第50話 自室で男子と撮影会?
「お、お邪魔します」
「どうぞどうぞ。先に上がって、私の部屋で待ってて?」
杉山君は軽く頷くと、迷うことなく二階へと上がっていく。
既に何回かウチに来ていることもあり、流石に慣れた様子であった。
(……なんか、それって凄い事よね)
自宅に下級生の男子を招き入れる。
それも、何度も……
事実なのだが、言葉にすると中々に破廉恥な雰囲気がある。
まるでビッチのようだが、私は決してビッチなどではない。
多少腐ってはいるが、その辺のことに関しては奥手だという自負がある。
まあ、そんなことを自負してどうするんだと思わなくも無いが。
(そもそも、彼は別に彼氏でもなんでもないワケだし、意識するようなことじゃ…、ってむしろその方がアレなのか)
付き合ってもいない下級生の男子を、何度も自宅に招き入れる――
ビッチ感が半端ないな。
私はそんな下らないことを考えながら、飲み物を用意して部屋へ向かう。
部屋の前まで来た辺りで、杉山君がわざわざ扉を開いてくれた。
杉山君は意外にも紳士的な所があるので、ちょっと面白い。
「ありがとね」
私は少し余裕ぶりつつ、笑顔でお礼を言う。
彼はそれに対し「別に……」と照れ臭そうにしながら返してくる。
照れるくらいならやらなければ良いのに、と思う。
でも同時に、いつまでもそんな君でいて欲しいなどという、自分勝手な願望もあった。
「さてさて、早速だけど、コレが盗撮用のカメラ?」
「いや、盗撮用じゃないんで……。ただの小型カメラですよ」
「まあ、その通りなんだけど、結局は使い方次第だしねぇ……」
そう言いながら、テーブルの上に置かれたカメラを手に取る。
サイズ的には指でつまめる程度であり、ちょっとビックリするくらいの小ささである。
本当にこんなサイズでしっかり撮影できるのかと疑ってしまうが、市販されているからには勿論できるのだろう。
正直、ここまで小さいのであれば自宅のアチコチに仕掛けられてても、見つけるのは困難に思える。
そう思うと、少し怖い……
(杉山君が、もしコレを私の部屋に仕掛けていたとしたら……)
先程のように、部屋に彼を一人で待たせるというのは、かなり迂闊な行為だと言えるだろう。
それでなくとも、彼を部屋に招いたのは一回や二回では無いのだ。
もし彼がその気であれば、私の部屋には既に……
(……なんて、杉山君にはそんな度胸あるハズないけどね)
付き合い自体は長くないけど、彼とはゲームで繋がった間柄……、つまりはゲーム友達なのである。
そしてゲームというのは、どうにも本人の性格、性質といったものが表れやすい。
その観点から言えば、杉山君は間違いなく小心者と言えるのであった。
「……先輩、何か失礼なこと考えてませんか?」
「あら、良くわかったわね?」
「いや、そんな如何にも「無い無い……」なんて顔されたら、誰だってわかりますよ……」
確かに、そうかもしれない。
今の私は、学校にいる時よりも明らかに気が緩んでいる。
普段作っている表情も、家に帰ってまで作ったりはしないしね。
(まあそれでも、人前で表情を崩すなんてね。私も随分と、杉山君に心を許してしまっているなぁ……)
「……あの、当然ですが、盗撮なんかしてませんからね。こんなカメラを買ったのだって、初めてですし」
「ゴメンゴメン、別に疑ってないから。ただ、ちょっとイフ的なシチュエーションを想像しちゃってね?」
「……なんですかソレ。アレですか? ちょっと倒錯的というか、変態的な妄想というか……」
「違うわよ! ハイ! もう、この話はお終い!」
私がそう言うと、杉山君は少し不満そうにしながらも素直に黙る。
疑心を煽ったのは私だというのに、素直に引いてしまう辺り、やはり彼は小心者というか、気が弱いわね。
でも、女性の扱いとしてはある意味正解と言えるのかもしれない。
「それで、本当にお金は平気なの?」
「はい。昨日も説明しましたが、ほとんどポイントで買えましたので」
先日の電話で、こちらからカメラ代の折版を提案したのだが、彼はそれを断ってきた。
ほとんどポイントを使って購入したことを、彼は非常に言いづらそうに説明してくれたのだが、失礼ながら少し笑ってしまった。
「まあ、そういうことなら今回は引くけどね。でも、今度同じようなことがあったら、ちゃんと私も出すから」
「……無いとは思いますが、わかりました」
うん。まあ私も無いとは思う。
でも、口約束でもいいから、とりあえずは言っておかないとね。
本当にあったとき、また杉山君は勝手に動きそうな気がするから。
「あの、それじゃあ、俺はこれで……」
「ちょっとちょっと、なんで帰るの?」
「いや、だって実際に見てみたいと言うから持ってきただけですし。それに、これから色々と検証しないと……」
確かに、明日から行動を開始するのであれば、早めに検証する必要があるだろう。
いきなり使ってまともな映像が撮れるとも思えないし、当然と言えば当然のことである。
しかし、だからこそ私は彼をウチに呼んだのだ。
「だから、その検証のためにウチに呼んだのよ?」
「……はい?」
察しの悪い彼は、やはり私の言ってる意味を理解できなかったようだ。
予測していたことだが、仕方ない……
少し恥ずかしいが、口で言うしか無いだろう。
「……検証するなら、被写体があった方が良いでしょ?」
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