第75話 朝霧さんの過去③
その後、中山先生は私の話を真摯に聞いてくれた。
さっきまでのように否定的な意見もされず、終始首を縦に振っていたと思う。
「……よくわかった。話してくれてありがとうな、朝霧」
「いえ、こちらこそ、聞いて頂けまして、ありがとうございます」
さっきは全く聞く耳を持ってくれなかったのに、話してくれてありがとう?
なんて思ってしまったけど、結果的に聞いて貰えたので何も言わないことにする。
「この件については先生がなんとかしてみよう。朝霧は今まで通りにしていてくれ」
「わかりました」
先生がどうやってこの状況を改善してくれるかはわからないけど、これで嫌がらせの類が無くなるのであればとても助かる。
親に心配はかけまいと誤魔化してきていたけど、流石にそろそろ隠すのも限界だったのから……
「それじゃあ、そろそろ昼休みも終わるし、朝霧は戻れ」
「はい」
そういえば、お弁当は食べ損ねてしまったな……
お母さんに心配されたくないし、あとでこっそり食べることにしよう。
………………………………
………………………
……………
教室に戻り、授業の準備をする。
昼休みに入る前に教材は全てロッカーに閉まっておいたので、次の授業の教材については無事であった。
代わりに机が食べカスなどで少し汚されていたけど、このくらいなら拭けば済むことだし気にしないようにする。
「…………」
私が無言で机を拭いていると、斜め後ろの席の久川さんがこちらを見ながらニヤニヤと笑っていた。
カッとなって、貴方がやったの! と叫びたくなったが、それではいつもと一緒である。
私はなんとか我慢し、心を落ち着けるように努めた。
キーンコーンカーンコーン♪
チャイムが鳴り、中山先生が教室に入って来る。
机を拭いていたためギリギリになってしまったが、授業の用意はしっかりと済ませることができた。
流石にこのタイミングでは久川さん達もイタズラはできないようなので、今度からは一々全教科ロッカーにしまうことにしよう。
「あ~、授業を始める前に確認したいことがある」
(っ!?)
その言葉に、私はビクリと反応してしまう。
だって、このタイミングでそう切り出すということは……
「お前達の中に、朝霧に嫌がらせをしている生徒がいるというのは本当か?」
……やっぱりだ。
どうやら先生は、さっき私が話したことの確認を、今するつもりのようである。
……胃が痛くなってきた。
教室内はシーンとしており、誰も中山先生の質問に答えようとはしない。
当然だろう。自分から名乗り出るような子達なら、そもそも最初から嫌がらせなんかするハズがない。
他の生徒達も、わざわざ告げ口のようなことはしないだろう。
あとで恨まれるのがわかりきっているからだ。
「本人が名乗り出なくても、知っている生徒がいれば教えて欲しい」
中山先生がそう言うと、一瞬そわそわとした雰囲気が教室に伝播する。
しかし、やはり誰も名乗り出ることはなかった。
「……言いたくない気持ちはわかるが、黙っていてもどうにもならないぞ? お前達は、クラスメートがツライ思いをしているのに、何とも思わないのか?」
中山先生が追い打ちをかけるようにそう言うと、再び教室内にそわそわとした雰囲気が伝わる。
坂本さんなどは、今の私にも声をかけてくれる数少ない生徒なので、今にも手を上げそうな雰囲気だった。
しかし、そんな彼女を久川さん達が視線で牽制している。
結局、状況は変わりそうもなかった。
……いや、むしろ悪化している気さえする。
先程から、久川さん達がチラチラとこちらを見ているのだが、その視線が、怖い程に鋭くなっていた。
恐らく、私が先生に話したのだと思っているのだろう。
実際その通りなのだが、このままでは恨みが倍になって返ってきそうだった。
こんなことなら、先生に話さない方が状況はまだマシだったかもしれない。
「……朝霧は真面目で良い生徒だし、慕っている生徒も多いだろう。普通ならそんなことをされる子じゃないハズだ。それでも、そんなことが起きているというのなら、きっと何か理由があるんだろう。怒ったりはしないから、その理由を教えてくれないか?」
中山先生は、アプローチのしかたを変えたようだ。
今度は、私が嫌がらせを受ける原因を特定しようとしているらしい。
しかし、これも答える生徒はいないハズだ。
だって、私の真面目な態度が気に入らないなんて、先生に言えるはずがないだろう。
「……ふ~む、困ったな」
「困ったなじゃありません、一番困った人は、貴方です」
「っ!?」
中山先生がやれやれといった態度で呟いた言葉に、いきなり教室に入ってきた生徒が口を挟んできた。
その生徒は、先程職員室で私と中山先生の間に割り込んできた生徒である。
「君は……、確か塚原君だったか。何故こんな所に?」
「先生が、一番やってはいけないことをやりそうだったので、様子を見ていました」
「一番やってはいけない……?」
「この状況がそうですよ。貴方のやり方は、最低です」
塚原先輩は、そう言って中山先生に詰め寄った。
私や他の生徒は、それをハラハラした様子で見ているしかなかった。
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