第21話 委員長と副委員長
私の名前は
豊穣学園の風紀委員で、副委員長の肩書を持つデキル女かつ美少女である。
しかし、周囲には秘密だけど、私は筋金入りのオタクだったりする。
あと、ついでに若干腐っている。
この事実を知れば、きっと多くの男子が悲嘆し、幻想を打ち砕かれてしまうであろう。
だからこそ、私はこの事実を秘匿し、表世界に出さないことを胸に誓っている。
決して自己保身のためではなく、あくまで私を慕う男女全てに対する配慮のためである事を強調しておこう。
ただ、こうして内に秘める熱情を隠すことは、私に少なからずストレスを生み出していた。
そしてストレスは、健康に大きな影響を与えるし、溜め込めば後々取り返しのつかない事態に発展する恐れもある。
そんな私がストレス発散の場所として選んだ場所が、この風紀委員会である。
お馬鹿な生徒を取り締まる立場になることで、少しでもストレスが緩和されることを狙ったのだ。
ただ、私には残念ながら愉悦に浸る才能は無かったようで、風紀委員の仕事は大したストレス解消にはなってくれなかった。
よくよく考えれば当然の結果なのだが、当時の私には想像がつかなかったようである。
……きっと、若かったのだ。
「おや? 藤原さんか、今日はどうしたんだ?」
私が少し感傷的に過去を振り返っていると、ゴトリという音をたてて重い防音扉が開かれる。
入ってきたのは、私の同学年にして風紀委員長である
「私は暇だったのよ。貴方こそ、まだ活動期間じゃないハズなのに、どうしてここへ?」
「俺はいつものことさ。活動期間じゃなくても、ここには来るようにしているんだよ」
ええ、知っていますとも。
だからこそ、私もここに来たのですから。
坂本は笑顔で私の問いに答え、自らの座席へと向かう。
視聴覚室の座席は可動式になっており、今は中心を囲うような配置になっている。
坂本の座席とはその中心、教壇のような位置にあるのだが、よくもまあ落ち着いてあの場所に座れるものである。
「それで、今日は来客の予定があるんだ。少し騒がしくなるかもしれないけど、大丈夫かな?」
「来客と言うと、いつもの?」
「ああ、塚原だ」
ええ、ええ、よーーく知っていますとも。
正直な所、私はこの坂本のことをあまり良くは思っていない。
嫌っているというワケではないが、あの信用のできない笑顔がどうしても気に食わないのだ。
そんな私が、わざわざ坂本のいるであろうこの視聴覚室に来たのには、もちろん理由がある。
それは、坂本を訪ねて時折ここに現れる後輩、塚原はじめを拝むためであった。
……いや、その言い方は正しくないか。より正確には、
坂本×塚原
このカップリングを拝むためである。
聞けば、塚原は今年から高等部の1年生になるのだという。
つまり今日の塚原は、高等部の制服で現れるということなのだ。
以前の、『高等部と中等部の制服』という組み合わせも背徳的で良いのだが、高等部同士というのも中々にそそるものがある……
特に着慣れた制服の坂本が、まだ真新しい制服を纏った塚原を攻めるというのは、控えめに言って神シチュではないだろうか?
私は断然、坂本×塚原派だが、今後塚原×坂本に逆転される可能性も秘めており、それはそれで見てみたい気がした。
「ただ、今日は塚原以外にもう一人来る予定でな……、そいつが少しうるさい奴なんだよ」
「うるさい奴……?」
誰だろうか?
ここにきて新キャラが追加とは、私も予想していなかった。
「ああ、
前島……、聞いたことのない名前だ。
ただ、坂本が中等部の後輩と付き合っているという噂は聞いたことがある。
もしかしたら、その彼女なのではないだろうか?
「……聞いたことない名前だけど、もしかして坂本の彼女? 確か、中等部の誰かと付き合っているって話よね」
「……そうか、藤原さんでも知っていたか」
私がそう答えると、坂本は少し苦い表情を浮かべる。
この男にしては珍しい。
「……まあ、知っているのなら話は早いか。藤原さんの言う通り、郁乃は一応、俺の彼女ってことになっている」
なんとも微妙な言い回しである。
やはり中等部の女子と付き合っていたと知られるのは、坂本でも抵抗があるのかもしれない。
ロリショタOKな私からすれば、そんなことはどうということもない話なのだけど。
……まあ、坂本も一応男だし、それなりに女子の目というものを気にしているのかもしれない。
「ふふ……、別にそんな顔しなくても、ロリコンだとか思ったりはしないわよ?」
「……そうか。それならいいんだが」
なんだか、坂本の意外な一面を見れた気がした。
普段からこういった所を少しでも見せてくれれば、もう少し印象が良くなるだろうに……
……しかし、彼女か。
あまり考えないようにしていたけど、やはり現実は残酷と言わざるを得ない。
別に彼女がいたからといって、私の妄想が止まることはないのだが、少しくらいは思う所が出てきてしまう。
そう思うと、少なからず憂鬱な気分になるのであった。
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