上に積極的だ。
「さっき先輩は、私の気持ちが嬉しいって言ってくれましたよね。それって、少なくとも私のこと、嫌っているんじゃないと思います。……いえ、自惚れかもしれませんが、少しくらいは好いてくれているんだと思っています」
その通りなのだが、言葉が出てこない。
俺って、なんて情けない男なのだろう……
「それで、本当に少しでも私のことを好いてくれているのなら、チャンスが欲しいんです」
「チャ、チャンス?」
「はい。お試しでも良いんで、私と付き合って欲しいんです。それで気に入らなければ、振ってくれて構いませんので……。お願いします!」
真摯にお願いをぶつけてくる朝霧さんに、俺は完全に気圧されたような状態になっていた。
正直な所、お試しで付き合うというのには若干抵抗がある。
気持ちがはっきりしないうちから付き合い始めるというのは、なんだか不誠実な気がするからだ。
ただ、現実的にはお互いが好きあった上で付き合い始めるなんてケースは稀だということも理解している。
実際、俺の周りで誕生したカップルも、ほとんどが一方的な恋愛感情から関係が始まっていた。
「お、俺は……」
このまま彼女に頭を下げさせたままでいるワケにもいかないので、俺はなんとか言葉を絞り出す。
しかし、内容がついてこず、再び沈黙してしまう。
「あ、あの、いきなり無理を言ってすいませんでした! こんなお願いされても、すぐには答えられませんよね! ……お返事は、今度でも構いませんので」
沈黙に耐えられなかったのか、朝霧さんが気を遣ってそんなこと言ってくる。
俺は情けなくなって、気づけば自分で自分を殴っていた。
「せ、先輩!?」
「……ごめん、朝霧さん。はっきりしなくて、男らしくなかったな」
「そ、そんなことありませんよ! いきなり変なことをお願いしたのは私なんですから!」
「いや、変なことだなんてことは、決してないよ」
俺は大きく息を吸い込んで、覚悟を決める。
いや、素直になると言った方がいいか……
「さっきも言った通り、俺は朝霧さんの気持ちが嬉しいと感じた。それは少なからず君に惹かれているところがあるからだ」
「っ!」
「だから、さっきのお願いも、正直に言えば嬉しかったんだ。……ただ同時に、自分の気持ちがまだはっきりしていなくて、こんな気持ちで付き合い始めていいのだろうかとも思ってしまったんだ」
「そんな……、私はそう思って貰えるだけでも、十分です……」
「いや、十分ではないよ。朝霧さんが真摯に気持ちをぶつけてくれたのに、こんな曖昧な回答で許されるワケがない」
「先輩……」
俺はもう一度深く深呼吸をし、朝霧さんのことを真っすぐ見つめる。
「でも、それが今の正直な気持ちなのは確かだ。……だからその上で、それでも朝霧さんが構わないと言うのであれば、俺と付き合ってくれないか?」
「っ! はい!」
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