第54話 クラスメートとの交流



 事の顛末を見届け、俺は撤収の準備を開始する。

 塚原は教室を出ていったきり戻ってこなかったが、映像は録画されているため、後でアイツが見たいと言えばいつでも提供は可能だ。



(……まあ、アイツが見たいなんて言い出すとは思えないが)



 ここ数日で、アイツの性格は大体把握できたつもりだ。

 いや、最初からわかっていたことではあるが、改めて理解したと言えるだろう。

 ……アイツは、本当にお人好しの善人であると。



「くっく……」



 思わず笑いがこぼれてしまった。

 誰かが見ていたら、間違いなくキモイと思われていたに違いない。

 しかし、どうにも笑わずにはいられなかった。


 塚原はじめという人物は、出鱈目でフィクションのような存在である。

 正直、あんな人間が現実に存在するとは思っていなかったし、関わり合うことなど絶対に無いと思っていた。

 しかし、現実にアイツは存在しているし、そんなヤツと俺はしっかりと関わってしまっている。

 人は自分の想定を上回る事態に遭遇したとき、笑うしかないことがあるが、この状況は正にソレであった。



(っと、それより、早く撤収しないとな……)



 笑いと共に手まで止めてしまっていたが、そもそもこんな所にいるのを目撃されること自体不味いのだ。

 速やかに移動した方が良いだろう。


 教室を出ると、塚本と例の少女が何やら話しているようであった。

 その向こうで塚原と伊藤の姿を確認できたが、流石に塚本達の横を通り過ぎる気にはなれず、俺は一人迂回することにした。



 ピコピコ♪



 一旦校舎の外に出て高等部の棟へ向かう途中、スマホから特徴的な電子音が響く。

 画面を確認すると、藤原先輩から『どうだった?』というメッセージであった。

 どうだった? と聞かれても、正直一言では返しにくい。

 藤原先輩の場合「上手くいきました」とだけ返しても、すぐに具体的内容を追及してくるからである。

 こんな所でそれに付き合う気にはなれないので、返事は保留してさっさと教室に向かうことにした。





 ◇





「お、杉山じゃん! 今日はやけに早いな!」



「っ! お、おはよう」



 教室に戻り、先輩に何と返すか悩んでいると、五分と経たずにクラスメートが登校してきてしまった。

 想定外の事態に、俺は少し取り乱しつつもなんとか挨拶で返す。



「おう、おはよう。で、なんでこんな早いんだ?」



「それは、ちょっと色々とあってな……。それより、そっちは何でこんな早い時間に?」



 流石に正直に答える事は出来ないので、解答を濁しつつ質問で返して誤魔化す。



「俺らは部活の朝練だよ。まあ、早々に撤収してきたんだけどな」



「早々に撤収って、そんなことできるのか?」



「ああ。ほとんど自主練みたいなもんだしな~。ウチ、弱小だし」



 弱小なのに朝練をするのか……

 正直、理解出来ない……



「弱小って……、そういえば何部なんだ?」



「ん、バスケ部だよ」



 バスケか……

 あんな走りっぱなしのスポーツ、良くやる気になれるものだ。



「杉山もこんな早くから来れるなら、バスケやらね? 結構楽しいぜ」



「お、それいいな。やろうぜ杉山! 俺らも別に本気でやってるワケじゃないし、ストバスくらいなら結構楽しいぜ!」



「いやいや! 俺運動とか苦手だし! バスケは漫画で十分だよ!」



 バスケをやるなど、冗談では無い。

 バスケ漫画は結構好きだが、あの中のキャラと自分を置き換えたら、本当に死んでしまう気がする。



「漫画って、杉山バスケ漫画とか読むのか?」



「あ、ああ……。スラダンとか、月マガとかでやってるのなら結構好きだけど……」



「マジか!? 俺ら、アレ読んでバスケ好きになったんだよ!」



 うお……、いきなり圧が強いな……

 この熱気は、オタクに匹敵するのではないだろうか……



 なんだかんだと話が盛り上がり、教室には既に結構な人数が登校してきていた。

 先輩に返事を返すのを完全に忘れていたが、まあ別にいいだろう。

 俺は久しぶりにクラスメートと会話するのが楽しくなり、つい少し調子に乗ってしまっていた。



「おーい、杉山くーん!」



 しかし、忘れてはいけなかった。

 先輩は、返事が無いくらいで直接電話してくるような人だということを……



「お、おい、杉山! アレって藤原先輩じゃねぇか! なんで杉山のこと呼んでるんだ!?」



「え、いや! それは……。っていうか、何でお前らは藤原先輩のことを?」



「いやいや、藤原先輩とか超有名人だろ! 風紀委員のクールビューティじゃんか!」



「そ、そうなのか……?」



 確かに藤原先輩はクールビューティって感じの見た目だが、中身を知っている俺にとってはあまりピンと来ない単語だ。

 ていうか、あの人って結構有名人だったのか……



「あ~、杉山って外部編入だからなぁ~。その辺はあんま詳しくないか……」



 成程、彼らはエスカレーター組だからか……

 それでは、俺と認識に差があるのは当然なのかもしれない。



「おーい!」



「と、とりあえず行って来いよ! 詳しい話は後で聞かせろよ!?」



 そう言って俺の背中を押してくるクラスメート達。

 なんだか盛大に勘違いしているようであり、後で何と説明すればいいか今から頭が痛くなってくる。



(恨むぞ、先輩……!)



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る