第68話 朝霧さんのお料理教室①



「「お、お邪魔します」」



「いらっしゃい。さ、二人とも上がって上がって」



 お客様用のスリッパを並べ、二人に上がるよう催促する。

 朝霧さんも麻生さんも、靴を脱いだ後しっかり揃えている辺り、育ちの良さが伺える。



「今日はわざわざ来てくれてありがとね」



「いえ、こちらこそお招きいただきありがとうございます」



 そう言って頭を下げる朝霧さんに、私は少しドキドキしていた。



(……この子、ちょっと可愛すぎじゃない? こんなの、ロリコンが大量生産されてもおかしくないでしょ……)



 私服の朝霧さんは、外で見つけたらお持ち帰りしたくなるレベルの存在感を発していた。

 制服姿ももちろん可愛いけど、これはそのギャップというか何というか、ともかく凄まじくグッとくるものがあった。



(ここは既に自分の家だし、お持ち帰り自体は完了していると言えるけど、いっそこのまま監禁してしま……って私は何を考えているの!?)



 思考が危ない方向に行きかけたが、なんとか平静を取り戻す。



(ど、同性の私をここまで魅了するなんて……。朝霧さん……恐ろしい子!)



「あの、藤原先輩?」



「っ!? ごめんなさい! ちょっとぼーっとしちゃって……。と、とりあえず私の部屋に向かいましょうか」



「「は、はい」」



 動揺を誤魔化しつつ、まずは二人を自分の部屋に案内する。



「適当にくつろいでてね。私は何か飲み物持ってくるから。……あ、荷物の類はここに置いちゃって構わないわ」



 私がそう言って部屋を出ていこうとすると、その寸前で朝霧さんに呼び止められる。



「あの、でしたら私も行って良いでしょうか? ナマモノを持ってきたので、出来れば冷蔵庫を貸して頂けたらと……」



「あら? もしかして、何か材料を持ってきてくれたの?」



 今日二人に来てもらったのは、朝霧さんから料理を教わる為である。

 材料の類は用意しておくと伝えてあったのだけど、気を利かせて持ち込んでくれたようであった。



「うーん。それじゃあ、二人が良ければだけど、早速始めちゃいましょうか?」



「あ、私はすぐ始められます。たまちゃんは大丈夫?」



「は、はい。私も大丈夫です」



「それじゃあ、キッチンへ向かいましょうか」





 …………………………………………



 …………………………



 ……………





「うわぁ、広いキッチンですねぇ」



 麻生さんが、うちのキッチンを見て感嘆の声を漏らす。

 私は自分の家のキッチンしか知らないのであまり実感は無いのだけど、麻生さんから見ると広いらしい。



「まあ、広くても使いきれてないから、あまり意味無いんだけどね」



「そんな事ありませんよ。キッチンが広いのは良いことだと思います。私達三人が立っても余裕がありそうですし」



 朝霧さんはそう言いつつ、キッチン内の配置などを確認しているようだ。

 その目つきは、まるでどこぞのたくみのようである。



「……えっと、もしかして何か問題あるかしら?」



「あ、すいません。ちょっと調理器具や配置、動線の確認をしていただけですので。キッチンには全く問題無いと思いますよ」



 ど、動線……?

 やはりこの子、匠か何かなのかしら……

 あれだけ料理が上手なのも、それなら納得出来る気がする。



「それで、藤原先輩。今日は何を作る予定なのでしょうか?」



 そういえば、材料は用意しておくから色々教えてとは言ったものの、具体的に何をというのは伝えていなかった。

 絶対に教えて貰おうと思っていたものは決めていたのだけど……



「とりあえず、私は卵焼きかしら。朝霧さんの作った卵焼き、物凄く美味しかったしね」



「あ、私もです」



 どうやら、麻生さんもあの卵焼きの作り方を習いたかったようだ。

 先日のお弁当は朝霧さんと一緒に作ったみたいだけど、その時には教わらなかったのかもしれない。



「わかりました。じゃあ、まずは卵焼きの作り方から説明しますね。……と言っても、そこまで難しいワケじゃないんですけどね」



 そう言って朝霧さんは、手際よくフライパンや材料を用意し、目の前に並べ始める。



「サイズとか好みによって味付けは変わるんですけど、まずはオーソドックスにお弁当向けのサイズで、味は甘めに作りたいと思います」



「良いわね。私、甘い卵焼きも大好き」



 卵焼きの味付けは各家庭や地方により違うものだけど、女子的にはやはり甘い味に惹かれるものがある。

 しかし、砂糖を増やすと焦げ付きやすくなるのが悩ましい所であった。



「あれ? 柚葉ちゃん、マヨネーズなんて使うの?」



「うん。お弁当とかに入れる時は、マヨネーズを使うと良いんだよ。冷めてもふんわり感が残るの」



「へぇ~、そうなんだ。結構混ざりにくいイメージあるけど……」



「あ、それはちゃんと混ざらなくても良くてですね……」



 朝霧さんは鮮やかな手つきで調理をしつつ、細かい説明を入れてくれる。

 私と麻生さんは、その説明を熱心に聞きながらメモを取っていく。


 数分で完成した卵焼きは、出来たてのとろふわでとても美味しかった。





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