第43話 視聴覚室で相談①



 俺は塚本から聞いた情報をもとに、頭の中で整理を行う。

 この手の問題には何度か関わったことがあるが、デリケートな問題であるが故、慎重になるに越したことはないだろう。

 もし迂闊な対応をすれば、逆に状況が悪化する恐れもあるしな……



「……あれ? 塚原君じゃない? 今日は活動無い日だけど、どうかしたの?」



 俺が色々と考えごとをしていると、不意に声をかけられ集中が途切れる。

 声をかけてきたのは、風紀委員会の副委員長である藤原先輩だった。



「どうも、藤原先輩。少しお邪魔させて頂いています」



「それはいいけど、本当にどうしたの? さっきも言った通り、今日は活動無い日だし、坂本君も来ないでしょ?」



「ええ、実はちょっと一人で考えごとをしたくて、修先輩に許可を貰って使わせて貰っているんですよ」



 俺がそのことについて相談すると、修先輩は視聴覚室の使用をあっさりと快諾してくれた。

 ここは基本的に人が寄り付かないため一人になるには都合がよく、これまでも何度か利用させて貰っていた。



「あら、じゃあ私と似たような目的だったのね。……悪いわね、お邪魔しちゃって」



「いえ、丁度考えが詰まっていた所だったので問題ありませんよ。それよりも、部外者の俺の方こそ使わせて貰ってすいません」



「ああ、いいのよ。私は暇つぶしみたいなものだから」



 藤原先輩は手をヒラヒラとやりながら、そう返してくる。

 その仕草からどことなくオバちゃん臭さを感じたが、指摘するのは流石にやめておいた。

 ……しかし、先輩は暇なのか。

 ちょっと、相談に乗って貰おうかな?



「あの、先輩、もし本当に暇なのでしたら、少し相談に乗って貰えないでしょうか?」



「ん、いいけど、何? もしかして、例の後輩ちゃんのことかな?」



「あ、いえ、朝霧さんのことではなくてですね……」



 俺は名前を伏せつつ、後輩が軽いイジメにあっているかもしれないことを説明した。

 現状、俺にもわかっていることは限られているため、かなり曖昧な内容になってしまったが……



「……それは、結構ヘヴィな内容ね」



 藤原先輩はやけに発音良くそう言うと、顎に手を当てて考え込む。

 俺はそれを黙って見守っていたが、考え自体はすぐにまとまったようで、十秒ほどでこちらに向き直る。



「一つ確認だけど、そのイジメっていのは、まだ何をされたのかまではわかっていないのよね?」



「……はい。さっきも言ったように、ほとんど俺の勘のようなものなので」



「うん、まあそうなんだろうけど、塚原君がそう思うのなら信憑性はあると思うわ。それに、その友達が聞いた内容から考えれば、何かおきててもおかしくはないと思う」



 俺が思うなら、という所で思わず苦笑いをしてしまったが、まあそう思われても仕方は無いだろう。

 実際、俺はこういったトラブルには何度も関わっているし、その事が修先輩から藤原先輩に伝わっていてもおかしくないからだ。



「塚原君も知っていると思うけど、女子のイジメは結構陰湿だからね。タイミングを間違うと、うやむやにされたり、大事にならないように処理されたりなんてことも十分あり得ると思う」



「……ええ、そうですね」



 藤原先輩の言葉に、俺は苦い記憶を思い出す。

 以前、まさにそういったことがあったのだ。

 初等部の頃なので、俺が甘かったのが原因だが、その時は結局イジメだとは断定されず、うやむやにされてしまった。

 それからはもう少し慎重に立ち回るようにしていたが、待てば待つだけ、イジメられている子はその分辛い思いをすることになるので、歯がゆい思いをしたものである。



「対処するにしても、最低限確証は押さえたいところね。隠しカメラでも設置してみるのはどう?」



 そんなことを言いだす藤原先輩に、俺は少し意外な印象を受ける。

 風紀委員的に、隠し撮りを推奨するのはどうなのだろうか?



「ああ、もちろん悪用は駄目よ? ただ、今回はことがことだしね。ボイスレコーダーとかでもいいし、まずは確証を押さえるべきだと思うの」



「……まあ、それが一番確実でしょうけどね」



 ただ、俺は正直それだけでは足りないと思っている。

 特に当事者同士で解決を図ろうとした場合、最悪開き直られる可能性があるからだ。

 そうなった場合、被害者である麻生さんはさらに傷つくことになるだろう。

 それに、一時的に解決したとしても、このことがさらにシコリとなって、再びイジメが再発する可能性もある。



「……まあ、他にも色々と考えなければいけないことは多いと思うけど、いずれにしても貴方達だけでどうこうするのは、無理があると思うわ」



「そう、ですね……」



 そう、一番の問題はそこだ。

 俺達は同じ中等部の生徒ではないため、立場上はほぼ部外者と言える。

 干渉すること自体は出来るだろうが、そう頻繁に近付くのは難しいだろう。

 高等部の生徒が中等部の棟に行くのだって中々に目立つ行為だし、生徒や教師にも警戒される可能性がある。

 そんな状況で隠しカメラやボイスレコーダーをしかけるのは、かなりリスクが高い。



「でしょう? だから、塚原君はまず、同じ中等部の子に協力をお願いした方が良いわね」



「……しかし、それは」



 一瞬、朝霧さんの顔が頭によぎる。

 しかし、彼女を巻き込むのは正直気が引ける……



「……少なくとも、彼女は協力する気満々みたいだけど?」



「え?」



 藤原先輩が指さす方向へ振り返る。

 そこには、ドアの隙間からこちらを覗き見ている、朝霧さんの姿があった。



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