第13話 食堂でイチャつく?
食堂に到着すると、入り口の前に立っていた無愛想な男がこちらを睨みつけてきた。
眼鏡ごしの目つきは鋭く、気の弱い者ならビビッて後ずさりしかねない程の殺気を放っていた。
「遅い」
「すまんな伊藤! ちょっと諸事情諸問題があってな!」
「そんな事は知らん。俺はとにかく腹が減っているんだ。行くぞ」
伊藤はそう言うとさっさと食堂に入っていく。
「な、何よ……、今の危ない目つきの奴は……」
「
「知らない……。男子とか修君以外興味無かったし……」
伊藤は男女問わず有名人である。
理由は複数存在するが、その最たるものは容姿にある。
アイドル並みの美形であり、高身長、ついでに眼鏡と、一部の女子からは今でも人気の男なのだ。
昔は一部などとは言わず、もっと大勢の女子から人気があったのだが、小中の9年間でその規模は激減した。
流石にそれだけの期間があれば、伊藤がどのような人物なのか知れ渡るには十分だったというワケだ。
「で、でも、名前くらいは聞いたことあるんじゃない? 友達とかからさ」
あ、いかん、塚本、それは禁句だ。
ほら……、前島さんの不機嫌そうな顔が、さらに不機嫌に……
仕方ない、ここはフォローをいれておくか……
「塚本、伊藤は小中通して俺と同じクラスだったんだぞ? つまり、前島さんと一緒のクラスになったことは一度も無いってことだ。普通同じクラスにでもならない限り、興味のない異性のことなんて知らないもんだろ?」
俺と伊藤は、小中通して同じクラスだった。
つまり俺と同様、伊藤は前島さんと一緒のクラスになったことが無いのである。
「いやいや、そりゃお前だけだろ? 普通は可愛い女子とか、カッコイイ男子がいたら興味を持つもんだって! ね? 朝霧さん?」
「いえ……、私もそういうのは……」
朝霧さんは若干引き気味になりながらも、塚本の問いに答える。
出来れば俺の袖を掴んで後ろに隠れるのはやめて欲しいのだが、原因が塚本にある以上やめろとは言えなかった。
「くそぅ……、これじゃまるで俺が少数派みたいじゃねぇか……。この面子じゃなかったら、こんなことにはならない筈なのに……」
自分から誘っておいて随分な言い草である。
しかしまあ、他のクラスメート辺りであれば、確かに塚本の意見に同意しそうとは俺も思うが……
「ラーメンとかつ丼とサラダをお願いします」
「あいよ」
そんな下らないやり取りをしながら列に並んでいると、先頭の伊藤が注文を開始した。
「うげ……、何あれ……」
「あれが伊藤の普通なんだ。深くは気にしない方がいい……」
伊藤は、スマートな体格からは想像できない程の大食漢である。
あれにドン引きしたという女子も少なくない。
丁度、今の前島さんのような感じだ。
「食堂のおばちゃんたちも今じゃ慣れたもんだが、最初はびっくりしてたからなぁ……」
豊穣学園では中等部から食堂の利用が可能になる。
伊藤はその頃からの食堂の常連であり、食べる量に関しては増えも減りもしていない。
部活にも入っていないのに、一体あのカロリーはどこに消えているのだろうか……
「……あの、先輩」
「ん……? 何? 朝霧さん」
ちょんちょんと袖を引き、小声で話しかけてくる朝霧さん。
俺は朝霧さんの背丈に合わせて少し身を屈める。
「私、実はお弁当なんです……。流れで並んでしまいましたが、大丈夫でしょうか?」
「ああ、そんなことか。大丈夫、俺からおばちゃんに言っておくから」
「……ありがとうございます」
俺がそう言うと、朝霧さんは笑顔で礼を言ってくる。
なんでもないことの筈なのに、彼女が笑顔を浮かべるだけで胸が高鳴ってしまう。
美少女の笑顔とは、これ程に破壊力があるものなのか……
「塚原~、こんな所でイチャつかないでくれない? すっごくイライラするんですけど」
俺が朝霧さんの笑顔を見て硬直していると、後ろから凄く嫌そうな顔をした前島さんにガシガシを足を蹴られた。
「べ、別にイチャついてなんかいないだろ! 蹴るのをやめてくれ!」
「そう思ってるの、アンタだけだから。多分この場のみんな、私と同じくらいイラついてるから」
そんな筈はと思ったが、前島さんの後ろの生徒が皆一様に首を縦に振っていた。
(理不尽だ……)
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