第26話 念願のゲームプレイ……なのだが……



 俺の名前は杉山 孝弘すぎやま たかひろ

 周囲には秘密だが、筋金入りのオタク野郎である。


 俺は現在、自部屋にて念願の『戦国TUBU 5』をプレイ中である。

 しかし、待ちに待ったゲームをプレイ中だというのに、俺は中々集中できないでいた。

 その理由は――、


 ピロリン♪


 スマホから電子音が鳴る。

 この電子音、正確にはそれの発信源こそが、俺の集中力を乱す原因であった。



「何故、こんな事に……」



 先程から頭の中で反芻され続けていた言葉が、ついに口から出てしまった。

 独り言については治そうと努力しているのだが、一人になるとすぐ油断してしまう……

 まあ、正直今回ばかりはそれどころではない心境なのだが……


 俺はスマホのロックを解除し、つい今しがた届いたメッセージを確認する。



『もう始めてる? どのキャラを選んだかしら?』



 メッセージの送り主は、先程連絡先を交換し合った藤原 茉莉花ふじわら まりか先輩である。



「…………」



 俺はそのメッセージに対し、複雑な気分になりながらも返信を打つ。

 しかし、入力が終わる前に再びメッセージを受信する。



『ん? もしかして、まだ始めてないのかしら?』



 そんな事はない……

 もう始めているし、今始めたキャラを入力して送る所だったんだ。

 ただ、スマホの入力に不慣れな為、返信に時間がかかっただけである。

 仕方ないじゃないか……。だって俺は、スマホでメッセージのやり取りをすること自体初めてなのだから……

 このSNSだって、先輩に言われて初めてインストールしたものだしな……



『良かった、もう始めてるのね? 私はどうしようかな~、好みで言えばユッキーなんだけど、何か希望ある?』



 好みで選べばいいじゃないか……

 そうは思うのだが、先輩は恐らく攻略を意識してキャラクター選択を迷っているのだろう。


 『戦国TUBU』シリーズは、主人公選択式のアクションRPGである。

 主人公ごとにそれぞれシナリオが用意されており、基本は選んだ主人公単位でストーリーが進むのだが、本筋のストーリーは共通しているため、時折それぞれの主人公のシナリオがクロスすることがあり、別視点での展開を楽しむことができるのだ。

 しかも、その別視点こそが攻略の重要な要素になることもあり、決して一人の主人公をプレイするだけでは、クリアできないように作られているのである。

 つまり、自力でクリアするためには、全ての主人公でプレイすることが必須となるのだ。


 それには当然それなりの時間を要することになるが、当然それを回避する方法も存在する。

 とても単純な事であるが、攻略情報を見るか、他者と協力すれば良いのである。

 ……しかし、両者にはそれぞれ問題点が存在していた。


 まず、攻略情報を見ることについてだが、大きな問題として、『攻略以外の情報が目に入ってしまう』というものがある。

 攻略情報を見るには最も手っ取り早く確実なのだが、その情報量からストーリーの秘密を含むネタバレが目に入ってしまう可能性が高いのである。

 これはストーリー性を重視するゲームにとっては、ある意味致命的な要素だ。

 だから、この方法は真のゲームファンには余り好まれない方法であった。


 次に他者との協力についてだが、こちらは実に単純な問題だ。

 それは、そもそもの大前提として協力できる仲間が必要なのである……



 ピピピ♪ ピピピ♪



 俺がなんと返そうか逡巡していると、急に電話がかかってくる。

 ディスプレイには、藤原 茉莉花と表示されていた。



「も、もしもし……」



『もしもし、杉山君、返事遅いから電話しちゃった』



「す、すみません、スマホの入力に不慣れでして……」



『ああ、そうなんだ? じゃあ、今度からゲームしてるときは電話で連絡するわね』



 ……今度から、ということは、やはり今後もコレが続くのであろうか。



「で、でも、電話していると、ゲームできませんよ?」



『え、そんなのハンズフリーにすればいいじゃない?』



 ああ、そういえば電話にはそんな機能があったな……

 まあそれなら、ボイスチャットでゲームするのと変わりないか。

 いや、ボイスチャット自体はやったことは無いんだけどな……


 本来であれば、俺は一押しのゲームをやる際、外界との接触をほとんど絶った上でゲームの世界に没頭する。

 食事は手元に用意しておくし、スマホの電源も落としてしまうのだ。

 なんと言っても俺は、至高のソロプレイヤーだからな!


 しかしその俺が、まさか他者との協力プレイをすることになるとは……

 それも、相手は女性である。

 正直、天変地異の前触れか何かと思ったくらいだ。

 いや、あるいは今のこの状況自体、夢か幻かもしれない……?



『フフッ……、じゃあ私はケイちゃんで始めるわね? それじゃ、何かあったら連絡頂戴ね~』



 暫く会話した後、先輩からの通話が切れる。

 この通話はいつまで続くのだろうと不安に思っていたので、少し安心した。

 しかし、何故だか妙なソワソワ感が取れず、結局ゲームには余り集中できなかった……



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