第67話 中庭でイチャつく③
「……とまあ、そんなワケなの」
藤原先輩は、俺達にこれまでの経緯や状況を説明してくれた。
それは杉山との馴れ初めと言える内容であり、朝霧さんや麻生さんなんかは顔を赤らめながらも食いつくように話を聞いていた。
塚本なんかは物凄く恨めしそうに杉山のことを見ており、杉山は顔を真っ赤にしてそっぽを向いている。
「杉山……、お前って奴はなんて羨ましい思いを……」
「そ、そんな事を言われても! 俺は何も……」
目を合わせようとしない杉山に対し、ついに塚本が襟首を持ってガクガクとし始める。
俺はひとまず塚本の頭にチョップを入れ、二人を引き離す。
「やめろ塚本……。いくら羨ましいからといって、みっともないぞ?」
「だって……、だってよぅ……」
情けない声をあげる塚本に、俺はやれやれと溜息を吐く。
この男は、ここに麻生さん達も一緒にいることを忘れているのではないだろう?
「だってじゃないだろ……。後輩の前で情けない姿を見せるなよな……」
俺がそう言うと、塚本は途端にシャキッとし始める。
どうやら、本当に忘れていたらしい。
「ふふ、塚本君て面白いのね」
「い、いやー、よく言われます!」
ほとんどお世辞であろう藤原先輩の言葉に、塚本はやたら嬉しそうに反応する。
単純で、目出度い男である。
「それで、貴方達はどうしてワザワザこんな所に?」
桃色な雰囲気が切り替わったタイミングで、藤原先輩が俺に尋ねてくる。
本当であれば最初に尋ねられるような内容であったが、塚本が大騒ぎしたせいで先に藤原先輩に話させることになってしまったのだ。
「実は、俺達もあまり人目に付かない所を探していたんですよね。そしたら藤原先輩達がいて……。すいません、お邪魔してしまったようで……」
「あら、全然問題ないわよ? 杉山君が恥ずかしがるからココにしただけだから」
そう言って藤原先輩がチラリと横に視線を送ると、杉山は慌てて訂正を口にする。
「ち、ちが……! 先輩がココで食べようって言ったから……」
「じゃあ、教室で食べて良かったの?」
「うぐ……」
しかし、藤原先輩の一言で杉山は二の句を継げなくなってしまった。
主導権は完全に藤原先輩に握られているようである。
「それにしても、可愛らしいお弁当ね。朝霧さん達の手作りかしら?」
「はい。凄いんですよ朝霧さん。物凄く料理が上手で……」
俺はそう言いながらフワフワの卵焼きを口に含み、ゆっくりと咀嚼する。
(うん、やはり美味い)
お弁当の卵焼きって少し硬くなっているイメージだったけど、このフワフワ感は一体どうやっているんだろうか?
食べた事は無いけど、テレビとかで見た一流のお寿司屋さんの卵焼きとかと同じレベルなんじゃないかとすら思える。
「……本当に美味しそうに食べるわね」
「いや、本当に美味いんですって藤原先輩! こっちは麻生ちゃんが作ってくれたお弁当なんですけど、コレも滅茶苦茶美味くて……、うぅ……、生きててよかった……。ありがとね、麻生ちゃん……」
本当に涙でも流しそうな勢いで弁当を貪り食う塚原。
「ぜ、全部柚葉ちゃんが教えてくれたお陰ですから……。でも、その、ありがとうございます……」
麻生さんは顔を赤くしながら謙遜するが、褒められたのは満更でも無いらしく、少し表情が緩んでいる。
俺は彼女の強張った顔しか知らなかったので、それを見て今更ながらようやく安心することができた。
「……そんなに美味しいの? ちょっとだけ味見していい?」
「ど、どうぞ……」
そう言われ、朝霧さんがおずおずといった感じで自分の弁当を差し出す。
藤原先輩は差し出された弁当から、先程俺が食べたのと同じ卵焼きをチョイスし口に含む。
「っ!?」
その瞬間、藤原先輩の目が驚愕に見開かれる。
それなりに長い付き合いだが、あんな表情は初めて見たかもしれない。
「……これは、とんでもないわね」
藤原先輩としては最高レベルの評価なのかもしれないが、その表情は何故か険しいものに変わっていた。
「そ、そんなに……? あの、俺も少し貰って……」
「駄目よ」
流石に興味をひかれたのか、杉山も朝霧さんに味見させて貰おうとしたようだが、それを藤原先輩がピシャリと遮断する。
「な、なんでですか!?」
「……察しなさい」
「そうだぞ杉山! お前は藤原先輩の手作り弁当を食べてるんだから、贅沢を言うんじゃない!」
「……だな。折角藤原先輩が作ってくれた弁当があるのに、他の人の弁当にまで手を付けるのは良く無いぞ?」
杉山には悪いが、こればかりは塚本と同意見である。
俺が言えたことではないかもしれないが、流石に今のはデリカシーに欠ける発言だと思う。
……まあ、藤原先輩の意図は別にありそうだが。
「り、理不尽だ……」
残念ながら杉山はそれに気づいていないようだが、藤原先輩はむしろホッとしている様子である。
(……しかし、ポーカーフェイスが得意な藤原先輩が、ここまで表情を乱すとはなぁ)
信じていないワケでは無かったが、藤原先輩から告白したというのを、俺は正直想像はできなかった。
しかし、今の藤原先輩を見ていると、その話も現実味が増してくる気がする。
「あの、藤原先輩、ちょっとお話があるんですが……」
珍しく柔らかい雰囲気を出しているせいか、朝霧さん達も声がかけやすくなっているようである。
彼女達は三人で恋バナ? か何かに花を咲かせ始め、俺達男三人は、空気のような存在になってしまったのであった。
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