先輩と後輩の恋愛模様
九傷
第1話 校舎裏の出会い
校舎裏というのは、大体どの学校でも人目に付きにくいというイメージがある。
そんな場所では、得てして人目を避けるような行為が行われがちだ。
例えば、いじめや恐喝の現場になったり、告白の場所になったり
そして今日も、俺はそんな現場に居合わせてしまった。
「……先輩方、そういうの、良くないんじゃ無いですかね?」
◇
(はぁ……、またやってしまった……)
俺には昔から、どうしても治らない病気がある。
いわゆる、中二病というヤツだ。
と言っても、右手が疼く~だとか、難しい漢字を使ってみたくなる、とかいった感じのではない。
育ってきた環境のせいか、どうにも曲がった事が嫌いで、一々余計なことに首を突っ込んでしまうのである。
良く言えば正義感が強く、悪く言えばヒーロー気取りと言えるこの性格は、高等部に上がった今でも矯正できないでいた。
「痛てて……」
口を拭うと、袖にはべっとりと赤い血がこべりついていた。
どうやら唇を切っていたらしい。
「はぁ……」
俺は口を拭うのを止め、再びため息をつく。
この性格を呪うのは別に初めてのことではないが、今日はいつにも増して凹んでいる。
上級生に喧嘩を売って返り討ちにあったことは、まあいいだろう。
怪我をするのも割としょっちゅうあることだし、これもまあ気にはならない。
しかし、今日は高等部に上がったばかりの初日なのである。
この学校は中高一貫であるため、入学式があったわけではないのだが、節目である事には変わりはない。
昨日までとは違い、制服も気持ちも一新された俺は、今日から始まる新生活に少なからず心を躍らせていたのだ。
それがまあ、いきなりこれである。
高等部初日から厄介ごとに首を突っ込み、新しい制服も早速汚してしまった。
凹むなという方が無理な話である。
(これじゃ結局、中等部の頃からまるで変わっていないじゃないか……)
「はぁ…」
何度目かわからないため息を吐きながら、俺は首だけで周囲を見渡す。
既に恐喝していた上級生たちの姿はなく、ここには俺だけしか残っていないようであった。
ここに来るには校舎を大きく迂回する必要があるので、普通の生徒はまず通ることがない。
わざわざ足を運ぶのは見回りの警備員や、先程のような行為をする輩だけだろう。
俺のようなもの好きを除けば、だが……
(そういえば、あの生徒は1年生だったのだろうか?)
俺が止めに入った際、恐喝されていた生徒は瞬く間に逃げて行ったため、しっかりとは確認できなかった。
高等部の制服を着ていたから同学年か一個上だとは思うが、正直自信はない。
中高一貫であることもあり、同学年の生徒には見知った顔も多いのだが、少なくとも俺の記憶には無い男子生徒であった。
もし同学年であれば、同じことが無いように注意をしておきたかったんだがな……
「先輩!」
俯いてそんなことを考えていると、離れた場所から女子の声が聞こえてくる。
何事かと思い声の聞こえた方を見ると、一人の女子生徒がこちらに向かって駆けてくる所であった。
(中等部の、生徒か……?)
今年になってデザインが変わったようだが、あの制服はうちの中等部のものだ。
その中等部の生徒が、なんでこんな所に……?
「大丈夫ですか! 先輩!」
女子生徒は俺のそばまで駆け寄ると、涙目になりながら俺の口をハンカチで拭う。
俺は一瞬何事かと呆けていたが、清潔なハンカチが血に汚れるのを見て我に返った。
「お、おい、大丈夫だから、やめてくれ。 ハンカチが汚れるだろ?」
「そんなの構いません!」
構わないなんてことは無いと思うんだが……
というか、彼女は一体……?
「それより、大丈夫ですか? 先輩……」
「ああ……、別に大した怪我はしてないよ。それより、君は一体?」
そう尋ねると、女子生徒はハッとしような顔をして動きを止めた。
しかし、少しの間をおいてから、何かの覚悟を決めたようにキリっとした顔つきになる。
「先輩は覚えていないかもしれませんが……、私は三年前、先輩に助けられた初等部の生徒です」
初等部…?
正直、身に覚えがあり過ぎて記憶に自信が無い……
「それ以来、私はずっと先輩のことを見ていました。それで今年になって、ようやく同じ校舎になれたから、会いに来たんです」
少女は俺の口を拭ったハンカチを握りしめながら、真剣な目で見つめてくる。
「今日まで三年間、我慢しました。その我慢も……、今日で終わりです」
そう言って、彼女は大きく深呼吸をする。そして――
「……先輩、私は貴方のことが好きです。私と、付き合ってください」
高等部に上がった初日から厄介ごとに首を突っ込んだ俺は、またいつもと変わらぬ日々が始まるのだと思い込んでいた。
しかし、この少女――
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