第41話 保健室で再会
「ありゃ、先客がいたのか……。そりゃ失礼……って、もしかして……、麻生さん?」
カーテンが開きかけていたので、つい覗き見てしまったのだが、そこにはなんと麻生さんがいた。
以前体育倉庫前で会って以来だが、こんな所で遭遇するとは思わなかった。
「ちょっと塚本君! これって立派なセクハラよ!?」
「わーーーっ! すいませんすいません! 知り合いの顔が見えたから、つい!」
確かに、寝ている生徒のベッドを覗き込むのは――それも相手が女生徒となればなおさら、セクハラと言われても仕方がない。
でも、そもそもな話、カーテンが開きかけてた時点で駄目じゃない?
それじゃ見えても仕方ないと思うんだけどなぁ……
「全く……。まあ、先客がしっかりカーテン閉めて行かなかったのも悪かったんでしょうから今回は大目に見るけど、次は許さないからね?」
「はい……」
……しかし、先客か。
それは、麻生さんの友達だろうか?
それとも、あの時彼女をイジメようとしていた二人だったりするのか……?
「麻生さん、その先客って言うのは、麻生さんの友達かな?」
「あ、はい。あの塚本先輩も、知っていますよね?
朝霧さん!?
マジかー、あの
そりゃあナイスな友達を持ったなぁ、麻生さん。
でもそれなら、そう簡単にイジメられることなんて無さそうな気がする。
だって、あの娘くらいの美人なら、間違いなくカーストの上位に位置するハズだ。
その友達になれたということは、彼女の立場も決して悪いモノにはならないだろう。
「朝霧さんね、もちろん知ってるよ。良くウチのクラスにも遊びに来るしね」
「そう、ですよね……」
ん……? なんだろうこの微妙な反応は……
「塚本君、麻生さんと知り合いなの?」
一瞬出来た間に割り込むようにして、佐和山先生こと佐和ちゃん先生が会話に入って来る。
佐和ちゃん先生はこういう間の取り方が絶妙で、中々デキル女なのだ。
「まあ、ちょっとしたことで少し」
「……麻生さんが可愛いからって、ナンパとかしたんじゃないでしょうね?」
「ち、違います! それに私、可愛くなんてありません!」
俺に対する質問に対し、麻生さんが慌てて割り込んでくる。
別にそんな強く否定しなくても良いと思うんだけどなぁ……
俺から見れば、麻生さんは十分に可愛いレベルだし。
「……そうなの? まあ私は恋愛ごとにアレコレ指図する気ないけど、犯罪行為は駄目だからね?」
「ちょっ!? 何言ってんの佐和ちゃん先生! そんなことを俺がするとでも!?」
犯罪行為って……、俺ってもしかしてそんなことするように見られてるのか!?
「まあ、がっついていそうくらいには見えるわね。……所で、何の用も無いのならそろそろお引き取り願いたいんだけど?」
がっついてる……、まあ否定はできないが……
「って、そうだ! 塚原の奴が怪我したんですよ! 喧嘩の仲裁で!」
「……それで、その塚原君はどこかしら?」
「そりゃもちろん、先行して佐和ちゃん先生に情報をお伝えするためにですね……」
「それで肝心の患者を置いてくるとか、ありえないでしょう……。吐くならもう少しマシな嘘を吐きなさい? どうせ涼みに来たとかそんな理由なんでしょ」
「うぐ……」
半分は図星であった。
まだまだ春とはいえ、昼近くとなればもうかなりの暑さである。
特にブレザーを着込んだ状態で激しく動いたりすると、蒸れて中々に気持ち悪い状態になるのだ。
だから俺は一足先に涼みに来たのである。
(……そもそも、喧嘩の仲裁などに入った塚原が悪いんだ! あんな状況、俺も混ざらざるを得ないじゃないか!)
「失礼します」
何か他に良い言い訳は無いかと考えていると、元凶である塚原の奴が保健室に入ってきた。
「遅いぞ、塚原。お前のせいで、俺が変な疑いをかけられたじゃねぇか」
「なんだよ疑いって……。血が出てるんだから仕方ないだろう」
「あら、想像してたより酷い怪我じゃない。早くこっちへいらっしゃい」
良し良し、これで追及を逃れられたぞ。
俺は少しホッとしつつ、視線を麻生さんに戻す。
麻生さんは、どう反応すれば良いのかわからない、といった様子で視線を泳がせていた。
「騒がしくしてごめんな? 体調悪いみたいだけど、風邪とか?」
「いえ、そういうワケでは……」
むむ、これはまさか、『あの日』というヤツか?
だとしたら、これ以上追及するのはデリカシーに欠けるかもしれない……
「ああ、別に理由は言わなくて良いよ? 誰だって体調崩すことくらい普通にあるからね」
俺は自ら話題を終わらせ……、ようとしたのだが、一つだけ疑問が浮かび上がってきた。
例のイジメの件である。
もしかしたら、それが原因ということもあるんじゃないだろうか?
「……あのさ、あれから、何かされたりはしていないか?」
俺の質問に、麻生さんは一瞬ビクリと反応するが、すぐに笑顔でそれを否定する。
「いえ、あの時はありがとうございました。お陰で、何事もなく過ごせています」
深々とお辞儀して感謝の意を示されると、流石にそれ以上追及するのは憚られた。
先程の反応だけじゃ正直判断できないし、どうしたものか……
「おい、塚本、終わったし行くぞ……、っとその子は?」
治療が終わったのか、顔に絆創膏を貼った塚原が俺の傍まで来ていた。
丁度良いので、紹介しておくとしよう。
「この娘は麻生さん。朝霧さんの友達らしいぞ?」
「ってことは中等部の一年生か。俺は塚原だ。よろしく」
そう言って塚原の奴は、ナチュラルに握手を求める。
しかし当然ながら麻生さんは、どうしていいかわからないようで握手に応じられないでいた。
「馬鹿野郎、いきなり上級生の男子から握手求められても困らせるだけだろ……。ゴメンね麻生さん、コイツ、天然なんだよ」
「は、はあ……」
「それじゃ、コイツの治療も終わったみたいだし、俺達は行くよ。……もし何かあったら、遠慮なく相談してくれよな?」
麻生さんから返事は返ってこなかった。
しかし、ほんの僅かにだが、首を縦に振ったような……、気がした。
◇
「……なあ、塚本、あれがお前の言っていた子か?」
「ああ、そうだ。……で、専門家様から見て、彼女はどうだった?」
俺が尋ねると、塚原は少し難しそうな表情を作り、腕を組む。
何かを考えているのか、それとも俺に言うかを迷っているのか……
いずれにしても、コイツは結構不器用な男なので嘘を吐くような真似はできないハズ。
待っていれば、そのうち勝手に話し出すだろう。
「……塚本、恐らくだが、彼女は既に何かされている可能性が高い、と思う」
「……そうか」
……そうだろうな。
俺も何となくだけど、そんな気がしたんだよ。
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