第37話 男子生徒を部屋に招き入れてしまう
クックック……
あの日以来、私は着々とリア充的イベントをこなしつつあった。
高等部三年にしてまさかの大逆転!
しかも、今日はついに男の子を自室に招き入れるという、ドキドキイベントまで発生させてしまったぞ!
…………どうしよう!?
そう、実のところ私は結構パニクっているのである。
だって、いきなり男の子を自室に招き入れるなんて、ハイレベル過ぎじゃない!?
私程度の女子力では、はっきり言って早すぎたんじゃないだろうか!?
……しかし、既に彼、
全く……、何故昨日までの私はこんな大胆なことを計画したのか……
私は意味もなく冷蔵庫を開け閉めしながら、そんな後悔の念に
明らかに挙動不審な行動である。
こんな食材的にも電気代的にも良くない行動……、普段であれば怒鳴られてもおかしくないハズなのだが、残念ながらそれをしてくれる母の姿は無い。
何故ならば、今日は両親が遅くまで帰ってこない日なのである……
つまり、彼とは正真正銘、二人きりというワケだ。
昨日までの私は、このことまでからかいのネタにしようとしていたのだから、随分と頭のネジが外れていたらしい。
(……落ち着こう。杉山君に飲み物を持っていく前に、まず私が一杯飲んで落ち着こうじゃあないか)
私は一先ず、自分用のコップにコーラをなみなみと注ぎ、一気に飲み干す。
コレで少し落ち着……っ!?
「ぶふぁっ!」
ゆ、油断した!
一気に飲み干した場合、その反動も凄まじいのが炭酸飲料というものである。
その炭酸が一気に鼻から抜ける痛みは、自然と涙が零れる程のものであった。
(い、いけない……、女の子が出してはいけないような声が漏れてしまった……。まさか、聞こえていたりしていないでしょうね……?)
流石に二階の部屋にまで届いているとは思わないが、もし部屋の外に出ていたりしたら、聞かれていてもおかしくなはい。
私は一応ドアの外に顔を出し、外の様子を確認する。
…………人の気配は無いし、大丈夫そうだ。
「ふぅ……」
軽く深呼吸をし、息を整える。
随分と痛い目を見たが、お陰で頭は少しスッキリした。
依然として状況は変わらないが、貞操の危機に陥るなんてことは無い、と思いたい。
少なくとも、昨日の私は余裕で乗り切れる気でいたのだ。
あの時くらいのテンションであれば、きっと余裕で対処できる……、ハズ……
◇
「飲み物持ってきたよ~、……って何正座してるの? 普通にくつろいでていいって言ったじゃない?」
「いや、これは、その……」
片手でお盆を抱えながら自室のドアを開くと、杉山君は畏まった様子で正座をしていた。
どうやら相当に緊張しているらしく、返す言葉もしどろもどろである。
「ふふふ……、さてはお主、緊張しておるな?」
私はそう言いながら、自分の中でホッと息を吐く。
この様子であれば、やはり貞操の危機なんてことにはなりはしないだろう。
単純なもので、相手が緊張しているとわかれば、自然とこちらは余裕が出てきてしまった。
「女子の部屋に入るのは、初めてかしら?」
そして、まずは自分から質問投げることで、会話の主導権を握る。
あとは相手を観察しながら先手を取っていけば、彼に主導権が移ることは無い。
私はいつもの調子を取り戻しつつ、ギリギリの所で調子に乗り過ぎないよう調整することを心掛ける。
「はい、どうぞ。炭酸平気だって言ってたからコーラにしたけど、大丈夫?」
「は、はい。問題ありません」
私は飲み物を差し出し、一旦会話の流れを切った。
昨日は調子に乗り過ぎ、軽はずみなことを言ってしまったので、同じ轍を踏まないよう注意を払う。
今日、こうして杉山君を部屋に誘ったのは一言で言えば『ノリ』であった。
電話中、『戦国TUBU 5』の話で盛り上がった私は、一種の興奮状態にあったのだと思う。
電話を切り、寝床に入った後も、「今日、両親いないんだ……」と彼に言ったらどんな反応するかと想像し、一人で盛り上がっていた。
そして目が覚め、冷静になった私は頭を抱えて悶えたのである。
(Coolよ……、Cool……)
だからこそ、私は努めてCoolになろう……
そう心に誓った矢先、杉山君が急に変な顔をしながら涙目になる。
……私はそれに心当たりがあり過ぎた。
「アッハッハ! 涙目になってる! 本当に炭酸平気だったの!?」
だってその様は、つい先程私がやらかしたミスと全く同じだったのである。
自分がしたミスを、他の人がそっくりそのままやるというのは、どうしてこうも面白いのか。
「へ、平気ですよ! ちょっと油断しただけです……」
「そ、ならいいけど。……それより、先に飲んじゃうのは減点よ?」
しかし、乾杯前に口をつけるのは減点対象である。
杉山君はなんで減点されたのか理解していなさそうだけど……
「鈍いわね~。決まってるでしょ? 『戦国TUBU 5』初マルチプレイを祝ってに決まっているじゃない?」
そう。初マルチプレイなのである。
その記念なのだから、やはり祝杯はあげるべきだろう。
「って、君はなんで拳を握りしめて力んでいるのかな?」
「……いえ、なんでもありません。失礼しました、乾杯でしたね」
何か変なことを考えていたようだけど、一体何を考えていたのだろうか?
「……まあいいか。それじゃ、かんぱーい!」
「……乾杯」
私がコップを差し出すと、杉山君は複雑そうな顔をしつつもコップをコツンとぶつけてくるのであった。
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