第25話 悪巧み
(外部編入生、か……)
日々男子生徒のベストなカップリングを研究している私が知らないとなると、確かにそれくらいしかないだろう。
豊穣学園は、外部編入を受け入れてはいるのだけど、その採用率は極めて低かったりする。
毎年、多くても3人程しか受け入れておらず、少ない時は0人なんて年もあったりするくらいだ。
私の学年は正にその0人だった年であり、今まで外部編入生と関わりあうことはなかったのだけど、まさかこんなかたちで関わりあうことになろうとは……
「あ、あの……」
「ん……?」
「いえ、その、そろそろ手を放して欲しいな、と……」
そう言われて、私は男子生徒の腕を掴んだままだったことに気づく。
しかし、男子生徒は既に『戦国TUBU 5』の購入を終えているようであった。
どうやら私に片腕を掴まれたまま会計を済ましたらしいけど、そんな器用な真似をしないで放せと言えばいいのに……
「……嫌よ。だって放したら貴方、逃げるでしょ?」
そんな律儀というか弱気というかな彼を見ていると、なんとなく意地悪をしてやりたくなる。
まあ、逃げられて困るのは事実だけどね。
「そ、そんな……、俺、先輩に捕まるようなこと、しましたっけ?」
「この私の秘密を知ってしまった……。理由はそれだけで十分よ」
そう。偶然とはいえ、彼は私の秘密を知ってしまった。
残念ながら、タダで帰すことはできない。
「秘密って……」
「私がこの店にいることと、『戦国TUBU 5』を買おうとしていることよ」
「それは不可抗力じゃないですか!? それに、別に言いふらしたりなんかしませんよ! そんな友達もいませんしね!」
わざわざそんな大声で友達がいないことを主張しなくてもいいのに……
外部編入生なんだからその辺りは仕方ないと思うけど……
「……信用できないわね。まあ、とりあえず私も買うからもう少し待っていなさい」
「くそぅ……、なんでこんなことに……。早く帰って『戦国TUBU 5』の世界にどっぷり漬かりたかったのに……」
(……それは私も同じだけどね)
◇
私達は『ゲームショップ 嵐』を出て、商店街にある喫茶店に入った。
『ゲームショップ 嵐』の店長オススメだけあって、イイ感じの寂れ具合である。
「さて、何から話しましょうかね」
私はアイスティに入れたシロップをかき混ぜながら、にこやかに語り掛ける。
「別に、俺は話すことなんて……」
「まあまあ。ホラ、折角の奢りなんだから、貴方も飲みなさいな」
そう促すと、彼は渋々といった感じで頼んだコーヒーに口を付けた。
遠慮していたのか警戒していたのかはわからないけど、その態度が少し可愛く思える。
「ふふっ、じゃあ、まずは自己紹介からしましょう。私は
「……風紀員会?」
「そうよ。あ、別に学校帰りにゲームショップに寄ったり、喫茶店に入るのは禁止されていないから気にしないでいいわよ」
「はぁ……」
「それで、貴方の名前は?」
私がそう尋ねると、彼は目をそらし押し黙ってしまう。
ここで名乗るのは不味いとでも思っているのかしら?
「……俺は
私がジッと見つめていると、彼は観念したのか渋々自分の名を名乗る。
私は良く目力が強いと言われるのだけど、こういった場面では非常に役立つ。
実は風紀委員の活動でも重宝している、私の武器の一つだったりする。
「宜しくね。杉山君♪」
さてさて、とりあえず第一目標である名前を知ることは出来たぞっ、と。
次はどうしようかしらね?
脅す? いやいや、いくら私でもそんなことは流石にしない。
それに恐らくだけど、この杉山君相手にはそんなことをする必要は無いハズだ。
(この手のタイプは、釘さえ挿しておけば口は堅いからね)
今までの態度から見て、杉山君は間違いなく人付き合いが下手なタイプである。
しかも私と同様、結構な秘密主義者と見た。
「早速だけど杉山君、今日見たことは他言無用でお願いね?」
秘密主義者は、自分の秘密だけでなく、他人の秘密に対しても敏感だ。
もちろん絶対とは言えないけど、私がこう言えば、余程のことが無い限り秘密がバラされることは無いと思う。
「……それは構わないですけど、できれば俺のことも言わないで欲しい、です」
……おお?
同じ秘密主義者だとは思ったけど、まさか隠れオタクなのも同じだったりするのかしら?
(そう考えると、色々と背景が見えてきた気がするわね……)
頭をフル回転させ、高速で脳内に今後の展開を構築していく。
(これは、面白いことになってきたかも…)
彼との出会いは、私の学園生活に、新しい楽しみを与えてくれるかもしれなかった……
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