第66話 中庭でイチャつく②
あ……ありのまま 今 起こっている事を話すぜ!
俺は、奴に告白されたと思ったら、いつの間にか昼食に誘われていた。
な……、何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起きてるかわからねぇ。
頭がどうにかなりそうだった……
催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。
手作り弁当……。その片鱗を味わっているぜ……
要約すると、つまりはそういうことである。
俺は今、自分に告白してきた二つ年上の先輩と一緒に、彼女の作った手作り弁当を食べているワケだ。
(……いや、本当に一体どういうこと!?)
一先ず心の中でツッコミを入れてみる。
しかし、こうして一人漫才のようなことをしても、俺は一向に冷静にはなれなかった。
「……どう?」
「……めっちゃ美味いです」
「そ♪ 良かった♪」
(先輩、何なんなんですか? その可愛い表情や仕草は? 俺を殺す気なんですか?)
先輩は渡されたパンを頂くと言いながらも、未だ袋を開封することも無く、俺が食べているところを見ている。
女子は「恥ずかしいから食べている所を見ないで」なんて言うが、それは男子だって一緒である。
こうマジマジと見られていると、落ち着いて食べることなど不可能であった。
「せ、先輩も見てないで食べて下さいよ」
「ん~……、もう少し見ていたいんだけど、食べづらい?」
「はい。物凄く食べづらいです……」
「じゃあ、仕方ないか……。私も頂くとするわね……って、何? このパン……」
先輩は俺が渡した菓子パン、『イチゴクリームメロンパン』を見て絶句していた。
「書いてある通り、『イチゴクリームメロンパン』ですよ」
「いや、それは見ればわかるけど……。もしかして杉山君って、甘党なの?」
「いいえ。嫌いではありませんが、甘党という程でもありませんよ」
そう言って俺はニヤリと笑って見せる。
今日は朝から動揺させられっぱなしであったが、ようやくこちらのターンが来たようであった。
(正直危なかったが、これで流れを掴めばコッチのもんだ……)
実の所、俺はもうそろそろ限界だったのである。
何がって……、無論平静を保つのがだ。
純真な男子高校生である俺が、美人の先輩にここまでされて表面上平静を保てていたのには当然理由がある。
それは、四時限目の途中で頭から水を浴びたことにより、頭が冷えているという恩恵があったからだ。
水に濡れて半乾きの頭は、所謂湯冷めのような状態を作り出し、今も俺の頭を程よく冷やしてくれている。
この状態でなければ、俺は間違いなく顔を真っ赤にし、テンパってまともに話すことなどできなかっただろう。
不幸中の幸い……というワケではないが、自分のちょっとアレな行動が良い方向に働いてくれたというワケだ。
とはいえ、コレは一時的な恩恵でしかない。
ゲームでいう所の、バフがかかっている状態でしかないのである。
つまり、時間経過でバフが消える前に、なんとか状況を好転させる必要があったのだ。
「ただ、そのパンは購買で売っているパンの中で最もカロリーが高いんですよ」
「え……、カロリーが高いからコレを選んだの?」
「はい。何せそれ一つで、一食に必要なカロリーを摂取できますからね」
俺は両親から食費を出して貰っているが、決して余裕のある額を貰っているワケではない。
それは親がケチだからというワケではなく、自分から遠慮したからであった。
引き籠り生活で色々と迷惑をかけていた癖に、調子よく親の気遣いだけを受けとるような真似はできなかったのである。
……とはいえ、遊ぶ金が欲しくないというワケではない。
やはり新作のゲームや漫画などは欲しくなるし、他にも色々と私物は購入したくなるものだ。
その為にはバイトでもしてお金を稼ぐ必要があるのだが、残念ながら豊穣学園ではバイトが禁止されたいた。
そんな俺が効率的に金銭を貯めるには、食費を削るしかなかったのである。
「……成程。杉山君らしい理由ね。……で、その顔を見る限り、私がどんな反応するか見たかったって所かしら」
「っ! そ、そんなつもりはありませんよ!?」
当たらずとも遠からずといった所を突かれ、流石に動揺をおもてに出してしまう。
正確には、先輩が『イチゴクリームメロンパン』を複雑そうな顔で食べるのを、逆に観察してやろうと思っていたのだ。
「まあ、確かに高カロリーってのは女子として少し思う所はあるけどね。……ちなみに、私を太らせて食べようって気じゃ、もちろん無いわよね?」
「んなっ!? そんなワケないでしょう!?」
い、いかん!
想定外の口撃に、バフが完全に剥がされてしまった!
「冗談だったのに、そんなに動揺しなくても良いじゃない」
先輩は俺の反応を見て、楽し気に笑っている。
その顔はとても可愛らしいのだが、今この瞬間においては小悪魔のように見えた。
「でも、わざわざパン一つで済ませようってことは、やっぱり節約の為よね?」
俺は未だ動揺から抜け出せず、頷いて返すことしかできない。
「……じゃあ、丁度良いわね。明日から、私が杉山君のお弁当を作ってきてあげる」
照れたような表情でそう言う先輩を見て、今度こそ俺は真っ白になった。
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