第18話 前島さんについての説明



「…それで、今日は何故女子が二人も一緒なんだ?」



 食事を平らげ、伊藤が尋ねてくる。

 本来であれば真っ先に出る質問だと思うのだが、長年の付き合いから伊藤の中で食事が最優先であることくらい承知済である。



「いや、それが塚本が急に提案しだしてな……」



 そう言って塚本を見ると、待ってましたといった感じで身を乗り出してくる。



「そうそう本題はそれなんだよ! いやな、塚原から聞いたんじゃイマイチ状況がわからねぇからさ、この際当人達を交えて話を聞かせてもらおうと思ってな!」



 イマイチ状況わからない……、そういうことだったのか……

 俺は確かに自分のことを語るのが苦手だし、軽く説明しただけではちゃんと伝わってなかったのかもしれない。



「成程な。確かに塚原は人の話は進んで聞く癖に、自分のことを話すのは苦手だからな……。良い判断だろう」



 う……、やっぱり人から見てもそう思われてたのか……

 当然と言えば当然なんだけど、少し凹むな……



「……いや、ちゃんと説明できなかったのは悪かったけど、今回の件は俺も頭を悩ませていてな……。それでしゅう先輩や塚本に相談を持ち掛けたんだけど……」



 塚本に相談しようとすると何故かどんどんこじれていくし、修先輩に至ってはより面倒ごとが増える形になってしまったのだ。



「あーっ!今、 しゅう君の事しゅう先輩って言ったぁ!? しゅうって呼んでいいのは私だけなのに!?」



「え、いや、何そのルール……。俺は昔から先輩のこと、しゅう先輩って呼んでたけど……」



 しゅう先輩の本名は坂本 修さかもと あつむという。

 アツムという読み方は少し特殊なので、昔からよく読み間違えられていたらしい。

 ただ、本人はあまり気にしていないようであり、むしろシュウの方が呼ばれ慣れてると言っていたが……



「昔っていつ!?」



「中1の頃かな。委員会が一緒だったんだよ」



「私よりも前、だと……」



 前島さんはそれがショックだったのか、俯いて何やらブツブツと言い始めた。

 結構面白いな、この子……



「……朝霧さんからは自己紹介があったが、彼女は一体誰なんだ?」



「ああ、彼女は前島 郁乃まえじま いくのさん。俺達と同学年で、一応修先輩の彼女ってことになっている」



「ちょっと!? なんでそんな彼女(仮)みたいな紹介になってんのよ!?」



 いやぁ、だって君が喋れば喋るほど、修先輩の彼女というイメージから遠のいていくんだよなぁ……



「彼女……。あの、前島先輩には、もうお付き合いしている方がいるということでしょうか?」



 それまで静かに話を聞いていた朝霧さんが、彼女という言葉に反応したのか話題に参加してくる。



「そうよ! 私には修君という最高の彼氏がいるんだから! アンタ勘違いしてたみたいだけど、塚原になんか全っ然っ! 興味ないからね!」



 その言葉を聞いて、朝霧さんはホッとした表情をする。

 どうやら彼女は、前島さんが俺に好意を持っていると思って突っかかっていたらしい。

 どう見てもそうは見えなかったと思うんだけど、はたから見るとそんな風に見えていたのだろうか……



「ふむ、前島は坂本先輩の彼女と。で、その彼女様がどんな理由でここにいるんだ?」



「そうそう、俺もそこが一番気になったんだよ! 何故か前島さんと塚原が、朝一緒に学校来る約束とか飯を一緒に食う約束してたらしいんだよ! 謎だろ!?」



 それについては、正直俺にとっても謎なんだよ……

 俺は前島さんに説明を促すよう視線を送る。



「それは……、修君に塚原と仲良くなれって言われて、仕方なく……」



「……ゴクリ、ま、前島さん……、それは、何かのプレイなのかな?」



「「違うわ(よ)!」」



 真剣な顔でバカな質問をしてくる塚本に、俺と前島さんがほぼ同時にツッコミを入れる。



「プレイ……?」



 朝霧さんはその質問の意図がわからなかったようで、不思議そうに首をかしげる。

 世の中、知らないで良いことはたくさんあるので、そのままの君でいて欲しいなどと思ってしまった。



「倒錯的なプレイでないとしたら、坂本先輩の目的はなんなんだ?」



 伊藤……、お前にもそれを真っ先に思いついたのかよ……

 伊藤が顔に似合わずそういった知識が豊富なのは、主に塚本の影響だったりする。

 塚本の下らない知識は、俺達に少なからず影響を与えているのだ。


 誤解されたままではお話にならないので、俺は仕方なくこれまでの経緯を説明するのであった……



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