第19話 そんなに期待されても、困ってしまう
「あっ! 柚葉戻ってきた!」
教室に戻ってくると、
三人の表情は明らかに期待に満ちていて、私はそれを見て思わず苦笑してしまった。
「あはは……、そんなに期待されても、特に何かあったワケじゃないよ?」
「それは絶対嘘だよ! だって柚葉、凄い嬉しそうな顔してたもん!」
嘘……? 顔に出てた……?
ちゃんとトイレで顔を引き締めたつもりなんだけどなぁ……
「凄いね静流ちゃん、私、全然わからなかったよ……」
「そりゃ付き合い長いからね! 柚葉のことに関しては、ある意味柚葉以上にわかっているんだから!」
胸を逸らして自慢げに語る静流ちゃん。
昔から疑問に思っていたけど、何故私のことを語る時、いつも自慢げになるのだろう……?
「凄いね……。私、そんなに長い付き合いのあるお友達、いないから……」
「大丈夫だよ
のどかちゃんの言葉に反応して、周囲の男子が一斉に目を背ける。
確かに、静流ちゃんの胸は一年生の中ではかなり大きい方だと思う。
初等部時代も、それで少し問題になったことがあったくらいだから……
でも、今男子達が注目していた点はそこだけではないと思う。
「のどか! アンタこそ、女子が口にしてはいけない単語を口にしてたよ! 今の注目は間違いなくアンタのせいだからね!?」
そう、まさにその通り。
案の定、環ちゃんは恥ずかしそうに俯いてしまっていた。
私だって、少し顔が火照っている気がする……
だって、あんな単語で注目されたら、流石に恥ずかしいもの……
「え? 私が……? って、ああっ! そういうことか! ゴメンね! たま……き、ちゃん?」
何故そこでぎこちなくなるのだろう……
疑問形なのも良くわからないし。
「のどか……、そろそろそのあだ名で呼ぶのやめない? 私達、もう中等部なんだからさ……」
「ええ~! いいじゃん別に~」
「私達はいいけど、知り合ったばかりの子にあだ名を勝手につけるのはやめなよ。環ちゃんもあんな呼ばれ方されたら流石に可哀そうでしょ?」
「う~ん、確かに今のは私が悪かった……。ゴメンね? 環ちゃん」
「あ、いえ、その、大丈夫です。ちょっとビックリしただけなので……」
ビックリするのも当然だと思う。
いきなり自分を指して、その……、ゴニョゴニョ……と言われたら、誰だって驚くだろう。
もし私が言われたら、確実に固まってしまう自信がある。
「本当ゴメン! それでさ、環ちゃんのことは、今度からタマちゃんって呼んでいいかな?」
「どうしてもあだ名で呼ぶんだ……」
「それがアタシのポリシーなの! ……で、どう? 環ちゃん?」
「あ、はい、是非お願いします! 私、あだ名で呼ばれるのなんて初めてで、ちょっと嬉しいです」
どうやら環ちゃんは、あだ名で呼ばれること自体はお気に召したみたいだ。
「じゃあ、私達もタマちゃんって呼んでいい?」
「う、うん」
環ちゃん、いや、タマちゃんは本当に嬉しそうにしている。
それを見て、私は少し安心をした。
まだ友達になって間もないせいもあると思うけど、彼女は余り感情を
それが少し不安だったのだ。
「さて、話は逸れたけど、どうだったのよ柚葉!」
「えっと……、本当に大したことは……。でも、お弁当を食べて貰えて、美味しいって言ってくれたから、ちょっと嬉しかった……、かな」
「やったじゃん! 柚葉のお弁当食べたって貰えたってことは、もう胃袋をつかんだも同然ってことでしょ!?」
胃袋をつかむって……
確かにお母さんも、「男をつかむのなら、まず胃袋をつかむのです」って言ってたけど、正直大げさなんじゃないかと思う。
仮にそれが本当だとしても、私の料理じゃまだまだお母さんには全然かなわないからな……
……でも、美味しいって言ってもらえたのは本当に嬉しかったし、これからも努力は続けようとは思う。
「それでそれで! 他には何かあった!? アーンしたとか、されたとか!」
三人はまたしても期待に満ちた表情で迫ってくる。
普段おとなしいタマちゃんまで積極的なのが、少し意外だった。
女の子だし、やっぱりこういう話は好きなのかな……
私はちょっと苦手だけど……
「別に、他には何もないよ。あ、でも凄い怖い顔の先輩に、急に立ってお辞儀されたのはちょっと驚いた、かな?」
私がそう言うと、何故かのどかちゃんが硬直してしまう。
「……凄い怖い顔の先輩?」
「う、うん、確か伊藤先輩って……。あれ……? もしかして……」
「……うん、多分それ、私のお兄ちゃんだ」
やっぱり……
でも、のどかちゃんは、なんでそんな嫌そうな顔をするんだろう……
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