第44話 視聴覚室で相談②



「あ、朝霧さん!?」



 朝霧さんは一瞬ビクリとしつつも、何故か観念したような表情で視聴覚室に入って来る。



「その、立ち聞きしてしまって、すみませんでした……」



「いや、それは構わないけど、どうしてここに?」



 話の内容については聞かれても構わないといったものでも無かったが、こちらも注意が足りなかった。

 視聴覚室は防音環境が整っているとはいえ、施錠くらいはするべきだったかもしれない。



「あの、坂本先輩が、塚原先輩はこちらにいると仰っていたので……」



 成程。修先輩が情報元か。

 ここに俺がいることを知っているのは修先輩だけだし、それならば納得もいくのだが……



(一人で考えごとをしたいって伝えたハズなんだがなぁ……)



 まあ、修先輩なりに何か考えがあってのことなのだろう。

 修先輩は俺が朝霧さんのことで悩んでいるのを知っているので、変な気を回したのかもしれない。



「へぇ……、この子が噂の朝霧さんか。本当に綺麗な子ね」



「………!」



 藤原先輩がマジマジと観察しながらそんなことを言うので、朝霧さんは恐縮したように照れてしまう。



「ふむ……、これなら全然イケるわね……」



「イケる……? 何がですか?」



「ああ、いや、こっちの話だから気にしないで?」



 いや、こっちの話ってなんだよ……

 そんな言い方をされて、気にならないとでも思っているのだろうか?



「あ~、所で、朝霧さんはさっきの話、どの辺から聞こえてた?」



「……中等部の子に、協力をお願いした方が良い、という所からです」



 ……ということは、重要な部分は聞いていないようである。

 あれ、じゃあ彼女は、何をするかもわからずに協力する気満々だったのか……?



「あら、やる気満々みたいだったし、全部聞いていたのかと思ったわ」



「……あの、私、そんなにやる気満々に見えましたか?」



「……ええ。なんかこう、目がギラギラしていたというか」



 藤原先輩がそう言うと、朝霧さんは恥ずかしそうに俯いてしまう。

 でも、藤原先輩が言うように、先程の朝霧さんの目は何と言うか、やる気に満ちていたような気がする。



「まあ、いいわ。私はこれでおいとまするから、あとは二人で話し合いなさい」



「え……、でも、藤原先輩、時間を潰していたんじゃ……」



「私のはあくまで暇つぶしよ。まあ、それなりに暇は潰せたし、あとはのんびり帰るとするわ」



 そう言って藤原先輩は簡単に支度を整え、さっさと出口に向かう。

 余りにも淡々としていたため、そのまま出て行ってしまうのかと思ったが、扉を開ける直前で足を止めこちらに振り返る。



「それじゃ、戸締りは宜しくね? ……それから、二人きりだからって変なことはしないように。それじゃ」



「っ!? しませんよ!?」



 藤原先輩は何も聞こえなかったかのように、そのまま出て行ってしまった。



「………!!」



 朝霧さんは、藤原先輩の言葉が理解出来なかったのか暫し沈黙していたが、すぐに何かを悟り俯いてしまう。

 それに対し、俺もどう声をかけて良いかわからず、気まずい空気が流れた。








 永遠とも思える長い沈黙……

 時間にすれば一分程度だったと思うが、それを最初に破ったのは朝霧さんの方だった。



「あの、先輩……、質問しても宜しいですか?」



「あ、ああ、大丈夫だけど、朝霧さんの方は大丈夫なの? まだ、少し顔が赤いけど」



「……はい。大分落ち着きましたので。それに私、先輩のこと、信じていますから……」



 そんなにマジマジと見られると、思わず目を逸らしたくなる。

 しかし、そんなことをすればあらぬ疑いが生まれそうなので、俺はなんとか目を逸らさず苦笑いをして乗り切る。

 ……もちろん、そんな不埒な真似をするつもりなど最初から無いしな。



「……そう言って貰えると助かる。それで、質問っていうのは、俺を探していたことと関係あるのかな?」」



「あ、はい。ちょっと友達のことで相談が……」



 朝霧さんの表情が少し曇る。

 ということは、あまり明るい内容では無いのかもしれない。

 ……いや、もしかしたら――



「それは……、もしかして麻生 環あそう たまきさんのことだったりするかな?」



「っ!? どうして、それを……?」



「いや、ちょっと別口から相談を受けていてね……」



 まあ相談と言うか、依頼に近いけど……



「……やっぱり、先輩は凄いです」



「いやいや、偶々知っただけのことだから、全然凄くないよ……。それより、詳しい話を聞かせてくれるかな?」



「はい」



 朝霧さんは頷くと、真剣な表情で語り始めた。



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