第23話 ゲームショップでの出会い②
俺の名前は
周囲には秘密だが、筋金入りのオタク野郎である。
俺は現在、電車に揺られながら窓の外を眺めている。
寮住まいであるため帰宅するのに電車を使う必要などないのだが、今日はどうしても寄らなくてはならない場所があるのである。
(……誰も、いないよな?)
俺はキョロキョロと周囲を見渡し、豊穣学園の生徒がいないかを確認する。
乗り込む時に確認したとはいえ、絶対にいないという自信は無い。
念を押して下校時刻からは少しタイミングをズラしたのだが、その分他の乗客が多いのでどうしても見落としが気になるのだ。
……しかし、見渡す限り豊穣学園の生徒は乗車していないようである。
少なくとも、この車両と両隣の車両には見当たらないので、多分大丈夫だろう……
「ふぅ……」
少しホッとして息をつく。
自分でもどんだけビビリなんだよと情けなくなるが、つい最近まで引きこもりだったことを考えれば、これでも進歩したと言っていいだろう。
(しかしながら、まさか豊穣学園に入ってすぐにこんな試練が待ち構えていようとは……)
高校生活を平穏無事に過ごすため、俺は自分がオタクであることを隠し通す予定である。
ボサボサだった髪も整えたし、眼鏡もコンタクトに変えた。今の俺は、誰から見てもごく普通の男子高校生にしか見えない……、と思いたい。
プチ高校デビューのようで少し恥ずかしい気もするが、以前のような灰色の学園生活に戻るよりはいいだろう。
そんな俺が、わざわざリスクを冒してまでこんな真似をしているのは、本日発売のゲームソフトを購入するためである。
『戦乱TUBE 5』
俺がこよなく愛する『戦乱TUBE』シリーズの最新作である。
どれ程このシリーズを愛しているかと言うのは筆舌には語りにくいのだが、一言で言うと『神』である。
そして俺は、その『神』に対する敬虔な信者と言っていいだろう。
だから、当然初回特典版も予約済で、発売日には確実に手元に届く手筈になっていたのだが……
「…………」
俺は暇つぶしがてらスマホを操作し、メールアプリを起動する。
友達などいない俺にとって、スマホはゲームや通販のお知らせを受け取るだけのツールに過ぎない。
数々届いているお知らせメールの中から、俺は昨夜届いた『発送通知』を開いた。
この『発送通知』は、『戦乱TUBE 5』が無事発送されたことを伝えるものである。
先に述べたように、『戦乱TUBE 5』は発売日に確実に俺の手元に届く手筈になっていた。
しかし、この『発送通知』を受け取るまでは、絶対の安心があるとは言えない。
だから、この『発送通知』を受け取った時、俺はその安心感から文字通り小躍りして喜んだのである。
「うぅ……」
思わず漏れてしまった呻きに、近くに座っていた老人から怪訝な顔をされてしまう。
おっと……、不味い不味い……、あの時の絶望感を思い出し、悲しみが
それ程に、あの時の絶望感は凄まじいものだった。
直前に小躍りする程の多幸感を得ていたことも、その絶望感に拍車をかける最悪のスパイスになったと言っていい。
軽く小躍りをしていた俺は、少し落ち着いた後、再度メールを読み返した。
内容は読むまでもなく『戦乱TUBE 5』が発送されたという連絡メールである。
しかし、その内容を読み進めた先に、絶望は待っていた。
お届け先:〇〇県 ×△@市 ◇□◆町6-4-2
……そう、届け先が、俺の実家になっていたのである。
俺はあまりの衝撃にスマホを落とし、リアルに膝をついた。
今思えば自業自得なのだが、正直昨日の絶望感は人生でも最高クラスと言っても過言ではないだろう。
修学旅行先で置いてけぼりにされた時の絶望感も中々のものであったが、昨日のアレはそれに匹敵していた。
上げて落とすを自らやったのだから、それも当然である。
受験の時もそうだったが、俺にはどうにも抜けた所があるのだ…・・・
自覚はあっても、中々矯正のが悲しいところだ。
しかしまあ、過ぎてしまったことは仕方がない。
あの時は勉強に必死で精神的な余裕も無かったし、発売日のことだってつい最近まで完全に忘れていたのだ。
これを機会として、他に届け先などの変更漏れが無いかを確認することにしよう。
それよりも、そろそろ頭の中身を目的へと切り替えるべきだ。
電車を降り、改札を出ると、かなり寂れた風景が広がっている。
豊穣学園の最寄り駅である竜川駅とは、比べようも無いほどのド田舎だ。
俺がわざわざこんな場所に来たのは、当然だが『戦乱TUBE 5』を購入するためである。
この場所には、俺がコッチに越してくる際にチェックしておいたゲームショップが存在する。
その店はこんな辺鄙な場所にある割に品揃えが良く、隠れた名店と言っていい存在であった。
俺のような人目を気にする人間にとっては、正にうってつけの場所と言っていいだろう
暫く歩くと、目的の店『ゲームショップ 嵐』に到着する。
店主である五十嵐さんは、無類のゲーム好きであるらしく、この店を趣味で経営しているらしい。
俺はその話を、五十嵐さん本人から直接聞いていた。
コミュ障気味の俺が何故そんなことを聞き出せたかというと、お互いのオーラを感じ取り意気投合したからとしか言いようがない。
……まあ実際の所は、あまりにマニアックな品揃えから、希少なソフトもあるのではとタイトルを告げた際、五十嵐さんに目を付けられただけなんだが…・・・
その五十嵐さんに確認すると、この店にもしっかりと『戦乱TUBE 5』が入荷されるとのことであった。
五十嵐さんは俺の質問で状況を察したらしく、二言目には「取り置きしておくよ」と言ってくれたのだ。
俺はそのイケボを聞いた瞬間、恥ずかしい話だが少し失禁しかけた。
五十嵐さんはマジでイケメンである。
俺が女だったら、あの一言で完全にイチコロだっただろう……
まあそれは兎も角として、今は『戦乱TUBE 5』だ……
今の俺は、それ以外の事など目に入らないくらい高まっている。
店に入ると、真っすぐにカウンターへと向かう。
そして、
「「店主(店長)! 『戦乱TUBU 5』を買いに来ました!」」
俺の声に、誰かの声がかぶさる。
その声の方へ振り向くと、そこに立っていたのは――
(ほ、豊穣学園の生徒……、だと……!?)
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