第22話 ゲームショップでの出会い①
「………」
私は現在、電車に揺られながら窓の外を眺めている。
こうして外の景色を眺めていると、嫌なことが忘れられる……、なんてことは無かった。
……いや、別に嫌なことという程のものも無かったのだけど、複雑な気分になったのは確かだった。
なんたって私の中のベストカップリングである二人が、揃いも揃って女にうつつを抜かしているのだから……
別に私は、「女と付き合うな!」などというようなタチの悪い腐女子では無いのだが、流石にこれだけは言わせてもらいたい。
(リア充爆発しろ!)
とね。
おっと、私の殺気を感じ取ったのか、近くのおじさんが距離を取ってしまった。
近寄られるよりはマシだけど、避けられるというのもそれはそれで傷つく……
まずは落ち着くのだ、私。
「はぁ……」
正直な所、あの二人が女子と付き合うこと自体は問題無いと思っている。
しかし、それによって二人の時間が減るというのはあまりにも惜しいことだ。
ストレス発散兼、目の保養が失われるのは私としては大変頂けない。
とはいえ、この状況で私にできることはほぼほぼ無いと言っていい。
そしてもう一つ、新たに浮かび上がる問題が……
いや、問題というより願望か。
(私も、めっちゃ恋したくなった……)
腐女子だって、普通の恋がしてみたい。
そう思うのは、別に不思議なことではない。
(だって、女の子だもん!)
くそぅ……、坂本の奴、堂々と彼女紹介しやがってぇ……
5年以上付き合ってるぅ? ってことはあの子が小学生の頃からってことでしょ?
このロリコンが!
いや、当時は坂本も中学生だったんだろうけどさ!
でも今の見た目だって、中学生って言われても十分通じるレベルじゃない!?
やっぱりロリコンだ!
「ひぃっ!?」
おっと、いかんいかん……、どうやらまた殺気が漏れ出ていたようね……
近くに座っていたヤンチャそうな兄ちゃんにまで、距離を取られてしまった。
でも、仕方ないでしょう?
他人の幸せって、祝うより呪う方が普通じゃない?
……まあ、坂本のことはいいか。
別にロリコンなんてあちこちにいるし、世の中に迷惑をかけなければ問題無いと思う。
むしろ、立場が違えば羨ましいとさえ思えるかもしれない。
中学生の男の子と付き合うとか、ちょっとドキドキするし。
(それより問題は、塚原の方よね……)
どうやら塚原は後輩の女子に告白されたらしいのだけど、その娘がとてつもない美少女らしい。
これは、坂本の彼女である前島という少女からの情報になるけど、彼女曰く「超絶美少女よ」とのことだった。
私から見れば前島さんだって十分美少女なのに、その彼女の口から超美少女なんて単語が出るのは相当なものである。
塚原も否定はしなかったので、恐らく本当に超美少女なのだろう。
それはそれで見てみたい気もするけど、問題なのは塚原が満更でもなさそうだったことである。
塚原は結構硬派な男の子だと思っていたけど、あれはもう半分くらい持っていかれてる見て間違いないだろう。
確か
(柚葉……、恐ろしい子!)
無論、今のは言いたかっただけである。
元ネタは随分と古い漫画なのだけど、今でも根強い人気を持っている作品であり、様々なパロディで使われている。
中には知らないで使っている人も多いようだけど、私は違う。
なんたって私の家には、おばあちゃんの代から数々の漫画達が引き継がれているからである。
そう、私がオタクなのも、その影響が大きいのだ!
誰に説明してるんだよって? いいじゃない、別に……
(おっと、次の駅か……)
思考が逸れまくって本題からどんどん遠のいてしまったけど、目的地までの暇つぶしはできたので何も問題は無い。
最初から私にどうこうできる案件では無いので、はっきり言って考えるだけ無駄だったのだけど、そこは気にしない。
それよりも、そろそろ頭の中身を目的のモノへと切り替えるべきだ。
電車を降り改札を出ると、かなり寂れた風景が広がっている。
豊穣学園の最寄り駅である竜川駅とは、比べようも無いほどのド田舎であった。
(……まあ、竜川駅以外の駅なんて、どこもココと似たり寄ったりだけど)
豊穣学園は中々に豪勢なマンモス校だが、所詮は地方の私立校である。
竜川駅の周辺こそそれなりに賑わっているものの、少し移動するだけで畑や田んぼだらけの景色になるのだ。
この玉田駅も、そんな田舎の駅の一つに過ぎなかった。
では、そんな辺鄙な場所へ何故私が来たのか? それは今日発売の新作ゲームを買うためである。
この周辺には活気の無い商店街くらいしか無いのだけど、実は中々に品揃えの良いゲームショップがあったりする。
一体何故こんな辺鄙なところに……、と思うのだが、人目を気にする私にとっては非常に好条件のお店と言えるだろう。
(隠れオタである私が堂々と買い物ができる……、そのなんと素晴らしいことか……)
ここを知るまではもっぱら通販を利用していたのだけど、やはりショッピングというのは自分の目で見て吟味してこそ、という気持ちは捨てきれない。そんな私にとってこの店は、ある意味楽園とも言える場所であった。
(……ただ、今日の私には目的の品がある!)
普段はパッケージなどを見ながら面白そうなものを物色するのだけど、今日だけはそんなことをする気になれなかった。
『戦乱TUBE 5』
私がこよなく愛する『戦乱TUBE』シリーズの最新作である。
『戦国TUBE』シリーズは、派手なアクションや惹き込まれるシナリオなど、ゲームとしての出来が非常に良く、キャラクターも人気があるため、今でも根強いファンが多いのだが、この五作目が出るまでにはかなりの時間がかかってしまった。
(この日をどんなに待ちわびたことか……)
昨今のコンシューマゲーム業界は、あまり景気が良いとは言えない。
それ故に、この新作が世に出るまで、前作から3年以上の時間が開いてしまったのだ。
どうやら初期出荷数も絞られているらしく、あちこちで予約が埋まる自体が発生しているようである。
そして、私も多分に漏れず、そのあぶれた側の人間だった……
しかし、先日連絡を入れた所、この店にはしっかりと入荷するのだという。
それも、私のためにに取りおいてくれるという大変ありがたい話を頂けた。
その時ばかりは、店長愛してる! と叫びたくなってしまった。
本当に、この店の常連で良かったと思う。
店に足を踏み入れた私は、興奮冷めやらぬまま、カウンターへと直進する。
そして……
「「店長(店主)! 『戦乱TUBU 5』を買いに来ました!」」
私の声に、誰かの声がかぶさる。
その声の方へ振り向くと、そこには別のお客さんが立っていた。
「っ!?」
その姿を見て、私は思わず息を呑んでしまう。
何故ならば、そのお客さんが豊穣学園の制服を着ていたからだ……
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