第81話 勝利
私の名前は
豊穣学園の風紀委員で、副委員長の肩書を持つデキル女かつ美少女である。
しかし、周囲には秘密だけど、実は私は筋金入りのオタクだったりする。
あと、ついでに若干腐っている。
私は今、人生でもトップクラスの嬉し恥ずかしイベントの真っ最中だ。
「はい、あーん」
「あ、あーん」
私が箸で口までおかずを運ぶと、杉山君はそれを口に含み、もぐもぐと咀嚼する。
「どう?」
「すごく……、おいしいです……」
杉山君は恥ずかしさを隠すためなのか、そういったオタクネタを一々挟んでくる。
でも、それはそれで可愛く思えてしまうので、私も相当な重傷だ。
「そういうネタは挟まなくていいから」
「いや、本当に美味しいです。正直びっくりしています」
「そう? ふふっ、ありがと♪」
これは素直に嬉しい。
それもこれも、柚葉ちゃんのお陰ね。
あの子は物凄くお料理が上手だし、教えるのも上手い。
全く、本当に恐ろしい子!
……そういえば、その恐るべき柚葉ちゃんと塚原君、付き合い始めたのよね。
杉山君は知っているのかしら?
「……そういえば、塚原君と柚葉ちゃん、ついに付き合うことになったみたいよ?」
「っぶ、なんですと!?」
杉山君は面白い反応をする。どうやら知らなかったらしい。
「いや、まあアレは時間の問題だったでしょ? 柚葉ちゃん、あれで結構押しが強いし、塚原君も惹かれてたみたいだから」
そう、柚葉ちゃんは中々に押しが強いのだ。
肉食系というワケではないけれど、とにかく攻める。
しかし、それに耐え抜いていた塚原君もまたスゴイ。
だって、あんな可愛い娘に迫られたら普通コロッと落ちちゃうでしょう?
いくら年齢差があるとはいっても、あんな天使に迫られたら誰だってOKしてしまうに決まっている。
女の私ですらそうなのだから間違いない。
しかし、杉山君の反応は少し気になる。
もしかして、杉山君って柚葉ちゃんのこと好きだったのかしら?
「……もしかして、杉山君て、柚葉ちゃんのこと好きだったの?」
私は思い切って聞いてみることにする。
これでもし好きだと返ってきたら……どうしよう。
「なっ!? 違います! 俺が好きなのは……」
「……好きなのは?」
思わぬ返答に、私はドキドキしながら尋ねる。
だって、これはもしかして、もしかするのかも……?
そう期待せずにはいられなかった。
「…………」
長い沈黙が流れる。
私の心臓はドキドキしっぱなしで、杉山君に聞こえてしまうのではないかと心配になる。
……なんて、少女漫画じゃあるまいし、そんなことがあるワケないことくらいわかっている。
ただ、そういうアホなことでも考えていないと、平静を装うことができなかった。
(だって不安なのよ! 仕方ないでしょ!)
私は誰に言い訳をしているだろうか?
いやしかし、沈黙が長ければ長い程、期待よりも不安の方が大きくなってくるのだ。
もともと杉山君とはただのゲーム友達だし、私の思いは一方的なモノだった。
だからこそ、ここではっきりと私の気持ちには応えられないと返される可能性だって十分ある。
(ああ、私ったらもう! こんなことなら聞こえないフリでもしておけばよかった!)
そうすれば、少なくともこの時間が壊れることはなかっただろうに……
彼が奥手なのは十分承知していたのだから、もう少しじっくり攻めるべきだったのだ。
……今さらもう遅いのだが。
「……俺が好きなのは……、藤原先輩です。……多分」
っ!?
マジで!?
一瞬飛び上がりそうになるのを、鉄の精神で踏みとどまる。
待て待て、まだ焦るような時間じゃないと仙道さんも言っていたじゃない……
「多分て……。なんでそこをハッキリしないのよ?」
そう。彼は多分と言った。これはまだ確定じゃないのだ。
飛んで喜ぶのは早い。
「だ、だって仕方ないじゃないですか! 人を好きになるのって、マジで初めてなんですよ!」
っ!?
マジで!?
というか私もなんですけど!?
あ、だから本当に自分が好きって自信がないってこと?
何よ、可愛いとこあるじゃない! いや、割といつも可愛いけど!
「……そう。私も男の子を好きになったのって、杉山君が初めてよ?」
調子に乗った私には、杉山君をからかうくらいの余裕が生まれていた。
さあ、もっと赤面しなさい!
「そ、それは、女の子ならあるってことですか?」
と思っていたら杉山君が回避をしてきた。
そっぽを向いてるし、本心からの質問じゃないだろう。
「そんなワケないでしょ」
だから私は、少し頬を膨らませ、上目遣いになり、精一杯可愛さを演出しながらそう返す。
すると、杉山君はついに限界に達したのか、赤面したままテーブルに突っ伏してしまった。
(よし、勝った!)
さっきまでの不安は嘘のように消え、幸福感と征服感が胸を満たしている。
これなら、自信を持っていいだろう。
私と杉山君は、両思いだ! ヒャッホーーゥ!
そんな風に思えていたのは、テンションが高くなっていた間だけで、その後私は、午後の授業に差し支えあるくらいには恥ずかしさでテンパることになるのであった。
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