第70話 夢と現実の区別がつかない
俺の名前は
プチオタクだが、運動もできて性格も良いちょっとイケメン男子だ。
しかし、こんなに良物件だというのに、何故だかモテないという大きな問題を抱えていた。
そう……、
俺にも今日、ついに春が到来したのだ。
…………いや待て、舞い上がるのはまだ早いか。
時刻はまだ午前八時半を過ぎたばかりだ。夢という可能性は否定しきれない。
だから、まずは確認の必要があるだろう。
「塚原、俺を殴れ」
「いや、いきなりそんな事言われてもできるワケないだろ……」
「じゃあ蹴ってくれ!」
「じゃあって何だよ!? というかできるか! あと誤解をまねくから他の要求も却下だ!」
「何故だ!」
「何故もクソもあるか! いいから落ち着け! なんでこんな朝っぱらからそんなテンションなんだよ!?」
そう言いながらも、塚原は俺の頭にチョップを入れてくれる。
結果的には要求に応えてくれることになったため、俺としては大満足である。
「流石は俺の親友だ! お前はしっかり俺の期待に応えてくれたぞ!」
「……いや、正直引くレベルなんだが、本当にどうしたんだ? まさか、まだ寝ぼけているのか?」
「寝ぼけているワケないだろ! それを確認するためにお前に攻撃して貰ったんじゃないか!」
「それ俺に頼まなくても良かっただろ!? 自分でやれよ!?」
「失礼な! 俺にそんな趣味は無いぞ!」
「いや、人に殴られる趣味はあるのかよ……」
若干マゾッ気があるのは否定しないが、俺に自傷癖はない。
「塚原、そもそもマゾというのは外的要因によってこそだな……」
「いや、説明しなくていいから。というか本当にどうしたんだよ? 今日はいつにも増しておかしいぞ?」
その言い方では、まるでいつもおかしいように聞こえるのだが……
まあ、今は深く追求しないでおこう。
「実は、朝スマホを確認したら、麻生さんからメールが入っていたんだ」
「あ、それって弁当の件か?」
「何故知っている!?」
まさか、麻生さんは塚原にも……、って違うか。
朝霧さん経由で知ったんだろうな。多分。
「昨日の夜、朝霧さんからSNSで聞いたんだよ。良かったな」
「ああ。まさに夢のようだぜ。……本当に夢じゃないよな?」
「どんだけ現実感無いんだよ……」
そうは言うが、俺にとって女子に弁当を作ってきてもらうなどというイベントは、これまで一度たりとも無かったのである。
というか俺に限らず、パンピーには普通無いのだ。
リア充にはそれがわからないか……
「お前にはわかるまい……。そもそも俺は、昨日のことだって夢か幻の類だと思っていたんだからな……」
そう……、昨日一緒に弁当を食べたことだって、俺にとっては奇跡のようなイベントだったのである。
天然リア充である塚原のついでだったからこそまだ現実と認められたが、本来であれば昨日の時点で今日と同じ行動を取っていてもおかしくなかったハズなのだ。
「そんなワケないだろ。俺から見ても、今回のお前の取った行動は良かったと思ってるよ。それが麻生さんの感謝の気持ちになって返ってきているってだけの話だ」
この発言だけを聞くと、まるで塚原が打算で人助けをしているように思えるかもしれないが、この男は本気で見返りなど気にせずに人助けばかりしているのである。最初のうちは周りから偽善者だとか思われることもあったが、小中高とエスカレーター式のこの学校だからこそ、コイツが本物のバカであることは周知の事実となっている。
「……まあ、俺の場合は打算が無かったワケじゃないからな! いやぁ、人助けって良いな本当!」
照れ隠しでそう言うが、実際に打算も少しはあった。
俺は塚原のように聖人君子では無いので、そんな些細な期待をしてしまうことくらい別に普通だろう。
「打算でもなんでも、助けようと思って助けたことには変わりないだろ?」
「…………お前は本当に真顔で恥ずかしいこと言うよな」
俺に少しでもその
「しかしまあ、情けは人の為ならずとは良く言ったもんだよなぁ。誰が言ったか知らないけど、超リスペクトしちゃうぜ……」
「リスペクトするのは良いが、そういうことは人前で言わない方がいいぞ……。特に麻生さん達の前ではな」
「お、おう。もちろんだとも!」
俺だってワザワザ変な風に見られたいワケではない。
その辺のことはわきまえているつもりだ。
「なんだか非常に不安だが、本当に気を付けろよ? 今日は俺、いないんだからな」
「っ!? どういうことだ親友!」
「いや、どういうことも何も、そのままの意味だよ。今日は俺、前島さん達と食べることになってるんだ」
そういえば、塚原はなるべく前島さんと一緒に行動しなければならないという美味しい制約を課せられているのであった。
昨日はいなかったが、気弱そうな麻生さんに気を遣って断りを入れていたのかもしれない。
相変わらず、行動や気遣いっぷりがイケメンのソレである。
「そうか……。ん? いや待て。それはもしかして、今日の昼は俺と麻生さんの二人きりということか?」
「そうなんじゃないか? 多分だけど」
な、なんだってー!!
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