第4話 百年の恋も冷める……?
スパーンという小気味良い音と共に確かな手ごたえを感じた俺は、コイツでも意外と中身詰まってるのだな、などと真面目に思った。
「いったぁーい!! 修君!? 痛いよ!?」
俺はキャアキャアと騒ぎ立てる
(今日は良い天気だな……。散歩日和かもしれない……)
遠くの景色を眺めながら、俺は心を落ち着かせるように努めた。
事態の収拾を図るには、時既に遅しというやつだろう。
事実を知った今、俺がすべきなのはこれからどう立ち回るかである。
さて、現実逃避もこの辺にして、やるべき事をやろうじゃあないか。
「……塚原、これだけは言っておくぞ」
「……?」
「俺はロリコンではない」
「あ、はい」
返ってきた生返事に、俺は目頭を押さえて首を横振る。
ああ、わかっていたさ。説得力が皆無な事くらいな……
しかし! それでも! 俺は否定するしかないのだ。
「……本当だぞ」
「あ、いえ……、別に疑ったわけでは……」
塚原は両手を胸の前で振って、誤解だと言う意思表示をする。
しかしその態度は、逆にただ気を使っているようにしか見えなかった。
「……本当に、本当だ」
「そ、そんな念を押さなくても、本当に疑っていませんって! 俺はただ、先輩が知らなかったことが少し意外だなぁと思っただけで……」
塚原の表情を見る限りでは、偽るような雰囲気は読み取れなかった。
(流石に疑り深かったか……)
そもそも塚原は、善意の嘘をつくなどといった器用な真似が出来る男ではない。
逆に、念を押しすぎて、不信感を与えてしまったかもしれないな……
「済まない。情けない話だが、本当に知らなかったんだ……。俺は何かと煙たがられる存在だし、そういった話を振られることもあまり無かったのでな……」
風紀委員という存在は、客観的に見ればあまり関わりあいたくない存在と言えるだろう。
よりはっきり言ってしまえば、嫌われ者とも言える。
風紀委員の活動は、学校によってその権力や活動に多少の違いはあるが、基本的な活動はどこも大差が無い。
昨今はプライバシーなどの問題から所持品検査などは減り、多くの場合服装や髪形の取り締まりが活動の中心となっている筈だ。
しかし、服装や髪形なんていうものは、見える形で個性を主張する最たる存在であり、こだわりを持っている者も少なくない。
それを同じ同じ学生でありながら取り締まると言うのだから、嫌われるのも当然と言えるだろう。
……つまり何が言いたいかというと、俺自身が嫌われているとかではないということだ。
「……まあ、今思うと思い当たる節が無いわけでは無いのだが、存外俺もお人好しだったようでな。……なぁ? 郁乃?」
「……えーっと、あれ? もしかしてコレって、ついにバレちゃった?」
頭を押さえてもがいていた郁乃も、流石にこの雰囲気から察したらしかった。
「先程、塚原から聞いた。中等部の間では、俺と郁乃が付き合っているのは有名な話らしいじゃないか?」
「う……、つ、 塚原! アンタがばらしたの!?」
「えぇ!? いや、ばらしたっていうか……」
「待て、塚原は何も悪くないぞ。悪いのは郁乃、お前だろう……」
「う……、でも……、私悪くないよ……? だって、皆には絶対内緒だよって言ったもん……」
俺はその言葉を聞いて、再び目頭を押さえて首を横に振った。
それはアレだ、皆に広めてよね! と言っているのと同義なのではないだろうか……
「それは……、どう考えても拡散される気しかしないな……」
「んな!? 塚原も私が悪いって言うの!? 塚原の癖に!?」
「そりゃ悪いに決まって……、っていうか癖にってなんだよ! 俺ら今まで面識なかっただろ! それなのになんでさっきから敵意むき出しだんだよ!」
「当ったり前でしょ!? 修君ってば私とのデート中でもやたらと塚原のこと話すんだよ!? もう敵以外ありえないじゃん!」
「そ、そんなこと言われても……、俺が一体何をしたって言うんだよ……」
そう言いながら、塚原が俺の事をチラチラと見てくる。
ふう……、やれやれだな……
「郁乃」
「ん? 何、修くべぇ!?」
俺はもう一度、郁乃の頭をハリセンではたく。
今度は先程と違い、幾分か手加減もしておいた。
しかし……、自分ではたいておいてなんだが、くべぇは無いんじゃないか? くべぇは……?
百年の恋も冷める、なんてことは無いが、少し音声的に引いたぞ……?
俺は頭を押さえてもがく自分の彼女を見ながら、しみじみとそんな感想を抱いた。
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